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なぜ学校で…。高知市立小プール死をめぐる疑問➅唐突に修理日程が…

高知市立長浜小学校4年の男子児童が水泳の授業中に亡くなってもう2カ月。悲劇を繰り返さないためには真摯に、迅速に「なぜ事故が起きたのか」を検証する必要がある。学校現場や教育委員会にとって、自らの血を流すことになろうとも検証しなければいけない。市役所も同様だ。組織防衛の危機管理モードに入ってしまったら、亡くなった児童に顔向けできない。(依光隆明)

高知市が学校プールにかけている平均年間予算。電気代と水道代を除けば1校当たり20万円弱=「高知市立学校の今後のプールの在り方に関する答申書」より

背景に高知市の財政問題

おさらいしておこう。

事故があったのは2024年7月5日。高知市立南海中学校のプールで長浜小4年の水泳授業が行われていたときだった。南海中のプールを使った理由は、長浜小プールの濾過ポンプが故障したこと。業者が故障を発見したのは6月4日で、そこから高知市教育委員会と長浜小が動き始める。プールが故障したときの対応策は前年11月に出た「高知市立学校の今後のプールの在り方に関する答申書」で示されていた。当然、答申に従って動く必要があった。

答申書への流れを遡ると、実は高知市の財政問題が横たわっている。学校プールの納入に携わった業者によれば、高知市の特徴は納入されたあとのメンテナンスにお金をかけていないこと。学校プールの素材は、耐用年数が短期のアルミ、ステンレスから耐用年数が長いFRP(繊維強化プラスチック)に代わっていった。しかしメンテは欠かせない。そこに高知市は力を入れなかった、と業者は指摘する。「耐用年数が50年でもメンテさえすれば70年もつ。ところが高知市はメンテに予算をかけないから一気に各校のプールが故障し始めた」と。今回の事故についても、この業者は「市がプールに予算をつけなかったことが原因」と断じた。プールの老朽化に伴い、2023年4月1日に当時の市長(岡﨑誠也氏)は「高知市立学校の今後のプールの在り方に関する検討委員会条例」を公布。検討委員会が組織されたあと、同年5月10日に市教育委員会が検討委員長(柳林信彦高知大副学長)に対して「高知市立学校の今後のプールの在り方について」を諮問した。6度の委員会を経て11月7日に出したのが「高知市立学校の今後のプールの在り方に関する答申書」である。学校プールの更新には億単位のお金がかかる。しかし教育は大切だ。市としては支出を絞りたい中、どう折り合いをつけるかという議論が主軸だった。県外の事例も交えながら、他校のプールを使う案や公立プール、民間プールを使う案も多角的に検討している。委員には学校現場の管理職や教育団体、PTAに加え、市の財務部、都市建設部の課長クラスも就いていた。

議事録を見ると、「水泳授業は必要だ」という認識を前提にさまざまな角度から検討がなされている。最終的に決まったのは、「小学校は故障を直して自校プールで水泳授業を続ける」だった。

市教委の聞き取り資料から。唐突に修理日程だけが記載されている

修理への動きがない?

聞き取りに基づく市教委の資料で違和感があるのは、「プールを直す」ための動きが見えないことだ。資料のどこを切り取っても修理に力を尽くしたようには見えない。故障が分かった2024年6月4日、長浜小校長に「今シーズンは使えない」と報告した人物も、その人物にそう伝えたであろう業者も分からない。その言葉にどれほどの重みがあるかにも疑問がわく。「今シーズンは使えない」という言葉が事故の遠因となったのに、それにしては言葉の扱いが軽いのだ。

「今シーズンは使えない」が事実だったのか、本当に業者が言ったのか。そんな疑問が膨らむ記述が市教委資料にある。

長浜小の4年生が初めて南海中プールで水泳授業をした6月21日の1週間後、南海中で2回目の水泳授業が行われた。その日、6月28日の冒頭に市教委資料は濾過ポンプの修理について触れている。同日午前10時ごろ、として以下のように書く。

〈学校環境整備課職員Aが長浜小校長に、濾過ポンプの修理日程が7/18、19に決定したことを連絡した〉

唐突に7月18、19日という修理日程が出てくるのだ。市教委はこの資料のタイトルを「事故の経緯」としている。答申書に重きを置くなら、少なくともプール修理をめぐる経緯も載せる必要がある。どの部分がどう故障したのか、どの程度の故障だったのか、最速何日で復旧できるのか、早期復旧に向けて誰がどのように動いたか、業者はどこか、ほかの業者には当たったのか。そのような記述が一切なく、いきなり2日間の修理日程が決まったことのみ記載された。早期復旧への手立てをしていないから書けないのではないか、2日で修理できる可能性があるのなら業者に頭を下げて修理日程を前倒ししたらいい、それが実現していたら長浜小プールで授業ができたのではないか、などの疑問が浮かんで消えない。

この記載以降、修理に関する記述はない。

南海中のプール

2回目授業は「危険なし」

南海中プールでの水泳授業に戻る。

6月28日午前、4年生の2回目。この日はA教諭、B教諭に加えて長浜小の校長も授業に加わった。A教諭とB教諭は前回と同じく南海中プールが満水(120~140センチ)だったことを確認した。校長が満水位を認識していたか否かは市教委資料には書かれていない。

満水位のくだりのあと、市教委資料はこう続ける。

〈前回の授業ではクロールまでたどり着けなかったことを踏まえ、泳げる児童と苦手な児童に分けて指導することとした。児童の判断で3グループに分かれ、被害児童を含む苦手男子グループの指導は長浜小校長、苦手女子グループの指導は教諭B、25mを泳ぐ得意なグループの指導は教諭Aがそれぞれ受け持った。今回は、長浜小校長がグループの一つの指導を受け持つことで、3グループに分かれた指導を行うことができた〉

ここで分かるのは、1週間前の初回はグループ分けなしで授業が行われたこと、泳ぎの得意な児童たちにクロールの指導ができなかったこと、今回は児童側の判断で3グループに分けたこと。市教委資料は授業のありさまについても触れている。

〈長浜小校長は、泳ぎの得意でない男子生徒3人については特に注意深く監視し、けのびの際も体を受け止めるなどの活動を行った。教諭Aは、泳ぎの得意なグループをプール縦中央で泳がせていたが、その中でも少し泳ぎに不安のある児童には、北側のプールサイドに沿って泳ぐよう指導した〉

泳ぎの得意でない男子児童が3人いたことがわかる。前回の授業で溺れかけた(市教委資料では〈あっぷあっぷした〉と表現)3人とこの3人が同じかどうかは分からない。校長もプールに入って授業に参加したためか、このときの授業は危険なシーンもなく順調だったらしい。資料はこう書く。

〈2回目の授業では、3名とも危険と感じる場面はなかったと記憶している〉

運命の第3回目は7月5日(金)の二時限目と三時限目を使って行われた。午前11時前、晴れ渡った空の下で事故が起きる。(続く)

(C)News Kochi(ニュース高知)

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