シリーズ

なぜ学校で…。高知市立小プール死をめぐる疑問⑯検証委が独り歩きを始めた?

高知市立長浜小学校のプール死事故を検証する第三者委員会「長浜小学校児童プール事故検証委員会」が、「完全非公開」の姿勢を実質変更した。会議自体は非公開だが、会議後に委員長が会見を開いて説明するスタイルとなった。第2回委員会終了後の9月30日夜に会見した中内功委員長は、率直な言葉で現状と決意を述べた。(依光隆明)

高知市議会9月定例会(一問一答)の答弁要旨。市長も教育長も、検証委員会の存在を理由に答弁を忌避した

「非公開」への批判を背景に

事故が起きたのは2024年7月5日。長浜小のプールろ過ポンプが故障し、高知市立南海中学校のプールを借りて4年生の水泳授業を行っていたときだった。市教育委員会の資料によると、溺れた男子児童を水中から引き上げたのは一緒に授業を受けていた児童で、プールにいた先生3人は引き上げ直後まで溺れたことに気づいていない。つまり、授業のどの段階で児童が溺れたかという基本中の基本すら判然としないのが実情だ。市や市議会多数派が動かないこともあり、結果的にそれらの検証を担うのは第三者委員会(検証委員会)しかない状況になっている。

ところが検証委員会は8月24日の第1回委員会の途中で非公開を決め、会議後の報告もなかった。第2回以降も同様だと受け止められたため、市議会9月定例会では少数の議員が「これでは報告書が出るまで市民は全く何も分からない」「報告書の提出で検証委員会は解散する。報告書を説明できる人間は誰もいない。質問する相手もいない」などと反発。市教育委員会は「ご遺族も公開を望んでいる。その声は検証委員会に届ける」と答弁していた。

おそらくそのような動きを受け、9月30日の第2回検証委員会後に中内功委員長(高知弁護士会)の会見が実現した。

「長浜小学校児童プール事故検証委員会条例」より。報告書を出した日に委員会は消える

委員会開催のたび、委員長が逐次報告

中内委員長は、直前に行われた検証委員会で「調査対象」を確認したことをまず説明した。何を調査するか、ということだ。このように発言した。

「令和6年度長浜小におけるプール授業に関する計画と準備状況、ポンプの故障発覚後の学校と教育委員会とのやり取り、教育委員会において南海中でプール授業をやると決定した経緯、それから本件事故に至るまでの授業の状況、本件事故当日の状況、本件事故発生後、検証委員会設置に至るまでの学校・教育委員会の対応状況、これらすべてを調査対象とすることを確認しました」

この発言で明らかになったのは、検証委員会は矛先を事故の直接原因に絞るということだ。今回の事故は、その背景に予算問題が存在する可能性を否定できない。学校施設に満足な予算を出さないという市の方針がポンプの故障を招き、早期修繕をもためらわせたという構図である。しかし検証委員会はそこまでは切り込まないことを明らかにした。予算問題に触れないことは、検証委員会事務局のトップを務める市教育次長が検証委員会の立ち上げ前に明言していた。検証委員会は教育次長の方針に従ったのかもしれないし、直接的な原因究明に集中しなければ解明は難しいと判断したのかもしれない。予算問題は市議会が調査する事項であって、検証委員会の調査対象ではないと判断した可能性もある。

続いて中内委員長は、ヒアリング(聞き取り)の対象者を抽出していること、証拠書類を集めていることを説明し、「可能な限り今年中(12月末まで)に必要なヒアリングと証拠の収集を終えたい」と述べた。会議自体は今後も非公開とするものの、「今後、会が終わった段階で私が対応する」という表現で会議内容を逐次報告する方針も明らかにした。非公開決定を理由に第1回委員会の途中で退席させられた傍聴者(議員や記者ら)は、今後は会議後の説明すら行わないと受け取った。事務局を務める市教育委員会もそう受け取っていて、市議会9月定例会では「完全非公開」を前提に質疑が行われた。

中内氏の発言は、「完全非公開」の明確な修正を意味していた。市教委は検証委員に厳しい守秘義務(委員同士の議論内容も守秘義務とした)を課しているため、完全非公開では市民は結果(報告書)しか知り得ない。ところが報告書を提出した当日に検証委員会は解散することが決まっている。どんな議論で報告書ができたのか、なぜこの結論が出たのかを質問する先すら消えてしまうのだ。検証委員の行動も肉声も闇に包まれたまま、委員会解散日に報告書だけが闇から浮上するという事態が予想されていた。会議のたびに委員長が説明するとなると、事態は全く変わる。議論の中身は秘密であっても、動きが分かる。

検証委員会の予算。会議は8回、調査活動は5時間分しかない

予算無視して「ずっと調査活動」

質疑に移ったあと、中内氏は幾つかの重要な点を明らかにした。まずヒアリングの対象は、「100人まではいかない。10の位、数10人はあり得る」と答えた。言葉の感触だと、20~40人をヒアリングするとみていい。さらに中内氏は8月24日の第1回委員会から9月30日の第2回までの間に検証委員が手分けして7回の聞き取りを行ったことも明らかにした。検証委員は複数で聞き取りに臨み、相手方は1人の場合も複数の場合もあった。すでに10人ほどの聞き取りを完了していることになる。中内氏は「(委員会と委員会の)間でずっと調査活動をしている」とも述べた。

この発言の意味も大きい。検証委員会関連の予算を出すのは市長部局だ。予算案を作るのは教育委員会であっても、予算を握るのは市長部局の財政課。当然、予算化に当たっては財政課と協議し、市長や副市長とも協議して決定する。その予算を議会が可決し、教育委員会が執行する段取りとなる。検証委員会の活動に疑問符をつけざるを得なかったのは、その予算額だった。

桑名龍吾市長が明らかにした予算内容は、「会議出席」が1回20100円×8人×8回分で128万7000円。「調査活動」が5000円×8人×5時間分で20万円。つまり8回の会議と5時間の調査活動で結論を出す図式になっていた。1回数時間の会議を8回やり、おそらく現場見学も含めた「調査活動」を5時間やるだけで報告書を書かせるのである。そのような予算書を市が作り、議会はそれを認めてしまっている。ということは、その方向で検証委員会は動くしかない。会議8回+調査5時間で事件の本質に迫り得るとは思えなかった。

第三者委員会に下駄を預けることだけが危機管理上の課題であって、市としては本気で検証する気はなかったのかもしれない。ところがそのような市の思惑を中内氏はあえて無視したように見える。象徴の一つが検証委員による精力的な聞き取りだ。第1回の委員会から2回までの間に7回の聞き取りをしたということは、今後もそのペースでやっていく可能性がある。月に7回の聞き取りをすると、年内で28回。1回の聞き取りで複数人を対象とすることもあるので、このペースでも40人近くから聞き取ることができる。2人以上の委員がセットになって1回1時間はかけるだろうから、28回の調査活動費は最低でも28万円。そのほか現場視察があり、証拠資料の収集もある。なにより中内氏は「(委員会と委員会の)間でずっと調査活動をしている」と明かしている。当然、20万円の調査活動予算は大きくオーバーしてしまう。要するに、市が計上した予算内だけでやるつもりはないということだ。検証委員会は、市の思惑とは関係なく徹底検証する構えを見せ始めた。

会見する中内功検証委員長(2024年9月30日)

「真実を突き止めるのが一番の責務」

会見で中内氏は、あえて時間を取って自身の思いを述べた。

なぜ授業中に一人の児童が亡くならなければならなかったのか、その一点を徹底的に解明するという決意表明だ。検証委員会を立ち上げるとき、市教育委員会は「再発防止策」を強調していた。中内氏はそれを婉曲に否定し、再発防止策よりも、かけがえのない一人の児童が亡くなったことを重く感じるべきだという思いを述べた。大切なのは事件の類型化ではなく一人の子どもであり、なによりもまず事件の原因を徹底的に究明する必要がある、と。「今後」の再発防止に重心を置くのではなく、「今」を生きていた一人の子どもに重心を置く、と言い換えてもいいだろう。中内氏は自身の決意を、「この事件の原因を詳細に解き明かす、真実を突き止めることが一番の責務」とも表現した。

中内氏の言葉をできるだけ忠実に掲載する。

「今回、被害児童という言い方をさせていただきますが、お子さん一人が、実際に亡くなった事件で、やっぱりその、ご家族との生活であったりとか、児童の人生があったと思いますので、われわれの目的として、再発防止策の提言っていうのはありますけれども、やっぱり一人の、生きてきたお子さんが亡くなった事件なので、その生い立ちとか、成育歴とか、ご家族の関係とか、そういったものは、やっぱり事件の原因を分析する上で不可欠なものだと思いますので、ちょっとやっぱり、報告書が上がってから後日『こういう類型だから再発防止策こうだよね』ってどこかで捉えられるのはあるかもしれないですけど、やっぱり同じ事件ではないと思うので、この事件の原因を詳細に解き明かす、真実を突き止めることが一番の責務かなと思っています」

この発言について質問された際、中内氏はこう補足した。

「こういう類型の事件だからこんなんだよね、みたいな(結論付けは避けたい)。これが唯一の事件のはずなので、そこを可能な限り解明したい。それが詳細にできれば再発防止策の提言にもつながる。(亡くなった子どもの立場から見ると)唯一の事件なのだから、きちんと解明したい」

8月から月1回、8回の議論で来年3月に報告書を出してもらうのが市の構想だが、それについても中内氏は否定した。理由は「真実の解明」だ。中内氏はこう言った。

「年末までに調べるところを調べて、報告書の作成におそらく数カ月かかると思う。年度内に終えたいと思っているが、それよりも必要十分な調査をやることと、可能な限り真実を解明することが大事だと思うので、期限ありきでやることは考えていない」(続く)

(C)News Kochi(ニュース高知)

関連記事

  1. 高知市とシダックス⑥「通知から2カ月」の新ルール
  2. 高知市の対策遅れ指摘。岡村眞さん、南海トラフ巨大地震への準備訴え…
  3. 龍馬記念館のカリスマ、最期のカウントダウン⑦「平和」にこだわった…
  4. なぜ学校で…。高知市立小プール死をめぐる疑問➀第三者委には頼れな…
  5. 四国山地リポート「考えぬ葦・ヒト」の営為③大規模林道の現実②立ち…
  6. 高知市による民有地占拠疑惑⑧あわや警察に拘束?
  7. 四国山地リポート「考えぬ葦・ヒト」の営為④人工林を自然林に㊤森を…
  8. 龍馬記念館のカリスマ、最期のカウントダウン⑥孫さんと会えた!

ピックアップ記事









PAGE TOP