中山間

高知東部自動車道は事故が多い?「魔の地点」が浮き彫りに

2025年7月14日、徳島県を貫く対面通行(暫定2車線)の高速道路で高速バスとトラックが正面衝突する事故があった。トラックがアクシデントで対向車線に飛び出した可能性が出ている。対面高速道の危険性は6月の高知県議会でも論議になったばかり。論議を踏まえて県警が出した資料では、高知東部自動車道の危険ポイントも可視化された。(依光隆明)

2025年7月15日付の徳島新聞。対面通行の危険性も訴えている

タイヤのバーストが原因?

7月14日の事故は徳島県阿波市の徳島自動車道で発生した。松山市から神戸に向かっていた高速バスと愛媛ナンバーの中型トラックが正面衝突。炎上したバスの中で乗客1人が死亡、トラックの運転手も死亡した。トラックのタイヤがバースト(破裂)、バランスを失って対向車線に飛び出したことが原因として挙げられている。

7月17日付の徳島新聞は、九死に一生を得た乗客の言葉を紹介している。右足が挟まれて車内で動けず、一時は死を覚悟した30代の男性だ。徳島新聞はこう書いている。〈「あれだけの事故で、この程度のけがで済んだのは奇跡と思うしかない」と実感を込める男性。対面通行の怖さに触れ「少しでも正面衝突のリスクが低くなるよう、どんな高速道路も片側2車線にしてほしい」と対策の必要性を訴えた〉

高速道路の死亡事故比率。暫定2車線の方が2倍近く多い。ちなみに億台キロというのは1億台の車両が1キロメートルを走行した場合のこと。100万台が100キロを走行した場合、と言い換えてもいい=西日本高速道路のホームページより

暫定2車線の7割が対面通行

片側2車線以上の高速道路と暫定2車線(片側1車線)の事故で顕著な違いは死亡事故の頻度だ。死傷事故はさほど変わりがないのに、死亡事故は片側1車線の方が明らかに多い。2016(平成28)年のデータでは死亡事故の率は2倍近くに達している。

片側2車線以上の場合、上り車線と下り車線の間は分厚いコンクリートブロックなどで物理的にきっちりと分けられている。これに対し暫定2車線(片側1車線)の多くは対面通行だ。対向車線との間にはワイヤーやポールくらいしか隔てるものがない。

暫定2車線(片側1車線)でも道路を1車線ずつ別々に通しているケースもあるが、多くは対面。会計検査院の平成26年度末決算検査報告「高規格幹線道路の暫定2車線道路の整備及び管理状況について」によると、2014(平成26)年度末時点での暫定2車線区間は全国に2423.8キロメートルあり、うち1752.1キロ(72.2%)が対面通行となっている。

国土交通省のホームページより、2005(平成17)年のデータ。年351件の飛び出し事故があり、うち44件が正面衝突事故につながっている

飛び出し事故は年300件

対面通行の場合、何らかの理由で右方向に車両が弾かれたら正面衝突の可能性がある。徳島の事故がそうだった。危険性は国も分かっていて、2019(令和元)年に国土交通省高速道路課が出した「高速道路における安全・安心基本計画」は、対向車線への飛び出し事故が年間約300件に達することを指摘している。そのくだりを取り出してみる。

〈我が国では、限られた財源の中でネットワークを繋げることを第一に高速道路の整備を進めてきた結果、開通延長の約4割が暫定2車線区間となっており、諸外国にも例を見ない状況にある。暫定2車線区間では、その大部分が対面交通であることから、対向車線への飛び出しによる事故が年間約300件起きている。また、一度事故が発生すれば重大事故となる確率が高くなり、被害も大きくなるなど、安全性や走行性、大規模災害時の対応等に大きな課題がある〉

ざっくりと言えば、開通した高速道の約4割が暫定2車線。その約7割が対面通行だから、新たに開通した高速道の3割程度が対面通行という計算になる。

既開通の高知東部自動車道(高知南国道路+南国安芸道路の一部)=国交省土佐国道事務所のホームページより

警察出動事故が2.5日に1件

高知県議会での質問は、6月19日の本会議で畠中拓馬議員(一燈立志の会)が行った。3月15日に高知東部自動車道が芸西西インターまで暫定2車線(対面通行)で開通したことを振り出しに、「長い上り坂によって渋滞が起きやすく、なにより事故と通行止めが非常に多い」と前置き。6月10日には正面衝突事故が起き、知人が亡くなったことも交えながら安全対策などについて質した。

県警が事故地点を含む一覧データを集計、畠中議員に渡したのは議会後の7月初めだった。それによると、3月15日から5月末までに高知インターから芸西西インターまでの27.5キロ区間で起きた事故は30件。2カ月半に30件だから、おおむね2.5日に1度の割で警察が出動する事故が起きた計算になる。30件の中で車両単独が18件。うち10件はワイヤーロープまたはラバーポールに衝突している。どちらも対向車線との間を区切るものなので、対向車線側にはみ出そうとして衝突したと考えられる。対向車線を走る車が弾いたであろう「飛び石」による単独事故も2件あった。

車両相互の事故は12件で、うち10件は追突。5月14日には午前7時5分、7時6分、7時20分にいずれも南国市の西向き車線で事故が連続した。最初は単独事故、次の2回はいずれも3台の追突事故だった。事故渋滞の車に追突し、その後ろの車も追突する事故が2度続いたと考えられる。

30件のうち、人身事故は5月14日午前7時6分に起きた追突事故だけ。29件は物損事故だった。

ランプウェイから本線への合流部=なんこく南インター。Google Earthより

本線合流時に追突?

事故地点データで気が付くことが2点ある。一つはランプウェイ(インター出入り口と本線を結ぶ斜路)での事故が6件あることだ。いずれも追突事故で、6件のうち4件は軽乗用車に普通車が追突している。本線にうまく入れなかったためブレーキをかけた車に後ろの車が追突したとみられる。東部自動車道に関し、実は少なからぬドライバーから「合流エリアの距離がなさすぎる」という声が出ている。普通の高速道に比べ、ランプウェイから本線に合流するエリアの距離が短いという指摘だ。県議会で質問した畠中拓馬議員も「特に高知龍馬空港インターでそれを感じる」と指摘する。

時速40キロ程度でランプウェイの斜路を走り、本線とほぼ同じ高さになった合流エリアで本線並み(制限速度70キロ)に加速して合流しなければならない。本線はビュンビュン車が走っているのだから、合流エリアが短ければ短いほど合流には技術が要る。高齢ドライバーや初心者にとっては至難の業と言っても過言ではない。

加速車線の概念図=2019年「土木技術資料」掲載の「都市間高速道路の合流部における交通実態を踏まえた加速車線長に関する考察」より

合流距離は210メートル

ランプウェイを走ったあとの合流エリアは加速車線とテーパ(接続部。漸変部とも)で構成される。加速車線で一気に加速し、テーパで本線に入る。高知東部自動車道の場合、その距離はどれくらいか。

国土交通省南国国道維持出張所によると、加速車線+テーパの長さは本線の速度と交通量を加味して設計される。高知東部自動車道の設計速度は時速80キロで、各インターとも加速車線+テーパの長さは同じ。「加速車線が160メートル、テーパは50メートルです」と説明する。つまりどのインターとも210メートルが合流エリアの長さとなっている。実際に走ってみると、加速車線+テーパが短く感じるインターもある。それについて、同事務所は「体感で違ってくるのかも」と話す。

高知県警がまとめた事故地点資料。なんこく南インターの東、直線区間の起終点に事故が集中している

直線の起終点に集中

事故地点データで気がつく2点目は、なんこく南インターから高知龍馬空港インターまでの直線区間で起きた事故が全体の3分の1・計10件を占めることだ。うち8件はなんこく南インターのすぐ東、カーブが終わった直線の起点(西向きの車は終点)付近で起きている。東向きと西向きは4件ずつ。8件のうち7件が単独衝突事故、うち6件は対面車線との間にあるワイヤーロープと衝突していた(1件はガードレールと衝突)。8件のうち残りの1件は5月14日午前7時6分の西向き追突事故で、1分前の7時5分に起きたワイヤーロープとの衝突事故が引き金になったと考えられる。

なんこく南インターから東に延びる直線は緩やかな下り坂になっていて、見通しは悪くない。10件のうち残り2件は高知龍馬空港インターにほど近い直線区間での東向き車両の事故で、1件はワイヤ―ロープ等との衝突、1件は「飛翔物」との衝突だった。

なんこく南インター東の事故集中地点付近

「事故原因は人的要因」

もともとこの問題を畠中議員が質問した動機は、8件の事故が集中した区間の道路構造上の問題だった。道路の傾きが通常とは違うのではないか、だからハンドルを取られるのではないか、という問題意識だ。答弁に立った岩田康弘県警本部長は「事故原因は主にドライバーの前方不注視やハンドル・ブレーキの操作ミスなどの人的要因による」と指摘した上で、「道路構造などの環境的要因によるものは認められませんでした」と続けた。

対面通行の場合、小さな事故が起きただけでも通行止めとなる。高速道に進入済みの車は長時間にわたって一般道に出られないケースもある。県道路課によると、高知東部自動車道は西日本高速道路株式会社(NEXCO西日本)ではなく国土交通省の直轄区間。開通済みの全線が暫定2車線で、「4車線化の要求もしているが、いつまでにしてほしいとは言っていない。4車線化の前に暫定2車線の延伸を求めている」と話している。

(C)News Kochi(ニュース高知)

関連記事

  1. 高知市とシダックス⑤社員も知らぬ営業所?
  2. 高知市による民有地占拠疑惑⑦「私どもの年齢を考えてください」
  3. なぜ学校で…。高知市立小プール死をめぐる疑問③校長と市教委の意識…
  4. なぜ学校で…。高知市立小プール死をめぐる疑問⑪議会は動くのか
  5. 龍馬記念館のカリスマ、最期のカウントダウン⑧唐突だった退任通告
  6. ほん。札幌に警察の不祥事を追う記者がいる
  7. 高知県の行政不服審査を検証する➃「被告」と「裁判官」が同一人物?…
  8. 四国山地リポート「考えぬ葦・ヒト」の営為⑤国内外来種の罪㊦四国の…

ピックアップ記事









PAGE TOP