中山間

学校給食から3割のマージンを取る!? 値上げに揺れる「聖地」今治

戦後、子どもたちの栄養状態を大きく改善したのは学校給食だった。その役割は今も色あせないだけではなく、注目度はむしろ高まっている。少しでもいい学校給食を、と願う人たちが長く目を注いできたのは愛媛県今治市の取り組みだった。その今治市が給食費値上げ問題を皮切りに揺れている。行政文書で明らかになったのは、3割以上のマージンを取る団体の存在だった。(西原博之)

今治市農林水産課が作成した地産地消と食育推進のパンフレット

全国に知られた「学校給食の聖地」

地産地消の減農薬食材導入や自校方式への転換など、今治市は全国屈指の先進事例を積み上げてきた。学校給食を改善しようとする自治体職員や父母、地方議員にとっては、いわば「学校給食の聖地」。見学者も全国から後を絶たない。

今治市の学校給食は市民運動の果実だった。同市農林水産課のパンフ「地産地消と食育のすすめ」はこう経緯を綴っている。

「今治市の食と農のまちづくりの取組は、約40年前の消費者運動や農民運動などの市民運動に端を発しており、行政主導ではなく市民の取組として発展してきた」

その通り、1981年に市民グループ「今治くらしの会」が給食の自校化運動に取り組み始めた。運動の過程で今治立花農協(現JA今治立花)も大型給食センターの建設に反対。運動は拡大し、既存の給食センターで大量に作られていた給食を、温かく体に優しい自校式に転換するため保護者と生産者が一体となって行政に働きかけた。

2年後の83年、今治市は1964年から稼働させた給食センターが更新期を迎えたことを契機に自校式給食への転換を果たす。今治市が「聖地」とされるのは、併せて学校給食の素材にもこだわり続けてきたからだ。83年の自校方式スタートと同時に、今治市は地元の有機農産物を学校給食に導入し始める。有機食材導入の動きはやがて本格化し、現在ではコメが100%今治市産特別栽培米、小麦の9割も今治市産。豆腐の大豆も今治市産。野菜もできるだけ有機JAS認定のものを使っている。一般に学校給食はコストとロット(大量画一)を考えて素材を購入するのだが、今治市は全く違う価値観で学校給食を行ってきたことになる。だから「聖地」なのであり、現在の学校給食づくりにかかわった市民らはわが子のように学校給食をいつくしんできた。彼らの心には「子供たちの健康は、自らの信念と運動で守ってきた」という自負がある。

ゆうき給食を進める会の学習会。子どもたちの未来を見据えて話し合う

発端は突然の値上げ提案だった

その学校給食に疑問の声が噴き上がるきっかけは、市教育委員会が給食費の値上げを提案したことだった。保護者らは驚き、疑問を抱き、勉強会を始めた。子育て支援の推進政策として全国の3割に上る自治体が給食無償化を実現している中、なぜ値上げなのか。

調査の主体は保護者らでつくる「今治市のゆうき給食を進める会」だった。2024年1月、同会は早急な公開説明会の開催を求める要望書や質問状を教育長宛てに出した。説明会が実現しなかったため、同会は保護者負担を増やさないように求める徳永繁樹市長宛ての要望書を提出する。そんな動きの傍らで、中学校長やPTA役員らで構成する市学校給食運営審議会は「食材費の高騰」などを理由に1食当たり小学校50円、中学校55円の値上げを答申した。値上げが実施されれば小学生で1食270円、中学生が305円となる。学校給食運営委員会が承認し、3月議会で議決されれば10年ぶりの改訂だ。

唐突な値上げには納得できない、として同会が集めた署名は約2週間で3146人分。請願書とともに市長に提出し、国の交付金などを値上げ分に充当するように訴えた。実はこの署名簿の趣意書の中に「学校給食会に支払う食材の流通経費を明らかにして、『仲介費』にではなく、直接子どもたちの食材費」に使うように求めるくだりがある。ここで「学校給食会」なる組織の存在が明記された。

今治市学校給食課が作ったパンフ。学校給食会による価格決定を明記している

補助金の3割が消え、流通マージン36%

学校給食会を明記するきっかけは、情報公開請求した文書だった。

同会の内山葉子市議は3月議会の議案説明会で「国の交付金がありながら、なぜ値上げなのか」と市に質した。が、明確な回答はなし。会は市に対し、学校給食を取り巻くあらゆる行政文書を開示請求して入手。1000ページにも及ぶその書類を丹念に分析した。明らかになったのは、これまで目にしたことのない組織の仕組みだった。

たとえば「今治市学校給食地元産減農薬米等補助金交付要綱」では、予算の範囲内での補助金交付をうたい、他の目的に使用してはならないと規定している。一方、市学校給食課が見学者用に作成しているパンフ「今治市の学校給食」には今治市産減農薬米の供給フロー図があり、その中で「(財)愛媛県学校給食会」が学校給食用のコメの価格を決定すると明記していた。本来、前述の学校給食運営審議会と同運営委員会が決めるはずの給食価格に影響を与える学校給食会とはどんな組織なのか。

同会の阿部悦子さん、野口千恵美さん、中野愛子さんらが軸となり、生産者である愛媛県有機農業研究会理事の長尾見二さんらの証言などを基に、食材購入費などが決まるシステムを追跡した。

まず補助金について。令和4年の減農薬米への補助金は、キロ当たり45円。しかし長尾さんによると、JA今治立花の農家受取額は約31円だった。差額は13.5円で、補助金の3割が消えていた。米の年間消費量は94380㌔だから、合計127万4130円が流通のどこかで消えた計算になる。消えた先は学校給食会か、あるいはJAか。今治市補助金交付規則には3条で「公正かつ効率的」な運用を求めている。また前述の交付要綱では「他の目的への使用」を禁止している。3割もが消えている現実は、規則にも要綱にも抵触している可能性が高い。

次にコメの価格。減農薬米を含む地域産米の農家受取額はキロ当たり235円だった。入手した文書では、学校給食会が決めた価格(給食への売価)はキロ当たり369円。年間消費量に換算すると農家の受取額が約2218万円で、学校給食会の売価は約3483万円に達する。学校給食会に入る差額は1265万円で、マージン率は36%。巨額である。運搬費や食材の検査料を差し引いてもこの額は大きい。

ウンカが大発生した年も、右手の長尾さんの無農薬米は力強く育っていた(2020年、左は慣行栽培)

「3割も抜かれたら気持ちの整理ができない」

無農薬米を作り続けている長尾さんが、やりきれない思いをぶつけてきた。「無農薬米の生産は手間暇がかかり、経費も要る。補助金を全額受け取っても採算に合わない。子どもたちの健康と発育のため、と思って供給している。マージンを3割も抜かれたら気持ちの整理ができない」と。丹精込めて作る米は、気候変動にも害虫にも強い。2020年にウンカが大発生したときにも、長尾さんの圃場はびくともしなかった。

こうして作られたおコメのありがたさを消費者は知っている。生産者への感謝を抱いてもいる。保護者らは、農家に支払われるべき対価がマージンに吸い取られることに大きな疑問を持ち、生産者は理不尽を訴える。それらの気持ちが署名につながった。

ゆうき給食を進める会が情報公開で入手した行政文書。1000ページを超えた

精米費+輸送料+人件費+事務費=36%?

愛媛県学校給食会は1955年、コメやパンなど学校給食用の物資を安定供給するために発足し、食育推進や児童生徒の健全な心身の成長などを目的として運営されてきた。評議員10人、監事2人、理事11人という役員構成で、県職員OBやPTA連合会の役員などが就いている。前知事の加戸守行氏も長年会長職を務めていた。仲介費(マージン)について、同会は「仲介費とは理解していない」と説明。その上で、こう話す。

「JA全農えひめから玄米を購入し、経費としては精米費や輸送料、人件費や事務手続き費用などをマージンとしていただいている。市役所と農家の直接取り引きになれば、省けるところはあるだろう」

近年はしかし、組織の硬直化などで柔軟な学校給食の提供に対応できない事例も発生している。福岡県では2020年から学校給食用の米飯、パン、牛乳を業者からの直接購入に変更した。食品アレルギーへの対応など柔軟な運用ができ、購入費は年間約5500万円削減できた、としている。ペーパーマージンと言っては言い過ぎだが、学校給食会を通すだけで36%というマージン率は高い。学校給食会の実態を知れば、全国の自治体で同様の見直しが進む可能性がある。同会の阿部共同代表も「今治市の例を起点に、県全体で、全国で学校給食の現状を把握し、改善するためにさらに取り組みを進めたい」と話す。福岡市でできたことが他の自治体でできないはずがない。阿部さんが市の担当者に糺すと、「福岡はうちと違って大きな自治体ですから」という返答だった。

今治市の学校給食は各地各校の調理場で丁寧に造られている。栄養士が旬やバランスや子どもの好みを考慮してメニューを考え、調理士が気持ちを込めて作る。今治市では冷凍食品を極力排除し、ハンバーグやデザートなども手作りする。生産現場も調理現場も、子どもたちの健康を願って取り組んでいるのだ。子どもたちに届くまでの間に「マージンがあっていいはずがない」と阿部さんたち「進める会」のメンバーは言う。

タマネギ畑を手入れする長尾さん。子どもらがすくすくと育つように願いを込める

今治市議会、注目の採決は3月25日

氷雨の降る日、長尾さんとともに農園に立った。青々と育っている小麦を、収穫前の玉ねぎを、ニンジンを、そして田植えを待つ圃場を、長尾さんは愛おしそうに見つめる。収穫前の玉ねぎを手にとる。猛暑の中でも、極寒の中でも、作業は一刻も手を抜けない。丹精込めた安心で安全でおいしい作物を、直接子どもたちに届けたい。しかし長尾さんら農家の願いを3割ものマージンがさえぎってしまう。長尾さんら生産者の気持ちに曇りが生じてしまう。

学校給食費の値上げ問題は、開催中の今治市3月議会で審議される。注目は値上げの賛否と請願書の扱いだ。市民の注目の中、3月25日に採決される。

学校給食会に関しては、今後も適時リポートしてゆく。

(C)News Kochi(ニュース高知)

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