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高知市による民有地占拠疑惑④違法、偽造、紛失、嘘……

郵便局と県庁を勤め上げた夫妻が19年前につくった子どもの遊び場(高知市福井町の「あそび山」)に対する高知市の仕打ちは常人の理解を超えている。一時は車止めまで設置して強硬占有を続けるにしては、市の主張が空洞なのである。象徴が1997(平成9)年に造られた花壇だ。助役まで登場して「水道局用地に造った花壇だ、だから花壇まで水道局用地だ」と主張したのだが、その内実は情けないほどお粗末だった。(依光隆明)

高知市水道局の施設(左)と花壇(右)。中央の奥に「あそび山」がある

水道局用地は12.9%だけ?

花壇は「あそび山」に通じる通路橋の脇(向かって右)にあり、敷地面積は33平方㍍。通路橋に向かって左にある市水道局北部高地区送水所の敷地内に造った、というのが市の主張だった。花壇も市水道局の敷地にあるから水道局用地が通路橋の左から右まで延びている、だから通路橋の前は水道局用地だ、という論法である。その論法に沿って市は通路橋の前にゼブラをペイントして占有を主張している。

市が占有の論拠としたこの花壇、かなりルーズな事務処理で造られていた。NewsKochiの情報公開請求で分かったのは、花壇を造るための申請書や要望書の類も、さらには庁内の起案書すら作られていないことだった。唐突にラフ図面が登場し、随意契約で発注して造っていた。しかも築造場所が明確にされていない。

開示資料の中に、2019(平成31)年と翌年の「企業用固定資産使用許可(更新)申請書」と2021(令和3)年から2024(令和6)年までの「企業用固定資産の使用に関する協議書」があった(それ以前の申請書類は「5年保存」に沿って廃棄されたらしい)。市みどり課が水道局用地の一部を借りるための書類で、毎年申請する必要がある。

申請書(協議書)にある許可申請面積は4.25平方㍍だった。花壇の面積は33平方㍍なのに、なぜ4.25平方㍍だけを使用許可申請するのか。書類を見ていくと分かった。

33平方㍍のうち、水道局用地は4.25平方㍍(12.9%)だけ。ほか、水路敷が5.53平方㍍、里道敷18.75平方㍍、農道敷5.44平方㍍。しかし2005(平成17)年5月、「あそび山」を作った古谷さん夫妻は山下司助役ら多数の市幹部から33平方㍍すべてが水道局用地だという公文書を見せられている。4.25平方㍍と33平方㍍では全く違う。

食い違いの原因が公になったのは2006(平成18)年9月の市議会厚生委員会所管全体委員会である。作家としても知られた楠本正躬議員(2021年死去)がこの花壇を丹念に追及した。このやり取りの記録(テープを起こした公文書)を探すと、市議会事務局がすでに廃棄していた。理由は「10年保存」(10年たてば廃棄OK)で、2024年6月段階で市が残しているのは翌2007年以降に開かれた委員会のみ。つまり公には抹殺に等しい状態になっていたのだが、古谷夫妻は廃棄前に情報公開請求によって入手していた。それを基にやり取りを再現する。

「あそび山」から公道に出る通路橋。市は橋の向こうにゼブラをペイントして所有権を主張している。水道局施設(右方に存在)の障害になることを理由に一時は車止めを設置、通路橋の撤去まで求めた

花壇は違法建造物だった

楠本議員が明らかにしたのは違法な市の事務処理だった。

たとえば産田節雄都市整備部長は「(農道の)外側の路肩部分に花壇を設置した」と答弁した。「いわゆる道路の路肩の部分になろうかと思いますんで、その部分を使ってやったんだろうというふうには思っております」と。しかし2005年5月に山下助役や筒井章允水道事業管理者ら市幹部が持ち出した地元町内会の「行政財産目的外使用申請」は水道局に対して出されたものであって、農道の使用許可ではない。農道に造るのなら道路の管理者に向けた申請書が要るし、農道の変更手続きも要る。それが出ていなかったら違法である。「現在は違法構造物という解釈でいいか」と問う楠本議員に、産田氏はこう言った。「現在は各所管に手続きを踏んで許可を取った施設になっております」。過去には違法だったが、すでに違法状態は脱しているという意味だ。

先に見たように、花壇の敷地33平方㍍のうち水道局用地は4.25平方㍍。ところが市は花壇の敷地すべてが水道局用地だと解釈し、水路敷や里道敷も使って大きな花壇を築造した。つまり無許可建造物、違法建造物である。あまつさえその違法建造物を根拠に古谷夫妻を呼び出して市の所有権を主張する。にわかには信じられないが、それをやっていた。一般市民が里道(いわゆる赤線)や水路敷(青線)、農道の上に無許可で建造物を造ったら行政から即時撤去を求められる。場合によっては刑事訴追される。それはいわば当然であって、青線や赤線は藩政時代からの公共財なので勝手な築造が許されるはずはない。

楠本正躬議員に対する筒井章允水道事業管理者の答弁。(1997年の花壇築造時に)許可した面積は5.4平方㍍だったと強調している

公文書偽造の疑いも

さらに問題は、この委員会で筒井章允水道事業管理者が「(1997年の花壇築造時に)維持管理上支障のない最小範囲の5.4平方㍍、当時ですが、は許可してもいいだろうということで許可した」と答弁していることだ。

1年前の2005(平成17)年5月、古谷さんを市役所に呼び出したとき、筒井氏は花壇の敷地として水道局用地のうち33平方㍍を地元町内会に使わせているという書類を振りかざして所有権を主張していた。古谷さん夫妻が入手したその書類にははっきりと33平方㍍と書かれている。ところが筒井氏は議会の場で「管理上支障のない最小範囲の5.4平方㍍」だけを貸したと答弁した。これはどういうことか。虚偽答弁か、偽の書類を作って古谷さんに嘘をついたのか。

お役所が偽書類を作るなんて想像もできないが、実はその可能性がある。のちに古谷さんは情報公開請求によって2つの文書を入手する。起案日(平成17年3月31日)も決裁日(同年4月1日)も同じ、起案者も判を押した人物も、文面も同じ。違うのは許可面積が33平方㍍と5.4平方㍍になっていることだけだった。5.4平方㍍の方には最後に手書きの注釈がこう入っていた。

〈平成17年3月15日付で申請のありました〇〇町内会の花壇に係る使用許可は指令書を出そうとしていたら、おかしいということになり、面積を33平方㍍に修正して返信したが、その後、元の5.4平方㍍であることが判明したので、許可面積を再び5.4平方㍍とする〉

起案日も決裁日も同じということは、同じ書類を2つ作っていたとしか解釈できない。都合のいい書類を市民に対する説明用とし、もう一つの書類に「やっぱりこっちが正しい」と注釈を入れておく。普通に考えればそうとしか考えられないが、明確な公文書偽造である。

もうひとつ気になるのは、市がNewsKochiに開示した資料の中に産田都市整備部長が「各所管に手続きを踏んで許可を取った」とする書類が一切ないことだ。楠本議員の質問に対し、産田氏は「農道、水道局、それから管財課の用地もございますので、(許可は)全部とっております」と回答した。しかし開示資料にそのような書類はない。許可を取っているのなら書類がないはずはない。書類があるのなら開示されないはずはない。

33平方㍍が明記(最下段)された市の起案書。議会では5.4平方㍍の使用を許可したと主張する一方、市民に所有権を主張する際には33平方㍍の書類を見せていた

修景のため?不法ゴミ対策?

楠本議員は、なぜ花壇を造る必要があったのかについても迫っている。

久保一夫みどり課長は「鴻ノ森墓地公園の進入路の修景を高めるため、地元の方からの要望もあり、周辺で施工した岩石を利用して花壇を造った」と答弁した。楠本議員が「事前回答では不法ゴミ対策で設置したとなっているが」と問うと、産田都市整備部長が「ゴミの不法投棄とか、そういうもんがあった中で、そういう整備をしてきた」と答弁を修正。ゴミの不法投棄になぜみどり課が対策するのか、と追及されると「ちょっと明確にわからないところでございます。すいません」と釈明した。

開示書類と答弁を見る限り、花壇を造る動機は判然としない。誰が造ることを決めたのかも分からない。誰が花壇の規模を決めたかも分からない。信じられないことに、築造する土地の所有権者も調べていない。「通路橋が水道局の邪魔だ」と撤去まで求める一方、すぐ傍らに巨大な花壇を造る意味も分からない。いったん許可をした通路橋の撤去を求めながら、市自らは赤線や青線を無視して花壇を造っても誰も何ら責任を取らない。

楠本議員は言葉に怒りを込めた。「違法な、農道の上に長い間構造物をそのまま置いて、言われて初めてあちこちに許可を願い出て、今は問題ないじゃというて話を平気でできる。こういう体質が私は問題だと思うんです」

5.4平方㍍を明記した書類には、末尾に「こちらが正解」的な手書きの注釈が入っていた。同じ日に起案、決裁した2つの書類を市が使い分けていた可能性がある

「実測図について、紛失しております」

楠本議員は1979(昭和54)年に水道局用地を取得したときの実測図についても追及した。的外れな答弁をしようとする水道局長を「いやいや、聞いたことに答えなさいや」と制し、こう続けた。「いいですか、実測図がない。本来用地を買うときは境界を確定して、それから要するにどのくらい面積があるかというのを確認をしながら実測をして買うんでしょう。それを実測図がないということはどんなにして買うたかということを聞きゆうんやき、もっと素直に答えなさいや」

筒井章允水道事業管理者はこう答えた。「当時の決裁書の中には一連の書類がございますが、その中で実測図について、これが紛失しております」。1979年の取得エリアを特定するには実測図が欠かせない。その大切な実測図を紛失したことを公の場で明らかにしたのだ。かといって謝罪の言葉はなく、もちろん誰も処分されていない。

花壇築造の申請を地元町内会が出し、実際は市みどり課が造っていたこと、それでいて毎年の使用許可願いは町内会が出していたことも楠本議員は追及した。本来はみどり課が使用許可願いを出すべきなのに、地元町内会が出すのは「虚偽の申請」ではないか、と。市は2006(平成18)年3月までそれを続けていたことを認め、楠本議員は「これは違法行為でしょうが。虚偽の申請でしょうが」と憤った。さらに花壇の築造地が水道局用地であれば、「町内会に目的外使用で貸すことは禁止されておった」とも指摘した。

関連して下元博司議員が「みどり課が水道局に対して占用申請すべきものを町内会が出すということは、嘘なんでしょう、中身が違うわけですから」と質問。筒井章允水道事業管理者が「即詐欺行為であるというふうな解釈は、私その時点では考えておりませんでした」と述べた。下元議員は「詐欺というふうな思いは(私は)持っていない」と応じながら、地元町内会による申請書を「嘘の申請」と表現した。

退職夫婦が造った「あそび山」。公道から通路橋を渡れば子どもたちの楽園が広がっている

「市民を応援するのが市政じゃないか」

この委員会には岡崎誠也市長も出席したが、歯切れの悪い意味不明瞭な答弁を繰り返している。たとえば水道局が通路橋に車止め(バリカー)をした件はこんな具合。

「先ほどからいろんな課題になっております、ここのいわゆる送水所としての機能に支障がない状況をまず確保しなければいけませんので、やはり現在ではいろんな意味でそこに駐車されると進入路がふさがれるという危険性があるということで、水道局はバリカーを設置するところまでいったわけですが、やっぱり本来の目的がそこで支障がないという条件のもとでいろんな判断があるというふうに考えております」

これを受けた形で下本文雄議員はこう述べた。

「一連のお話を聞く中で、バリカーそのものが不自然だということがいよいよ明らかになったのではないかというふうに思いますし、仮にバリカーを置いたとして、あの前に車をとめないという保証があるんですか。逆に、あのバリカーの前にたくさんの車がとまったらどうするんですか。そういう管理の仕方が本当の管理のあり方かどうか、ここはやっぱり考えてみる必要があると思うんです」

続けて下本議員は「あそび山」と市政の本質に触れた。

「あの奥には子どものあそび山、個人の方が自分の退職金を投げうって、そして買った山なんです、つくった山なんです。そして、橋もすべて自分の退職金をなげうってつくった橋なんですよね。しかも、そういうふうなことを一生懸命やる、子どものためにと思って、この少子・高齢化の時代に、それを応援するのがやっぱり市政じゃないかと。逆に、市政の事務的な手続きやさまざまな不備がこれだけ明らかになっておるのに、そのことを逆に、そうした子どものためを思って一生懸命やろうとする、そういう立場の住民に押し付けていくってのは、こんなやり方は逆じゃないかと。市政は暮らしや住民を応援せないかんじゃないですか」

違法、偽造、紛失、嘘、不備、にわかには信じられないほどお粗末な事務処理を重ねながら、高知市は市民に対して強硬だ。市長が桑名龍吾氏に代わっても、係争地の占有だけはいまも続けている。

楠本議員の質問(上)に対する山下司助役の答弁。花壇に占める水道局用地の面積がころころ変わった問題について「事務がずさん」だったと答えている

(C)News Kochi(ニュース高知)

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