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なぜ学校で…。高知市立小プール死をめぐる疑問⑮潮江小の教訓はどうなった

2024年7月5日、高知市立長浜小学校の4年生が高知市立南海中のプールで行われていた水泳授業で亡くなった事件は多くの高知市民に衝撃を与えた。この問題を書き続けるNews Kochiには市民からの声も寄せられている。サポーターになってあげよう、と寄付を振り込んでくれる人もいる。(依光隆明)

保護者の方から届いた手紙。「私にも小学生の子供がおり、他人事ではありません」とある

14000人が危険の中にいた

高知市内に住む小学生の子どもの保護者の方は、こう書いていた。

〈この度の長浜小学校での事故について、子を持つ親の一人としてたいへん心を痛め、ご遺族の心中はいかばかりかと、思いを寄せています〉

同じ思いを持つ県民はたくさんいる。亡くなった児童は体が小さいが元気いっぱいだった。妹と一緒に通学し、放課後は児童クラブで毎日楽しく過ごしていた。未来は無尽蔵にあった。あの日もいつも通り元気に学校に行った。高知市には14000人の小学生がいる。その中の1人として元気に授業を受け、元気に帰ってくるはずだった。

まさか先生の指導通りに授業を受けていて溺れ死ぬとは誰が思うだろう。高知市教育委員会の資料を見る限り、亡くなった子に全く瑕疵がなかったことは明らかだ。全く瑕疵のない子が授業中に亡くなるということは、14000人の誰もが同じような危険の中にいることを意味する。児童を持つ親にとっては他人ごとではない。この保護者の方は、手紙の最後にこう書いていた。

〈子供の宿題を見てあげたり、食事中のありふれたやり取りの際、ふと「今回の事故のご遺族は、ある日突然、こういう普通の日常を失ったのだ」と思います。毎日思います。他人の人生に責任を負うことはできません。悲しい出来事があっても、世の中は変わらず動き、それぞれの生活が続きます。そして、いつしか忘れていきます。人は、忘れることで平常を保たないと、前へ進めないのでしょう。それでも、私は今回の事故について、忘れず、考え続けたいと思っています。高知市民の一人として今後の推移を見届けるとともに、ご遺族とは面識はありませんが、勝手ながら思いを寄せ、寄り添いたいと思います。このような事故のない高知市になるために、市民一人一人ができることをやっていくことが必要です〉

市教育委員会が入る高知市たかじょう庁舎(中央)=Google Earthより

潮江小のことが載っていない

手紙には高知市立潮江小学校のことが書かれていた。2018(平成30)年夏、夏休み開放中の同小プールで児童が溺れ、意識不明の状態が続いたのだ。幸い意識が戻って児童は回復したが、紙一重だったことは間違いない。長浜小の事故のあと、この保護者は潮江小の事故を思い出して高知市のホームページなどを調べた。が、事故の経過や分析を全く見つけることができなかった。手紙には「潮江小の事故を真剣に検証していれば今回の事故はなかったのではないか」という切たる思いがつづられていた。

当時、潮江小で働いていた教諭と長浜小の事故後に会ったことも手紙に書いてあった。教諭は潮江小をめぐる当時の状況を話してくれた。長浜小の事故に直結するような極めて重要な話だった。少し長いが、保護者の承諾を得たので以下に転載する。

高知市立潮江小学校=Google Earthより

「私たちの声は届かなかった」

〈あの日は夏休み初日であったため休暇を取っている先生が多く、少ない教員で消防、警察への通報、教育委員会への連絡等を行い、かなりバタバタと対応することとなった。もちろん警察も来たが、軽微な交通事故処理に来るような警察官ではなく、捜査一課という業務上過失致死傷や殺人事件を扱う部署の警察官が綿密に厳しく調べていったことで、これは平常の状態ではないということを突きつけられ、本当に恐ろしくなった。すべてが終わるとへとへとになったが、まだ児童は意識不明のままでそんなことは言っていられない。その日の出来事を目の当たりにして、学校でこのような事故を起こすということが社会的にいかに重大で深刻なことか、そして何よりも、頭では分かっていたつもりだったが、児童一人の命の重さ、学校は児童の命を預かっているということを本当の意味で理解し、嫌というほど思い知らされた。それからの毎日は気が気でなかったが、回復との知らせを聞いたときは心からホッとした。

その後潮江小では、監視台を導入したり、水位を下げる等、水泳の授業について一定の安全対策やルールづくりが行われた。水位については調整器具を底に敷くのではなく、単純にプールに入れる水の量を少なくした。この方法では、オーバーフローを利用した水の循環が機能しないため、教員が毎日ゴミを網ですくって、場合によってはプールに入って取り除かなければならないという手間が増えたが、それでもこの方法をとった。

市や教育委員会全体として、事故の検証はほとんど行われなかったと思う。潮江小での対策を市全体として共有することもできなかった。

その後赴任した学校では、水泳の授業の安全確保のための提案をしてきた。例えば、潮江小で設けた監視台はとても有効であることが分かったため導入を提案したが、予算がないとのことで認められなかった。また、児童一人一人の所在が分かりにくくなるため、潮江小では「自由遊泳」を禁止としたが、市全体の方針としていなかったため、問題視していない学校もあった。事故後に採用された若い教員の中には「そんなの別にやってもいいんじゃないですか」と言う人もいた。事故の承継ができていないことの表れだ。

あの日対応した教員の思いは、他校も教育委員会も理解してくれなかったと思っている。私たちの声は届かなかった。実は、あの時潮江小にいた教員の間でも、当日対応した人とそうでなかった人とでは温度差がある(休んでいたことを責めるという意味ではない)。実際に事故に直面しないと分からないのだと思う。市は重大なケースと認識して、考察や議論を最後まで詰めるということをしなかった。その理由は、こんな言い方は不謹慎だが、本当に幸いにも児童が亡くならなかったためだ。そのために(市としての検証が)中途半端に終わってしまったのだと思う〉

高知市のガイドライン。「監視台」とはっきり書かれている。少なくともプールを開放する学校には監視台を備え付けないとガイドライン違反になる

意図的に予算から目をそらす?

事故の衝撃を体いっぱいで受けた潮江小の先生たちは、改善策を全力で探った。たとえば監視台の導入であり、水位を下げて手作業でゴミをすくうことである。しかし教育委員会はそれらのことを教訓化、あるいは共通認識にしなかった。それ以前に検証すらしなかった。他校に転校した先生が監視台を要望したときは、予算がないという一言でその提案を蹴った。

この先生の話から浮き彫りになるのは、予算を握る市長部局と、学校現場を統括する教育委員会が潮江小の問題を軽視した構図だ。市も、市教委も、児童の命より予算や労力を上に置いてしまった。若干の汗をかくことすらしなかった、と言ったほうが適当かもしれない。それが今回の長浜小につながったと断じても誇張ではない。

長浜小の小学4年生が亡くなったあと、市教育次長は複数回にわたって「予算は原因ではない」と主張し、第三者委員会(検証委員会)の議論から予算問題を外そうという意図さえ見せた。監視台の問題一つを取っても今回の事故に予算が関係ないはずはない。それを熟知するはずの教育委員会がいち早く「予算の問題は関係ない」と主張するのは、おそらくその逆に真実があるからだ。つまり長浜小の事故が予算の問題に深くかかわっているため、ことさら「予算は関係ない」と声を大にした疑いが濃厚にある。

予算は教育委員会ではなく市長部局が握っている。プールの整備にしても、監視台にしても、市長部局が予算をくれなければ実現しない。ということは、長浜小の事故は市長部局とも深くかかわっている。しかし今回、市は第三者委員会を教育委員会の付属機関とし、あくまで市長部局は第三者という立ち位置を確保した。見方を変えれば、市長部局に責任を及ぼさないために予算問題には触れないようにした可能性もある。予算問題が絡むと前市長の岡﨑誠也氏やその当時の市幹部に責任が及ぶ。「チェンジ」と叫んで当選したものの、就任後は岡﨑市政を忠実に継承している桑名龍吾氏にとってもそれは好ましくないことかもしれない。予算に責任を持つ市議会与党が沈黙状態を続ける図式とも符合する。


高知市議会9月定例会で答弁する桑名龍吾市長(右)と弘瀬優副市長(中央)ら

「市長のコメントに失望しました」

手紙をくれた保護者は第三者委員会を完全非公開(開催都度の報告もしない可能性が強い)としたことも重視し、こう書いていた。

〈(新聞記事に載っていた)市長の「検証委員会が決めること。口を挟むのは適当ではない」とのコメントには失望しました。(検証委員会の)非公開についてどう考えるか、政治家としての矜持を尋ねられているのだから、逃げずに答えるべきでは、と思います。イレギュラーな時こそ、真価が問われます。長かった岡﨑市政に代わり、新しい風が吹くのではという期待の声もあるだけに残念です。これでは「検証委は学校を守ろうとしている」と言われても仕方ありません。

その一方で、長浜小で行われた説明会に亡くなった児童のお父様が出席され『皆さんの子だったかもしれないことをわかってほしい』と訴えたとの記事に触れ、さぞ強い思いで発言されたのではないかと心中をお察しし、目頭が熱くなりました。たいへん重い言葉です。

市民全体が、自分のこととして考え、市に対して意見を反映できるような仕組みを作り、市民の納得できる報告書を作るべきです。そのための第一歩は、検証委員会の内容を公開することであると考えます〉(続く)

(C)News Kochi(ニュース高知)

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