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県発注工事で談合疑惑①平均落札率95.63%

2023年9月、高知県の地質業者14社が公正取引委員会に独占禁止法違反(不当な取引制限)を認定された。内容は2017年4月から2020年11月にかけての談合である。濱田省司知事は「厳正に処分する」と力を込め、14社を指名停止6カ月または12カ月の厳罰に処した。知事が力を入れる背景には11年前に発覚した土木建設業界の談合事件がある。事件以降、土木建設業界で談合が消えたことを前提に知事は怒っていたのだが…。(依光隆明)

 

特定の土木事務所に疑惑案件

NEWS KOCHIが着目したのは落札率だ。県のホームページには土木事務所管内ごとに落札率が載っている。たとえば2022年度に高知土木事務所が発注した指名競争入札の落札率は89.93%である。競争入札は予定価格(上限)と最低制限価格(下限)の間で札を入れ、低い価格の札を入れた業者が落札する。積算ソフトに設計上の数値を入れれば(あるいは外注して頼めば)予定価格も最低制限価格も分かるので、工事を取りたい業者は最低制限価格で札を入れるケースが多い。そのような業者が複数いればくじ引きとなる。工事を取りたい(あるいは取るべき)業者を県が指名するのだから、受注を目指す業者が複数いるのは当たり前。というより、真摯に入札に参加する業者を必要十分な数だけ指名するのが発注者の役割となる。必然的に、最低制限価格によるくじ引きが主流にならざるを得ない。

NEWS KOCHIは県に情報公開請求し、過去5年間の入札記録を入手した。

①最低制限価格でくじ引き。県の論理でいえば、これが正常な入札

 

②これも最低制限価格でくじ引き。正常な入札。

 

①は最低制限価格で争った入札記録。2023年8月に県高知土木事務所が発注した工事で、指名を受けて入札に参加したのは13社。うち10社が最低制限価格で札を入れ、くじ引きで受注業者を決めた。ほか2社は予定価格に近い価格で札を入れ、残り1社は辞退している。この3社は受注できなくてもいいということだろう。②もほぼ同じ構図。16社が県の指名によって入札に参加し、13社が最低制限価格で札を入れてくじ引きとなっている。おそらく取る意思のなかった1社が予定価格以上の札を入れ、2社が辞退している。

土木建設工事の最低制限価格は予定価格の92%以下と決まっている(地質調査は80%)。2022年度に高知土木事務所が行った指名競争入札の落札率が90%弱だから、工事のほとんどが最低制限価格で争われたことが分かる。開示された入札記録を見ても、①や②と同じような熾烈な落札争いを示す記録が多かった。

ところが県のホームページを見ると(これは誰でも見ることができる)、県内6つの土木事務所の中で92%を下回るのは高知と中央東の2事務所にとどまっていた。この傾向は前年度もほぼ同じで、3事務所しか92%を下回っていない。注目されるのは1カ所だけ落札率が跳ねあがっている土木事務所があることだ。須崎土木事務所である。2022年度が95.63%で、2021年度が95.10%。

同事務所の入札記録には「辞退」という文字が異様に多い。

 

③須崎土木発注の工事。「辞退」と「無効」で実質的な入札は1社だけ

 

④須崎土木事務所発注の工事。14社を指名し、13社が辞退

 

⑤これも須崎土木事務所発注の工事。14社を指名し、13社が辞退

 

③は2023年7月に同土木事務所が発注した入札記録。

14社が指名を受け、うち12社が辞退。1社は予定価格よりも高い札を入れて無効となり、残る1社が予定価格の97.42%で落札している。

④も同じ月に同事務所が発注した工事。

これも14社が指名を受け、13社が辞退。残る1社が予定価格の97.82%で落札した。

⑤は2022年9月に須崎土木事務所が発注した工事。実質参加者は1社だけで、予定価格の94.36%で落札している。

 

最低制限価格でのくじ引きもあるが、同土木事務所発注工事には③④⑤のようなケースが目立つ。その結果が95%を超える落札率につながっている。

 

上が知らないはずはない

14社を指名して13社が辞退ということは、指名業者の選定が妥当でなかったということにほかならない。それなのに次々と同じような事態が生じている。これは土木事務所自体がこの構図を容認していることを示している。

公正取引委員会や県の解釈では「あの工事はうちが取らせてもらうから」と言っただけでも談合である。最低制限価格のくじ引きが正しいとはまったく思わないが(それによって業者も従業員も疲弊していく)、談合の疑いを県が放置しておくのはもっと正しくない。談合の疑いを認識した上で放置しているとしたら(そうとしか思えないが)、官製談合と形容しても的外れではない。

もちろんこのような構図を本庁の土木部が知らないはずがない。知らなかったら業務怠慢である。なぜ放置しているかといえば、おそらくその方が合理的だと考えているからだ。これは想像だが、県としては工事の継続性や地域性を考えて業者を選びたい。価格だけの争いになっては工事の質も危ういと思う。が、リスクは取りたくない。だから業者間の受注調整(別の言葉でいえば、これが談合)を知りながら見て見ぬふり――という構図に見える。

そんな実態がありながら、まるで裁判官のように知事が「厳正な処分」と拳を振り上げる光景には違和感がぬぐえない。実態を知っていてことさら怒るポーズを見せたのか、本当に実態を知らないのか。

万が一、実態を知らなかったとしたらそれはそれでかなり頼りない。

【執筆者】依光 隆明
(C)News Kochi(ニュース高知)

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