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映画「どうすればよかったか?」㊦ 患者、家族が語り合った

高知市のキネマMで2月21日から上映されている映画「どうすればよかったか?」は、当初の上映日程(27日まで)を延ばして上映を続けた。統合失調症の姉と父母に弟(監督)がカメラを向けるリアリティーに、少なからぬ人が深い感想を抱いたようだ。2月28日夜に高知市で行われた「感想を語り合う会」には患者やその家族ら約40人が出席、さまざまな思いを語り合った。(依光隆明)

「語る会」の呼びかけちらし

過半数が患者と患者家族

主催は「語る会」を準備する中で立ち上がった「日本の精神医療を考える会」。ちらしや新聞で告知し、関心のある人に参加を呼びかけた。会場の高知市たかじょう庁舎市民活動サポートセンター会議室にやってきた人は予想の約2倍。過半数を占めたのは統合失調症や双極性障害に悩む患者とその家族で、ほか県議会議員や高知市議会議員、医療職、社会福祉の研究者、教育者、報道関係者も参加した。特徴は、何かの結論を求める会ではないこと。思い思いに口を開くというスタイルで2時間半にわたって開き、複数の参加者が「このような会があってよかった」と感想を出した。

以下、会で出た発言を羅列する。録音はしていないので不正確な部分はあるかもしれない。名前も年齢も分からないので、性別だけを記す。

「ご両親がよく面倒をみた」

女性「双極性障害で精神病院に6カ月入院した。(映画の家族は)軽度の精神障害に罹患した娘さんを両親が大事に介護したということだと思う。マル!」

男性「ご両親がよく面倒をみたなあと思う。一般に、患者を入院させた家族は患者を見捨てる。統合失調症の家族と過ごすのは大変だと思う。お父さんの対応が完全とは言わないけれど、あのお父さんは最後まで看た。あれ、閉じ込めなんでしょうか」

女性「息子が都会で就職したあとに統合失調症を発症した。おとなしい子で、治療をしたあとに都会に出たらまた発症して今は家に連れて帰っている。すごく映画とダブルことがある。夫婦の関係もちょっと似てる。(息子は)前は『死ね!』とか怖い言葉を言っていたが、それには慣れた。薬を嫌がるので、納得して飲ませる方法があれば…」

男性「自分は統合失調症だが、基本的に薬は毒。前のドクターのときは薬をたくさん飲まされた。今はほとんどやめた。睡眠導入剤もやめた。陰性症状と陽性症状を抑える薬だけを飲んでいる」

「病院に連れて行くべきだった」

男性「自分はアルコール依存症。アルコール依存症の家族も(身内に患者が出たことを)隠す。家族が隠すことで治療が遅れる。(「どうすればよかったのか?」は)自分にとっては答えが出ている。お姉さんを病院に連れて行くべきだった。病院に行けばもっと回復したかもしれない。(映画には)感動した。紹介してもらってよかった」

女性「統合失調症の子どもを抱えている。感じているのは偏見だ。医療者による偏見も強い。あ、こういう扱いをされるの、と思ったことが何度もある。看護する人にそれを言うと、『自分たちの安全もありますから』と言われた」

女性「1958年生まれなので、(映画に出てくる姉と)同い年。当時、精神障害者に対しては偏見しかなかった。私自身も強い偏見を持っていたが、次男が統合失調症を発症した。当事者が自立するためにどうしたらいいかを考えるべきだと思う。親が看るのは限界がある。弟が「姉を殺すことも考えた」と言ったのは、ひとつ間違えばあり得ること。家族への支援が必要だと思う」

男性「息子と娘が統合失調症で、発症して20年たつ。昨年は娘に突然の痙攣が起き、腎臓透析が必要になるかもしれないと言われて驚き、おびえた。原因は分からない。処方される薬の添付文書を見ると、恐ろしいほどの副作用が書かれている。薬を飲むことで身体がダメージを受けることになりかねない。娘は『なるべく薬は飲みたくない』と言うが、それを訴えても医師は聞いてくれない。『(薬を飲まないのなら)退院しろ』と言われたり、『隔離する』と言われたり、猛烈なプレッシャーだ。映画を見て思うのは、この方(姉)は安心な場所にいた。家にはいつも誰かがいて、時には話し相手になってくれて、文章を書くこともできる。拘束を経験しないで済む。統合失調症といっても、引きこもりと同じような状態で長期間過ごしたのだと思う。ラッキーなのは薬の被害に遭わなかったこと。幸いだったと思う。病院に収容されると、興奮状態になったら必ずきつい薬を投与されて隔離される。そのことは経験してみないと分かりずらい。父親は北大医学部にいたので、(研修等によって)精神科について体験していたのではないか」

「衝撃がすごかった」

女性「映画はとても疲れた。もうちょっとなんとかならなかったのかと思う。自分の息子は大学3年のときに発症し、病院に入ると同時に強い点滴で悪性症候群になった。医師は『悪性症候群ではない』と言ったが、空腹時に点滴されて再び悪性症候群になった。薬をたくさん服用させられ、ほかの病気にもなった。担当医師を代えたらすごくよくなった。子どもがしんどい思いをせずに生活できるようになるのが一番いい。それを考えて今までやってきた。今は楽に生活できている」

女性「薬の問題が気になっている。うちの子は薬が効きすぎて、外に出ることができなくなっている」

女性「当事者がどうしたかったか、それを一番尊重すべきだと思う。両親が『あなたはどうしたいか』を聞いていない。何をしたいのか、決めるのは本人に任せたい。必ず失敗するが、それが経験になる。社会生活を学んでいける」

女性「映画館はほぼ満席だった。いろんな意味でしんどい方がそれだけ多いのかなと思う。お姉さんは食事なんかもきちんとなさっていたが、実際は暴力もあったのではないだろうか」

女性「統合失調症の息子と一緒に(映画を)見た。衝撃がすごくて、映画館からの帰りは(息子との)会話がなかった。息子にはあのような症状はなかった」

男性「入院中もお葬式のときもビートルズがかかっていたことが印象的だった。第三者が少し入ってというやり方はあったかもしれないが、(姉が発症した)あの時代はなかった」

男性「統合失調症は陽性症状のときは周りが苦しみ、陰性症状のときは本人が苦しむ。陽性症状が出たときには家族が治療を望む。このような会があることは心強い」

女性「姉弟の痛みも教えてくれている。弟の心の闇も見る必要があるように思う。たとえばお姉さんのいい状態のときの映像が出てこない」

男性「自分には双極性障害がある。ここ何か月は波がひどくて、映画を見たらもっとひどくなると思って見に行っていない。双極性障害のことも分かってほしい。30歳くらいのときに発症し、今68歳。双極性障害は診断が難しくて、診断がついたのは10年前だ。それまでは鬱とされていた」

「弟は寂しい人生だったのでは」

男性「タイトルの付け方が『(対応が)良くなかった』という問題提起の仕方になっている。しかしそれは弟の見方であって、必ずしも弟の見方が正しいとは思えない。当事者がどうしたかったかが一番大事だ。お姉さんは幸せだったのか、不幸だったのか。ご家族は葛藤の中で頑張られたと思う。正しかった、悪かったと決めつけられるものではない。それからもう一つ、お父さんお母さんの人生は幸せだったのかと思う。親の人生を子どものための人生にしていいのかということも考えさせられた」

男性「娘さんは医療につながらなかった。もしつながっていたらどうなったかと考える。10年間にわたって医師国家試験を受けさせられたことが出てくるが、すごいプレッシャーだったと思う。それこそドクターストップをかけなきゃいけないくらい。その重圧がなくなれば症状はよくなる。両親が医者だったということは、小さいときから暗黙のうちに『あなたは医者になる』と言われてきたようなものだ。自分のやりたかったことができない現実に悩んだのではないか。弟のことにも注目する必要がある。姉が病気になったので、両親の関心は姉に向く。病んでいるのか、落ち込んでいるのか、弟にとっては寂しい人生だったのではないか」

会場では次のイベントの告知も行った

3月29日に「第二弾」

「語る会」に続く第二弾として、「日本の精神医療を考える会」は3月29日に東京から中川聡さんを招いて講演会を開く。中川さんは妻の死をきっかけに精神医療の問題に取り組み、現在は「治療より快復を目指す」を掲げる全国オルタナティブ協議会の代表を務めている。午後1時半から高知市のオーテピア高知図書館集会室。入場無料。講演テーマは「地域保健医療をどうすればいいか」で、参加者が語り合う時間も設ける予定。問い合わせは外京さん(090-9560-6507)。

(C)News Kochi(ニュース高知)

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