政治

読み解く鍵は「台湾有事」 沖縄タイムス阿部岳さんが「沖縄と私たち」

沖縄タイムス編集委員の阿部岳(あべ・たかし)さんを招いた講演会「沖縄と私たち~沖縄戦から『最前線化』まで~」が6月28日に高知市の自由民権記念館ホールで開かれた。「平和な未来を考える会」などの主催。約100人が真剣に耳を傾けた。(依光隆明)

台湾有事を理由に急速な軍備増強が進んでいることを報告する阿部さん

「台湾有事は日本有事」

阿部さんは沖縄をめぐる現在の状況をテンポよく話した。高知港、須崎港、宿毛港が加わった特定利用港湾の問題から国民保護、そして過去から未来に続く沖縄切り捨ての現実…。現代の沖縄を見る鍵が台湾有事にあることも阿部さんは浮き彫りにした。特定利用港湾の増加も台湾有事をにらんでいると阿部さんは説明し、国民保護として宮古・八重山諸島の12万人を6日がかりで九州と山口へ非難させる計画の存在も解説。半面、沖縄本島を中心とする130万人の避難計画はなく、「できそうな規模の計画だけ出して図上演習をしている」と評した。

台湾有事とは、中国と台湾との間で武力衝突が起こること。それが広く喧伝され始めたきっかけは2021年に米インド太平洋軍司令官が「6年以内に台湾有事」と発言し、安倍晋三元首相が「台湾有事は日本有事」と発言したことにある、と指摘。阿部さんによると、かつて沖縄の基地を強化する理由は「尖閣が危ない」だった。それが台湾有事に変わったと説明し、「仮想敵がソ連だった時代にも沖縄には基地が集中していた」という事実を示してこう述べた。「近くの台湾で有事がありそうだから沖縄に軍備が必要なんだという話をされるので、『では昔はどうなんですか』となる。やはり理屈は後付けだなと思っています」

阿部さんが話す「沖縄の今」に、約100人が聞き入った

自衛隊幹部の「開戦前夜」発言

同じ2021年、沖縄県南部の自衛隊分屯地で体験した出来事も阿部さんは紹介した。

自衛隊の陸将補がメディア向け説明会の席で「開戦前夜」という言葉まで使いながら「東アジアは現在、歴史上最も緊張が高まっている」と説明したのだ。歴史上、東アジアはたびたび戦乱に見舞われてきた。今はそれらを凌駕する緊張のなかにある、という認識を自衛隊幹部が持っているということだ。以前は抑制的だった自衛隊幹部の中国に対する表現が一変、中国への敵対視が目立っていると阿部さんは指摘した。

琉球弧では自衛隊の増強が進んでいて、与那国島、石垣島、宮古島(以上沖縄県)、奄美大島、馬毛島(以上鹿児島県)に自衛隊基地が新設されていることを阿部さんは説明。併せて日米一体化も進んでおり、米軍用に造っている辺野古新基地への陸上自衛隊常駐が日米間で合意していた事実も明らかにした。有事の際は情報が米軍頼みとなる実情を説明しながら、自衛隊が「米軍の二軍」として使われる可能性があることにも言及。阿部さんは「米軍は撃って逃げだが、撃つのは水のある有人島からだ。そこには住民が住んでいる。住民のことは考えられていない」と述べた。日米共同作戦計画では米海兵隊は南西諸島の島々を転々としながらトラック搭載の移動式ロケット砲(HIMARS)で敵艦艇を攻撃する計画になっている。撃っては移動する戦法なのだが、戦場になるのは人が住む島の可能性が高いということだ。

政府が宮古・八重山に整備しようとしている核シェルターも阿部さんは紹介した。金額は3人用で780万円。写真を見せながら、「中にはトイレもありません。外から開けることもできません」。

沖縄が再び捨て石になる危険性を丹念に説明した

差別の種を育てない

阿部さんは「中国の軍拡も日本の軍拡も事実。偶発的衝突の危険は高まっている」と分析。「中国政府に対する批判は大いにやるべきだ」とした上で、「必要なのは日本政府を暴走させないこと、戦争の種となる差別をやめさせるために力を尽くすこと」と述べた。「戦争の種になる差別」の代表格は中国敵視だろう。1930年代には同じムードが政府をあおり、泥沼の戦争へと足を踏み入れた。

日本には沖縄の人を差別した歴史があったことも阿部さんは指摘した。戦前の本土には「沖縄人、朝鮮人お断り」と貼り紙をしていた店もあったと紹介し、沖縄差別の系譜を琉球王国滅亡(琉球処分)から戦争末期の「捨て石」作戦、昭和天皇がマッカーサーに口頭で伝えたメッセージ、27年間の軍事占領、現在も続く米軍基地押し付けへとたどった。

日本の国土面積の0.6%しかない沖縄に米軍基地の70%が集中していること、自衛隊基地も増強されていることも説明。象徴的な言葉として、政府幹部の「沖縄には沖縄の民主主義があり、しかし国には国の民主主義がある」を紹介した。辺野古新基地に対し県民投票で72%が反対という結果が出たあと、当時の岩屋毅防衛大臣が言った言葉だ。「つまり沖縄で決めたといっても、日本には関係ないということです。日本の中では沖縄の人口は1%です。1%と99%の比率は永遠に変わりません。『民主主義は数だ』と言う人もいますが、数の力で人権まで奪うのは間違いです」

阿部さんは琉球弧を「万里の長城」と見なす考え方があることを紹介し、「万里の長城は外敵を防ぐ壁。壁は内側の大切なものを守るためのものです」として、再び沖縄が捨て石的な使われ方をする危険性にも言及した。

2020年に阿部さんが書いた記事も紹介された。高知県知事が中内力氏だった時代、県西南部への米軍基地建設案が浮上しかけて消えていた

普天間の代替に高知案

阿部さんは高知県と沖縄とのかかわりにも話を進めた。

普天間飛行場の代替が辺野古新基地という位置づけだが、辺野古の名が出る前に高知県に候補地があった。阿部さんは2020年に自身が書いた沖縄タイムスの紙面を投影しながら、1990年代初めに三原村から土佐清水市にかけて4000メートル級の滑走路を有する米軍基地を作る案があった事実を説明した。当時の中内力知事主導で調査が行われ、3284億円の事業費まで算定したものの、政治情勢の変化で頓挫した。この計画が実現していれば辺野古の計画はなく、代わりに高知県西南部に米海兵隊の基地ができていたことになる。

1995年、沖縄・摩文仁に建設された「平和の礎(いしじ)」に1008人の高知県出身者の名も刻まれていることも阿部さんは紹介した。「平和の礎」には2025年6月現在で24万2567人の名前が刻まれている。ほとんどは沖縄戦の犠牲者だが、沖縄の人に限っては昭和6年以降の戦争で亡くなった人すべてを含めている。特徴は、戦争の相手方である米兵1万4011人、英兵82人の名も刻まれていること。一人一人の名を刻むことで、犠牲の大きさを後世に伝えようとしている。

全24万2567人の名を、沖縄タイムスが6月10日から22日にかけてすべて掲載したことも阿部さんは報告した。戦後80年の節目に24万人という圧倒的人数と、一人一人の人命の尊さを伝えようと企画した。名前をぎっしり載せた紙面は、全52ページ。13日間連続で1日4ページずつ掲載した。

高知大空襲後の高知市街(「第47回戦争と平和を考える資料展」より)

7月8日まで「資料展」も

自由民権記念館の自由ギャラリーでは7月8日(火)まで「第47回戦争と平和を考える資料展」が開かれている。主催は高知市升形の平和資料館「草の家」。高知大空襲後の高知市街や高知市朝倉の陸軍歩兵第44連隊営舎、「対清戦勝記念碑」の拓本など写真類や資料、遺物が展示されている。入場無料。

(C)News Kochi(ニュース高知)

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