高知市立長浜小学校のプール浄化装置に不具合が生じたのは2024年6月4日。プール開きの前日だった。とりあえず長浜小は5日のプール開きを中止し、他校のプールを使わせてもらう算段を始める。傍ら市教育委員会は長浜小での水泳授業を追求しようとしていた。他校か、自校か。鍵を握るのは長浜小校長の「水深報告」だった。
満水位の20センチ下だった
高知市教育委員会作成の資料によると、長浜小の一行が南海中を訪れたのは6月5日午後4時45分ごろだった。一行は長浜小の校長と、教諭3人。南海中では同校の校長、教諭が加わり、一緒にプールを調査した。プールサイドの表示で、最も浅い水深が120センチ、最も深い所が140センチと確認。この日は水が満水位にはないことも確認した。
肝心の水深調査は長浜小から持参した棒(どのような棒かは不明)を使って行った。資料には〈深い所で1カ所、浅い所で2か所水深を測り、油性ペンでマーカーした〉と書かれている。棒を水面に対して直角に立て、水面から棒が出た所に油性ペンで印をつけたと考えられる。ほか、更衣室、シャワー、器具庫、ビート板などの位置を確認した。
午後5時ごろ、南海中から戻った長浜小の一行(4人)はまずプールに向かった。資料はこう書く。〈長浜小のプールの水深を同じ棒を使って測り、同程度の深さであることを確認した〉。教諭の1人は、そのときに長浜小のプールは満水だったと記憶している。資料はこう続けている。〈また、棒のマーカーまでの長さを測り、深い所で約120センチ、浅い所で約100センチであることを確認した〉
この日の南海中のプールは満水位から20センチ水位が低かったこと、長浜小の満水位と「同程度」だったことを長浜小が把握したことになる。問題はこれからだ。教育長を始め市教委側は長浜小校長の「水深報告」を待っている。自校プールでの授業を追求するのが市教委の原則だが、南海中プールの水深によっては原則を変えるという意志を持っていたと考えられる。ところが長浜小の校長に市教委の問題意識は全く伝わっていない。その証拠に、校長には「水深報告」をした記憶がない。
報告した記憶がない?
市教委の資料には「時刻不明」でこう書かれている。〈長浜小校長は詳細を覚えていないが、これ以降、学校環境整備課職員Aと主にバスの手配のことについて、何度かやり取りしたことを記憶している〉。これで分かるのは、校長には「水深報告」をしなければならないという意識がなかったことだ。教育長が「水深報告」を待っているという意識があれば、水深を測った直後に数値を報告している。そのような意識がないから「時刻不明」であり、水深報告をした記憶もない、と考えるほかない。
水深報告に重きを置かない校長とは対照的に、市教委側は水深報告を受けたと認識している。市教委の資料にはこうある。〈学校環境整備課職員Aが長浜小校長から、1~3年生が浦戸小、4~6年生が南海中で授業すること、南海中プールの水深が長浜小と変わらないとの連絡を受けた〉。注意しなければならないのは、「1~3年生が浦戸小、4~6年生が南海中で授業すること」が「南海中プールの水深が長浜小と変わらない」の先に来ていることだ。長浜小の校長は他校プールの使用を前提に話をしている。学校環境整備課は長浜小校長が他校プール使用に前のめりになっていることを感じ取っていたに違いない。しかし校長に市教委側の問題意識を伝えていない。遠慮をしているようにも見える。学校環境整備課は、「故障があっても小学校は自校プールを使う」という原則を定めた「高知市立学校の今後のプールの在り方に関する検討委員会」の事実上の事務局である。他校プールに前のめりになっている長浜小の校長に違和感を感じなかったはずはない。
両者の意識の乖離は大きい。長浜小の校長は他校プールの使用に積極的であり、市教委は自校プールの使用という原則にこだわろうとしている。他校プールを使うという方針転換に踏み出す決め手が長浜小校長の「水深報告」なのだが、当の校長にそのような意識はない。乖離の背景を意思疎通レベルの瑕疵に求めてもそう誤りではないだろう。「水深報告」に重きを置くのであれば、市教委側は現在の水深が何センチだったかを聞く必要がある。満水位も聞かなければならない。なぜ20センチも水位が低い状態なのかも問いただし、必要なら南海中に電話して調べないとおかしい。電話一本で意思疎通ができるのに、市教委がその努力をした痕跡は見えない。
水深が大きな意味を持つことを長浜小の校長は認識しないままだった可能性がある。おそらくそのことが悲劇へとつながっていく。(続く)