中山間

高知県安田町発の地産地消映画「追い風ヨーソロ!」、7月1日に東京初上映

「地産地消」をうたい文句にした60分の映画がある。高知県安田町でロケをした「追い風ヨーソロ!」だ。一部を高知市で撮ったほかは全編安田ロケ、上映もほとんど安田だけだったのだが…。7月1日、初めて東京で上映される。オンラインで安田と結び、世界中どこからでもオンライン視聴OK。どんなイベントになるのかは、見てのお楽しみ。(依光隆明)

「追い風ヨーソロ!」の1シーン

出世に背を向けた生き様の魅力

「追い風ヨーソロ!」はかつて高知に住んだことのある愛海鏡馬さん(49)=横浜市=がプロデューサーを務めた。愛海さんは東京都立大で人類学を学び、その延長で高知市に2002年6月から2年間住んでいたことがある。小劇場で活動を続けたあと映画の世界に身を移し、福島第一原発事故後の福島県双葉町に題材を求めた短編映画「DARUMA」の監督兼プロデューサーなどを務めた。高知にいたときから興味を持っていたのは、坂本龍馬の甥(龍馬の長姉・千鶴の長男)にあたる安田町出身の高松太郎。亀山社中に参画、戊辰戦争にも参戦するなど幕末維新期に活躍した割に本人は意外なほど出世していない。おそらく出世に背を向けた人生を選んだのであろうその生き様に愛海さんは惹かれた。

「追い風ヨーソロ!」の1シーン。安田町の風景

出演より上映を選んだ男

ロケハン(撮影場所の下見)に安田町を訪れたのは2021年6月24日から数度に及ぶ。同町内京坊にある小さなお山の映画館・大心劇場で館主兼フォーク歌手「豆電球」の小松秀吉さん(73)に出会ったのは最初の訪問から1年後の2022年6月だった。大学を卒業するとき、実は小松さんは大映ニューフェイスの試験に合格している。つまり俳優になる道が開けていた。考えた末に選んだのは、ふるさと安田に戻って父親が興した映画館を継ぐこと。「出演」より「上映」を選んだのだが、演じる方にも魅力を感じていた。

小松さんと話し込んでその人柄、キャラクターにほれ込んだ愛海さんは、構想を大幅に変更する。30分の短編映画の予定を60分という短めの長編映画にし、小松さんにも俳優を務めてもらうことにして出番をたくさん作った。ロケの計画も練り直した。もちろんロケ地に大心劇場も加えた。むしろ、大心劇場を物語の中心に据えた。

「追い風ヨーソロ!」の1シーン

二つの時空を行き来する

できた脚本は、高松太郎と弟の習吉、習吉の妻の鶴井(龍馬の兄・権平の孫)を登場させる。といっても単純な時代劇ではなく、大日本帝国憲法発布の1889年と現代という二つの時空を行き来するコミカルな内容に仕上げた。問題は、ロケが1カ月後の2022年7月に迫っていることだった。ロケの予定は1週間で、それは動かせない。30分の映画を60分にするということは、撮るシーンが2倍になることを意味している。1カ月で構想を立て直してロケに突入、1週間ほぼ徹夜の強行軍で撮り終えた。

高知市のシーンに登場する子どもたちと小松さんを除く俳優は全員がスタッフ兼任で、東京組が監督を兼ねる大野仁志さんと音声を兼ねる山川竜也さん、我妻美緒さん。神戸からは撮影助手を兼ねる八洲承子さんが参加した。ほか、プロデューサー兼脚本担当の愛海さんも出演している。撮影は山梨県を拠点に活動している中村総一郎さんが専任で務め、主題歌と劇中歌(計5曲)は小松さんが担当した。総製作費は公称20万円。要するに、ほとんどスタッフの自腹でつくり上げている。映画に彩りを添えているのは安田の風景だ。安田川や森林鉄道のトンネル跡、田園風景、山々、鉄橋、神社、海と海岸線などなど、優しい日本の原風景をシャープに切り取っている。

地産地消映画と銘打った通り、「追い風ヨーソロ!」の初上映は2023年6月24日からロケ地安田町の大心劇場で行った。そのあと大阪の映画祭に招待され、2024年12月に再び大心劇場で上映。ロケ地の安田に来てもらい、ロケに使った映画館で鑑賞してもらうというスタイルを原則にしている。

7月1日イベントのビジュアル告知画像

リアルは東京・高円寺で

7月1日のイベントは、出演者のうち数人が映画評論家として知られた故・水野晴郎さんの映画塾に通っていた関係で実現した。リアルな上映会は7月1日(火)、東京・高円寺のトークライブイベントハウス「パンディット」で。ⅯⅭを担当するのは水野晴郎映画塾で塾長を務めていた西田和昭さん。「追い風ヨーソロ!」のキャストは愛海さんを始め大野、山川、我妻の東京&横浜在住組が参加する。その日は安田町の大心劇場ともオンラインで結び、そちらでは小松さんと八洲さんが待ち構える計画。愛海さんはこの日のために「追い風ヨーソロ!」の字幕を微修正、小松さんの歌う主題歌も新たにレコーディングした。

パンディットでの観覧は午後7時の開場とともに順次スタート。劇場トークのあと午後7時半からオンライン配信を始め、「追い風ヨーソロ!」の上映は午後8時から。上映終了後はアフタートークで楽しみ、午後9時半終了の予定。入場料はドリンク別で予約が2000円、当日2500円。

https://t.livepocket.jp/e/iezox

オンラインでの観覧は1日午後7時半からで、1000円。2週間はアーカイブ視聴できる。

https://twitcasting.tv/pundit_koenji/shopcart/377744

「追い風ヨーソロ!」の1シーン。安田川

「うまくいくかなあ」

小松さんはコロナ禍の2020年に安田と東京を結んだライブを試みたことがあるが、そのときは電波の調子が悪くて失敗。なにせ人里離れた場所にある映画館なので、小松さんは今回も「どうなるかなあ。うまくいくかなあ」と心配している。当日、大心劇場には観客を入れず、小松さんと八洲さんが館内に席を構えて東京のメンバーとトークをする予定。

ちなみに高松太郎は明治に入ってから龍馬の家を継ぎ(龍馬の死後養子となり)、坂本直と改名する。弟の高松習吉は龍馬の兄、権平の養子となって坂本の本家を継いだ(坂本南海男、のち直寛と改名)。坂本直寛は民権運動家として活動したあとキリスト教に入信、北海道に渡って北見地方や浦臼の開拓に携わっている。孫に菓子メーカー・六花亭の包装紙をデザインした画家の坂本直行がいる。

大心劇場で記念撮影する「追い風ヨーソロ!」の俳優たち。左端が小松秀吉さん(2023年6月)

 

(C)News Kochi(ニュース高知)

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