中山間

災禍の中から一筋の光 「こつも炭丸」の物語

2023年5月10日、人口わずか3人の高知県北川村木積(こつも)で火災が起きた。焼けたのは陶芸の工房だった。絶望の中から復活劇がスタートし、できたのが「こつも炭丸」という新たな目標だった。(依光隆明)

 

新聞炭鉢に山野草を入れて育てる。緑が鉢を覆い、まるで苔玉のよう(北川村木積)

新聞紙をどろどろに溶かして鉢の形にし、もみ殻を入れた大きめの缶に入れる。正確に言えば大きな缶にもみ殻を詰め、その中に埋める。缶をガス窯に入れ、何日間も焼き続けると炭化した鉢ができる。それが「こつも炭丸」だ。土を入れ、山野草を植えて丹精すれば鉢の中から次々と根っこの先が出る。やがて根が鉢を覆い、まるで苔玉のような風情を醸し出す。排水性、保水性ともによく、使い終われば土に還る。

お年寄りが寄せ植え盆栽を作るにはもってこいではないか、と考えたのが地区最年少の新田文江さん(77)だった。陶芸家の新田さんは、ことしに入って自身の工房で新聞炭鉢の試作に取り組んでいた。火事に遭ったのはそんなさなかの5月10日。窯から缶を出したあと、中のもみ殻が発火したとみられている。

新田さんは40年以上前から「こつも焼」と名付けた湯飲みやコーヒーカップ、大皿を作り続けてきた。ファンも多かったものの、年齢や再建費用を考えて工房の再建をいったんは断念する。ところが…。ガス窯が残っていたことをきっかけに多くの人が支援し、工房が復活。それを機に、新田さんは復活ガス窯を新聞炭鉢づくり専用にすることに決めた。

新聞炭鉢「こつも炭丸」を持つ新田文江さん(2023年10月、再建途上の工房で)

新田さんが中心となって「新聞炭鉢の会」を作ったのが8月。再生したガス窯で新聞炭鉢を焼き始めたのは10月の終わりだった。

希望者に木型を渡し、それを使って溶かした新聞紙を鉢の形にしてもらう。新田さんの工房に集まった紙製の鉢を、新田さんが7時間ほどかけてじっくりとガス窯で焼く。できた新聞炭鉢、つまり「こつも炭丸」をお年寄りたちに安価で買ってもらい、各自が思い思いの寄せ植え盆栽に仕上げる。「モネの庭」や展示会などに出し、それを売る。

新田さんの工房は、人口が3人にまで減った木積地区の希望だった。5月の火災はその希望を打ち砕いた。なによりショックを受けたのは新田さん本人。どん底だった。しかし復活は早かった。なによりガス窯が復活したし、多くの人がさまざまな形で支援をしてくれた。新聞炭鉢に可能性を見る人たちの多さも新田さんの後押しとなった。

新聞炭鉢の試みを、新田さんは「なによりお年寄りができるところがいい」と話す。お年寄りの丹精込めた寄せ植えが、村内外で売れる。人気を集める。そうなったら村全体に元気が出る、と新田さんは思う。

北川村では全域で高齢化と人口減が続いている。「こつも炭丸」の人気が出れば、少しだけ村に活気が戻るかもしれない。そんな希望を感じながら、新田さんは窯に向かっている。

全焼した工房。焦土にガス窯だけが残った(2023年5月11日、北川村木積)

(C)News Kochi(ニュース高知)

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