高知市福井町にある子どもの遊園「あそび山」には通路橋を渡らないと行くことができない。「あそび山」で遊ぶ子どもたちも、父母も、ボランティアもその通路橋を渡っていく。ところが19年前のオープン以来、通路橋の入り口は路面にゼブラ(縞模様)をペイントして高知市が占有を続けている。高知市有地だというのがその理由だが、そこが市有地だという明快な根拠は示されていない。(依光隆明)
強硬姿勢で占有、もう19年
通路橋の入り口は「あそび山」を造った古谷寿彦さん(81)、滋子さん(79)夫妻と高知市がともに所有権を主張している。
高知市は水道局施設の土地だと主張するが、根拠となる「売買時の実測測量図」は紛失したと議会で説明している。では所有の根拠は何なのか。すでに書いたように、NewsKochiが情報公開請求で根拠書類を求めると、出してきたのは市自らが作った測量図面だけだった。この図面には国、県、市、民間の土地境界を確定した証拠が添付されていない。どうひいき目に見ても図面に正当性はなかった。つまり、少なくとも係争地は係争地のまま。その係争地を市は占有し続けている。占有の理由は「(すぐ横にある)水道局の車両の出入りに支障がある」だが、この理屈も通用しそうにない。議会でも指摘された通り、通路橋の入り口を塞いだところで水道局施設の出入りには関係ない。市長が岡﨑誠也氏から桑名龍吾氏に代わっても強硬姿勢を続ける合理的理由は見えない。
市役所が主張する水道局用地の地番は福井町字口(くち)ホソ1807番。これに対し、古谷さん夫妻は通路橋の前は1805番の民有地だ、と主張している。古谷さん夫妻が根拠とするのは公図で、公図に基づく地図を添付した上で(通路橋の入り口は1805番だと明記して)通路橋の建設許可も取った。許可を出したのは市耕地課だったが、通路橋の工事が終わりかけたときに市ぐるみで「許可は間違っていた」とひっくり返した。市が占有を始めたのは2005(平成17)年9月の「あそび山」オープン直後。当初は車止め(バリカー)まで設置していた。
電柱使用料を受け取っていない?
通路橋入り口の横に四国電力の電柱がある。プレートにある名称は「タナダ17-N2」。市はこの電柱が市有地(水道局用地)である1807番地に立っていると主張する。市有地に立っていたら四国電力は市に許可をもらい、使用料を払わないといけない。2024(令和6)年2月、NewsKochiが市に情報公開請求すると、使用許可や使用料に関する書類は「不存在」だった。つまり市は四国電力からこの電柱の使用料を受け取っていないことになる。市の土地ではないから受け取っていない、という解釈が成り立つ。
2023(令和5)年3月の高知市議会でこの問題を岡崎豊議員が俎上に載せている。「(この電柱の)設置場所と設置した当時の申請」を聞きたい、という表現だった。答弁に立った山本三四年・上下水道事業管理者は「電柱の設置場所は上下水道局の高地区加圧送水所用地である福井町1807番地と認識しております」と述べた。その根拠となるのが申請書類だが、それについては、「現存する書類を確認したところ、昭和54年10月19日の日付で四国電力株式会社から水道局に対して高知市水道局用地占用許可申請書が提出されております」と答えている。
岡﨑議員は、申請書に書かれている電柱の場所は「1810番の地先」だと指摘し、それを「1809番、8を飛ばして7、しかも通路橋の端っこに設置する。ちょっと無理な解釈」と続けた。要するに「1810番地」で許可をした電柱がはるか遠くにある通路橋の横(市役所の主張では1807番地)に立てられているなんてあり得ない、ということだ。これに対し山本管理者は「1810番地先と記載された当時の詳細は不明でございますけれども、平成7年や18年に作成されております測量図から高地区加圧送水所用地であります福井町1807番地に位置していると認識しております」と答えた。
「平成7年や18年に作成された測量図」というのは、前述の測量図面である。先に触れたように、市作成のこの図面は十分な正当性を持っていない。電柱が1807番地に立っているという根拠がこの測量図面だということは、電柱が1807番地に立っているという理屈が成立しないことを意味する。
結局、電柱が立つのは民有地?
古谷さん夫妻は四国電力にこの電柱の立っている地番等を質問したが、同社の回答は「地権者様からの直接開示要請以外は回答しておりません」だった。市有地であれば地権者は高知市民だから開示されるはず、と夫妻は考えている。「ということは、電柱が立っているのは民有地ではないか。少なくとも市有地ではない」と。
山本管理者が持ち出した昭和54年(1979年)の書類について、夫の寿彦さんは「1810番地に立っていたのは工事用の電柱」と切って捨てる。「その証拠に、その後の領収書がない。水道局施設を建てるときに工事用の電柱を建てていたということです」
「あなたどなたです?」
電柱問題を追及していたとき、寿彦さんは警察につかまりかけたことがある。以下、寿彦さんの記憶と古谷さん夫妻が入手した資料で再現する。
2015(平成17)年12月2日午後1時、寿彦さんはかつての職場(郵便局)で先輩だった男性一人と一緒に市役所に赴いた。情報公開請求した資料を開示してもらえることになっていた。寿彦さんは19年間で300を超える情報公開請求をしている。真相を調べるにはそれが欠かせないと考えたからだ。なにしろ市役所の理屈は意味不鮮明で、存在するはずの書類がなかったり、いつの間にか廃棄されていたりする。丹念に情報公開しないと市役所にとって都合の悪い書類は次々と捨てられるのである。
この日、寿彦さんら2人は3階の会議室に通された。いつもと違うな、という雰囲気だった。前方の机に水道局の職員が6人並んでいた。右から2人目の女性職員が大きな声でこう言った。「自己紹介をお願いします」。寿彦さんはこう答えた。
「なぜ自己紹介をせんといかんのですか。私のことは分かってるでしょうが」
右端の女性職員が録音機を寿彦さんの目の前のテーブルに置いた。
「あんたどうしゆが?」と寿彦さんが声を出し、3分ほど押し問答となった。と、左手の衝立の裏から男が一人出てきてこう言った。
「えらい古い話をしゆうが、何の話をしゆう?」
「あなたどなたです?」と寿彦さんが問うと、男は言った。「警察です」
「なんで警察が来なあいかん」と寿彦さんが言うと、その男は近くまで来てスマホで寿彦さんの写真を撮った。「どうしゆうが?」と言って寿彦さんもスマホでその男の写真を撮った。寿彦さんはその男に「どうして来たが?」と問い、男は「呼ばれてきた」と答えた。衝立の裏にはもう1人男がいた。
市政蹂躙の歴史を背景に
2人は刑事で、高知市役所総務課派遣・行政暴力対策室長とその部下。つまり高知市役所に詰めている高知警察署の刑事だった。
市総務課に行政暴力対策室が設けられたのは2005(平成17)年4月である。設置の背景には「特定市民」と形容される半ば暴力的な人々の存在があった。現代の言葉でいえばカスタマーハラスメント(カスハラ)に近い。
これら声の大きな人々の存在が表面に出たのは3代前の市長だった横山龍雄氏の時代であり、続く松尾徹人市長の時代にそれが拡大した。職員が勤務時間中に牛乳を飲んだだけで部長室に乗り込み因縁をつける。市役所に拡声器を持って入り、大音量でがなって公務を妨害する。職員を恐喝し、お金を出させる。市長の誕生会を勝手に企画し、幹部職員をその店に来させる。横山市長、松尾市長の時代、なんとかしなければという雰囲気が一時的に高まった。そのときに「特定市民」という言葉が緊急避難的に使われた。
最も話題になったのは松尾市長の時代である。複雑だったのは市役所側が一方的な被害者かといえばそうではなく、市の幹部は幹部でそのような「声の大きい人たち」と昵懇に付き合っていたことだ。しかもそのような幹部が出世した。
2003(平成15)年末、松尾氏のあとを継いだ岡﨑誠也前市長も特定市民問題に取り組んだ。が、そのスタンスは少し違ったかもしれない。就任早々に議会で答弁したのは「私は市民を一般市民と特定市民と区分けすることには疑問を持っている。どちらも高知市民に変わりはない」。確かにその通りだが、結果的に「声の大きい人たち」と市幹部のパイプを温存することにもつながった。「声の大きい人たち」の中には政治家もいた。岡崎市政末期には「道の駅」建設問題に絡む公文書偽造(決裁文書の日付を書き換え、岡﨑氏を含む市職員19人が虚偽有印公文書作成容疑などで刑事告発される)などの不祥事が相次ぐが、背景にあったのは「声の大きい人たち」に慮る市政の体質だ。市長がその体質に浸っていたら、体質を批判する職員の方が市役所内ではじかれる。真の被害者は市民に他ならない。
「特定市民」扱いされていた!
話を2015年12月2日に戻す。分かったのは、高知市桟橋通の市水道局から市役所総務課にいる刑事のところに女性職員2人が来て臨場を頼んだこと。寿彦さんを挑発し、誘い通りに寿彦さんが大声をあげたりしたら刑事が飛び出して拘束する仕掛けだったとみられている。
仕掛けが分かったあと、寿彦さんは驚いた。「いつの間にか自分が『特定市民』にされるところやった」と。寿彦さんが言う。
「そのあと刑事の人とは仲良くなって、一人は『あそび山』にも来てくれて、『古谷さんの言うことの方が間違いない』と言うてくれました。もう一人も『おんちゃんは嘘を言いやあせん。あしも刑事を30年やっちゅうきそれは分かる』と言いよったです」
高知市役所が警察を使うケースはその後もあった。2024(令和6)年2月、ゼブラペイントに対抗して寿彦さんが係争地に縄を張ったとき、高知市はすぐに高知署の刑事を呼んだ。駆けつけた刑事2人は係争地が市有地であることを前提に動く。うち一人は「文句があったら裁判するべきだ」と古谷さん夫妻を説教した。係争地だから言い分は半々。ゼブラペイントで市が占有しているからそれに対抗して縄を張ったのだが…。
124ページ、すべて実名
寿彦さんは、市とのやり取りを記録に残してきた。情報公開して自分なりに調べ、なにかがあるたびにそのことをつづっている。2022(平成4)年6月にはそれを元に「あそび山応援団」が124ページの冊子を出した。
題名は『千筆啓上高知市長様』。圧巻なのは、すべてが実名で書かれていること、資料をたくさん載せていることだ。生々しいくだりもあるが、「市からもどこからも抗議はない」と寿彦さん。原稿のリライトなど制作実務は坂本美和さんが担った。1980年代から高知の文化に刺激を与え続けた『月刊土佐』編集部などで活躍したベテラン編集者だ。巻末には「あそび山応援団」として9人が名を連ねている。
2020年11月と翌年3月には高知市議会の寺内憲資議員が間に入って「あそび山応援団」と市役所の話し合いがもたれた。寺内議員は「あそび山」周辺に限って高知市が交付する地図に地番重複などの異常があることを重視し、古谷さんたちに話を聞いて議会質問もした。「あそび山応援団」と市が話し合った概略は『千筆啓上』に載っているが、橋本和明財務部長は「求められているのは財務部としての回答だと認識している」「所管課が違う」と紋切り型の答弁を続けたらしい。併せて財務部は「第三者委員会の調査までは必要ないと市として判断した」とも発言している。
※『千筆啓上高知市長様』は1冊500円。古谷さんによると、高知市中万々のTSUTAYA中万々店で販売しているほか、古谷さんから直接買うこともできる。古谷さんの自宅は〒780-0965高知市福井町1589-2。
※NewsKochiの読者10人の方に『千筆啓上』を抽選で1冊ずつプレゼントします。希望者は古谷さんの自宅にはがきで申し込んでください。締め切りは8月20日着とします。