政治

イラクの子どもに医療支援を。20回目のチョコ募金、ことしもスタート

湾岸戦争(1991年)を契機にイラクで小児白血病患者が増加していることを憂慮して組織された「JIM―NET」(ジムネット、日本イラク医療支援ネットワーク。本部東京)のチョコ募金がことしもスタートした。チョコ缶13万個を用意、2200円の募金をしてくれた人に1セット(4缶)を渡す仕組みで、3800万円の医療支援につなげる。チョコ缶には重い病気と闘うイラクとシリアの子どもたちが描いた絵をプリント、中に北海道・六花亭のチョコを入れている。(依光隆明)

中東の関係地図。イラク北部、アルビルを中心に支援を続けている=JIM-NETのホームページより

背景は小児白血病の増加

JIM―NETは「日本チェルノブイリ連帯基金」「日本国際ボランティアセンター」など7団体のネットワーク組織。医師で作家の鎌田實さんが中心となって2004年に立ち上げた。発端は劣化ウラン弾が使われた湾岸戦争以降、イラクで小児白血病患者が増えていたこと。日本は小児白血病の治療技術が進んでいたこともあり、幾つかの団体がイラクで支援を始めていた。支援の重複を防ぎ、各団体をネットワーク化しようとしてできた組織がJIM―NETだ。前年の2003年にはイラク戦争が始まり、緊急支援が欠かせなくなっていた。

支援はやがてシリアの難民や福島にも広がった。事務所を置くのはイラク北部にあるクルド人自治区の主都、アルビル。主な活動はイラクの病院に薬剤を届けることで、貧困家庭への支援や院内学級の運営も手がけている。2019年にはアルビルに小児がん総合支援施設のJIM-NETハウスも建設した。現地には8人のスタッフが駐在し、他地区のスタッフも加えて12人体制で活動を続けている。

JIM―NETのホームページより。チョコ缶とその中身

缶の中には六花亭のチョコ

チョコ募金は2006年からスタートした。支援を広く、厚くしたいという願いからだ。缶にプリントするのは小児がんと闘うイラクやシリアの子どもたちが描いた絵。六花亭は北海道帯広市の老舗菓子メーカーで、マルセイバターサンドなどの人気商品を生み出している。坂本龍馬の本家、郷士坂本家の8代目となった坂本直行が包装紙の絵を描いていることで高知県にもなじみは深い。チョコ募金の趣旨に賛同し、六花亭は材料代だけでチョコを提供している。缶にプリントされた絵はJIM―NETが扱う絵はがきやドリップパックコーヒーの包装紙にも使われている。

JIM―NETのホームページより。シャームさんの紹介

「アニメの国で自分の絵が!」

缶にプリントすることしの絵はイラクの4人とシリア難民の1人が描いた。最も年長のシャームさん(16)はヨルダン国境に近いシリア・ダラアの出身。戦火を逃れてイラクに入り、家族で滞在許可を取ろうとしたときに弁護士に全財産を持ち逃げされた。シャームさんに血液の病気が見つかったのはその直後。今、貧困の中で病気と闘っている。

シャームさんが描いたのは香りのよさで知られるミモザ。JIM―NET事務局長の崔麻里さんは、「缶やコーヒーの包装紙にプリントされた自分の絵を見て『自分の絵がこんなになるんだ!』って喜んでいました」と話す。「ホームページに自分の写真が載っているのも『これ、自分だ!』と喜んでいます。彼女にとって日本はアニメの国であり、遠い遠い国です。そんな国で自分の絵が形になることをすごく誇りに思ってくれています。病状は厳しいですが、頑張っています」

JIM―NETの動画から。サヘル・ローズさん(右)とシャームさん

「まずは学校に行って勉強したい」

昨年、女優のサヘル・ローズさんがイラクに行ってシャームさんと会った。そのときの動画のリンク先(https://youtu.be/isvYZhZmjlM)がJIM―NETホームページの「チョコ募金の歴史」(https://www.jim-net.org/choco/choco_history/)に載っている。サヘルさんに「あなたの夢は?」と聞かれたシャームさんは「まずは学校に行って勉強をしたい。文化や世界のことが知りたい。英語を話せるようになりたいし、コンピューターのプログラマーかエンジニアになりたい」と答えている。「もし神様があなたに一つだけ使える魔法をくれたら?」の問いには「英語の学校に入りたい」。明るく笑顔で答えるシャームさんに、思わずサヘルさんは「あなたのエネルギーはどこからきているの?」と問う。シャームさんの答えは「私は自分が落ち込んでいても、いつも周りには積極的に希望を与えるようにしています」だった。

ほかの4人。上左から時計回りにシマさん、ムハンマド君、ラハンド君、ザリヤさん

海を見たことはないけどクラゲを描いた

ほかの4人はイラクのアルビル出身。ザリヤさん(15)とラハンド君(13)は2人で猫と猫じゃらしという1枚の絵を描いた。シマさんは花の絵を描き、最年少のムハンマド君(11)はクラゲの絵を描いた。

アルビルは海から遠く、ムハンマド君は海を見たことがない。崔さんは「写真を見ながら描いたんです」と明かす。「クラゲの絵なんて珍しいでしょう。実はクラゲの絵が一番人気なんですよ。昨日もツイッター(現Ⅹ)で『クラゲの絵が珍しい。5人にありがとうと伝えてください』というツイートがありました」。5人ともさまざまな困難の中で病気と闘っており、たとえばラハンド君はユーイング肉腫が再発するたびに希望を持ち続けて乗り越えてきた。白血病と闘うムハンマド君は、将来は小児医療の専門医になりたいと考えている。

チョコ募金のちらし。CHOCOLATE FOR PEACE!と呼び掛けている

「私たちのことを忘れないでほしい」

チョコ募金はことしで20回目。年末から年始にかけての恒例行事となった。崔さんはこう話している。

「子どもたちも親御さんたちも言っているのは『私たちのことを忘れないでほしい』ということです。それってパレスチナもウクライナも同じだと思います。私たちはたまたまイラク、シリアの小児がんの子どもたちを支援していますが、パレスチナのこともウクライナのことも忘れてはいけない。いや、忘れる前に知らなければいけないと思います。忘れてほしくないために私たちは子どもたちの絵を通して呼び掛けています。子どもたちが楽しく描いているからこそ、日本の人たちの心に届くように思います。日本の人たちも皆さん生活は苦しいけど、その苦しい中で支援をしてくれています。そのお気持ちが私たちの活動を支えてくれています」

2200円の募金でチョコ4缶を届ける(送料別)ほか、ポストカード(4枚300円)やドリップパックコーヒー(1セット550円)も申し込むことができる。

申込先はJIM―NETへ。ホームページはhttps://www.jim-net.org/  電話(平日の10時半∼16時)は03-6908-8473、FAⅩは03-6908-8474。郵送での申し込みは〒169-0075東京都新宿区高田馬場4-4-11-2Ⅽ JIM-NETチョコ募金係。

(C)News Kochi(ニュース高知)

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