シリーズ

高知県の行政不服審査を検証する⑤遂に訴訟の舞台へ

行政不服審査法に基づく高知県教育委員会の裁決に数々の疑問を見出したAさんは、最後の手段に出た。(依光隆明)

政府広報オンラインより。「裁決」に不服がある場合は裁判ができると定められている

「裁決」の取り消しを求める

2025年4月14日、Aさんは高知地方裁判所に民事訴訟を提訴した。被告は高知県で代表者は高知県教育委員会。その代表者を「教育長 今城純子」とした。事件名は行政不服審査裁決取消請求事件。損害賠償額は160万円。弁護士に頼まず、本人訴訟で臨んでいる。

事件名の通り、求めるのは「裁決」の取り消しだ。

県内に住むAさんは県教育委員会に情報開示請求を行い、その結果(非開示処分)に納得できなかったため2024年2月に行政不服審査法に基づく審査を請求した。

非開示処分の是非を審査する審査庁も県教委だった。第三者機関の行政不服審査委員会の答申と審査庁が出した裁決書の相違などに疑問を持ったAさんは、県教委に質問書を出す。審査庁(県教委)は誤りを認め、2024年12月にAさんへ「裁決書の更正について」という通知が届いた。大幅な内容変更を、更正によってすでに行ったという趣旨だ。裁決、更正という一連の経緯に違法性を感じたAさんが取った最後の手段が民事訴訟だった。

訴状は最高裁判例を引用しながら「更正」の違法性を指摘している

「裁決」は判決。簡単には修正できない

訴状によると、Aさんは違法行為として幾つかの点を挙げている。

一つは審査庁(県教委)による裁決書の更正。〈「認定した事実」と「論点に対する判断」に大幅な書き換えがされた。判決における事実認定とは、判断の前提となる主要部分であるから、裁決書の更正により、裁決の理由の主要部分を書き換えたということができる〉と裁決が大幅に改変されたことを指摘。〈そもそも、裁決の効力は、争訟手続きを経てされる処分であるという性質上、裁決をした行政庁自身を拘束し、自らこれを変更することはできないとされている〉〈裁決書を更正することができるのは、裁決の同一性を害しない限り、計算上の誤りや書き損じ等があった場合である〉と論理を展開する。

要するに、内容を大きく変えるような「更正」はできないと主張する。続けてこう書く。

〈それは、裁判において、下級審の判決と異なる決定を得るためには、上級審に訴える必要があることと同様である。下級審において、一度判決が下ったのちに、判決文を同一の裁判所において何の手続きもなく書き換える行為はあり得ない〉

その上でこう断じた。〈「裁決書の更正」は、「主文」「認定した事実」「判断」を大幅に書き換え、「教示」を削除するものであるから、裁決の同一性を害する重大かつ明白な瑕疵がある違法行為というべきであり、無効である〉

行政不服審査のチャート図。審査請求人がAさんに当たる。今回の場合、処分庁も審査庁も県教育委員会。審理員のところにも教育委員会が入る=政府広報オンラインより

「被告」が判決を書くのはおかしい

二つ目は「被告」と「裁判官」が同一人物だったこと。前回見たように、非開示処分を起案した処分庁(県教委)の職員と、裁決書を起案した審査庁(県教委)の職員は同一人物だった。処分庁が下した処分の是非を審査庁が審理して裁決書を出すので、「被告」側の一人が裁判官を務めている図式となる。訴状はまず法的根拠を示して〈審査請求に係る処分に関与した職員は、「その職員」から除斥(じょせき)される〉と指摘する。

「その職員」というのは審査庁で審理手続きを行う職員のこと。処分に関与した職員は除斥=排除しなければならないという意味だ。では「審査請求に係る処分に関与」とはどういう内容か。訴状は以下のような東京高裁の判決を引用する。〈(処分庁の)判断に関する事務を実質的に行った者や、当該事務を直接又は間接に指揮監督した者をいうものと解すべきである〉〈上記除斥事由に該当するか否かは、当該処分の決定に実質的に関与したか否かという観点から判断すべきであり、審査請求の対象となっている処分に係る協議に参加した者や当該処分の決定に関する相談等に応じ、これに対する意見や法令解釈を示した者は処分に関与した者に該当する〉。今回の場合は非開示処分の事務(協議、相談等)に携わった者およびその上司になる。

東京高裁の判決を引用した部分(訴状より)

重大な手続き上の瑕疵があり違法

それを踏まえ、訴状は多数の証拠書類を挙げながら〈本件裁決においては、本件処分、審理手続き、裁決書作成手続きにおいて、同一の課の同一の職員が関与したことが明らかである〉と断じている。結果、〈本件裁決には、行政不服審査法の趣旨に反する重大な手続き上の瑕疵があり、違法なものといわざるを得ないから、その余の点について検討するまでもなく、取り消されるべきである〉とした。

この二つだけではなく、訴状は処分の発信者が教育長となっている点、教育長が専決処分している点の「瑕疵」を指摘。〈権限の正当性がなく、主体に瑕疵のある行政行為であり違法である〉としている。

訴状の結語

県民にとって放置は著しい不合理

前段にある〈本件裁決の違法性について〉と題した項で、訴状はこう訴えている。

〈行政行為が成立するためには、主体、内容、手続、形式のすべてが適法かつ正当に行われることが必要である。この行政行為の成立要件のいずれかが欠けることを行政行為の瑕疵という。行政行為に瑕疵がある場合、その行政行為は、無効又は取消すことができる行政行為となる。しかし、行政行為には、公定力と不可争力があるから、国民が訴え出ないかぎり行政行為の効力が存続することとなる〉

〈高知県教育委員会のなした本件裁決について、適法性又は正当性に欠ける瑕疵が存在するならば、行政行為として成立しないから、それを放置すれば、県民にとって著しい不合理である。そこで、原告は、以下のとおり本件裁決に適法性又は正当性に欠ける瑕疵があることを明らかにし、その違法性を立証し、効力を否定し、取消しを求める〉

行政相手に、しかも本人訴訟で民事訴訟を起こすのは極めてハードルが高い。それを承知でAさんは提訴に踏み切った。裁判の行方に動きがあり次第、続報を掲載する。

(C)News Kochi(ニュース高知)

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