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高知市の対策遅れ指摘。岡村眞さん、南海トラフ巨大地震への準備訴える

高知県の地震と地質に詳しい高知大名誉教授の岡村眞さん(75)が2024年3月17日、高知市中万々の高知ろう学校で「近づく南海トラフの巨大地震」と題して講演した。最新の知見を入れて説明したのは、「早ければ2026年」という発生時期。「準備ができていればオタオタすることはない」とする一方、高知市の二次避難対策が全国で最も遅れている点を「大問題」と指摘した。(依光隆明)

南海トラフの巨大地震について解説する岡村眞さん

「1メートルの津波でも助からない」

岡村さんは佐賀県出身で、東北大で北海道をフィールドに研究を重ねたあと高知大に赴任。高知県内外の四万十帯をフィールドに、放散虫を使った付加体(プレート運動に伴って陸地に付加された海洋底堆積物)の年代測定などで実績を積んだ。地向斜造山運動(堆積物が積み重なったエリアが様々な力で隆起する)によって説明されていた日本列島のなりたちが、大陸移動を中心とするプレート論に転換し始める地質学の激動期だった。東大、京大、東北大といった旧帝大系が地向斜論にこだわる中、平朝彦氏(東大教授を経て海洋研究開発機構理事長)と岡村さんらの高知大グループが先頭を切って付加体生成のメカニズムに基づく新たな列島形成論(付加テクトニクス)を打ち出した。岡村さんはその後、南海トラフ(東海から四国沖にかけて延びる海底の谷。四国沖の水深は約4000メートル)や中央構造線の地震活動に目を向け、津波堆積物や海底活断層の研究で新しい知見を次々と発表。内閣府中央防災会議の委員などを歴任し、地震防災に関しても積極的な発言を続けている。

この日はまず5メートルメッシュの地図を説明しながら、「津波に対しては標高が重要。自宅の標高を知ろう」と呼び掛けた。南海トラフの巨大地震では3分間揺れが続くが、最初の1分間で高知市は2メートル沈降する。旧市街は4メートルの津波に襲われるので、それを計算する必要がある、と。「たとえば(高知市)潮江地区の学校体育館を避難所にしたらたくさんの人が死ぬ」と訴えた。「津波の水は澄んでいない。真っ黒い水ががれきを伴って襲ってくるのが津波だ」として、「東北で2年がかりの調査をしたが、1メートルの津波に遭遇した人のうち98.5%の人が亡くなっていた。1メートルの津波でも人はほとんど助からない」と注意を呼び掛けた。

高知市街の標高図。青が濃いほど標高が低く、津波の危険性が高い

「揺れが1分間続くと津波が来る」

高知市の旧市街と太平洋の間には烏帽子山から大平山にかけての山並みがある。それが途切れている場所が浦戸湾の狭隘部で、「410メートル空いている。そこから旧市街へ津波が入ってくる」と説明。高知市沿岸まで20分、中万々を含む初月地区までの到達時間は「40分程度」と見通した。橋が落ち、電柱は倒れる。道路は渋滞し、車のクラクションが鳴り響いているときに津波が来る。「車で移動している人はおそらく津波が来ると思っていない。そこに津波が来る」

津波が来る目安として岡村さんは「揺れの長さ」を挙げた。「揺れが1分間続くかどうかで判断している。1分以上揺れる場合は海溝型地震。津波が来る」と解説。「防災無線で津波のことを言っていないとか、そんなことで判断してはいけない。逃げなくていいと思ってはダメ。自分の判断で逃げろ」とも。

上は1946年の昭和南海地震直後の高知市。地盤沈下で広く浸水している。下は現在

「早ければ2026年」

南海トラフの地震について、岡村さんは「分かっている限りでは世界で最も規則的に来る地震」と表現した。「来てほしくないというのは自然な感情だが、もうすぐ発生するということは考えていてほしい」と前置きし、過去5回の地震を一つずつ解説した。

1498年、明応地震。3連動=東海~九州の延長650キロエリアが震源域となる。

1605年、慶長地震。3連動。

1707年、宝永地震。3連動。マグニチュード(Ⅿ)8.6。

1854年、安政南海地震。単独=四国沖の延長300キロエリア。Ⅿ8.4。

1946年、昭和南海地震。単独。Ⅿ8.0。

3連動は東海、東南海、南海の各震源域が一気に動いたことを表している。単独は南海地震が単独で起きたケース。岡村さんは「前回の地震(昭和南海地震)は非常に小さかった。これをどうとらえるか」と次の地震に関わる問題意識を口にした。「マグニチュードが0.2違うとエネルギーは倍違う。Ⅿ8.0は8.4の4分の1、8.6の8分の1。いかに前回が小さかったことか。ひずみ(歪み)を取り切れていない」

話を地震の間隔に移し、「明応から慶長までが107年、宝永までが102年、安政まで147年で、昭和まで92年。宝永はエネルギーを取り切ってしまったので、次のひずみがたまるまでに時間がかかった」と解説した。

ひずみは海洋側プレートと大陸側プレートの固着部で生じる。年6センチのスピードで移動してきたフィリピン海プレートが南海トラフで大陸プレートの下に潜り込む。するすると潜り込むのではなく、両者がぶつかる場所、つまり大陸プレート先端部では両者は基本的に固着している。フィリピン海プレートは年6センチの速度で下に潜っていくので、大陸プレート先端の固着部も下に引きずり込まれそうになる。固着部にひずみが生じる。ひずみが限界を超えると固着部が割れて大陸プレートが跳ね上がる。それが地震を生む。

昭和の南海地震が小さかったということは、ひずみを完全に取り切っていないことを意味している。つまり「次」までの間隔が短い可能性を示している。岡村さんは「前回の地震から2026年で80年。早ければ2026年に次が来る」と指摘。併せて「プラスマイナス10年があるのであした起こっても不思議ではない」とも述べた。

南海トラフ巨大地震の震源域。桃色は3連動の場合。黄色は東海、東南海、南海が単独で発生する場合

「隆起も沈降も3年前に終わった」

「南海トラフの地震が起きる30年前から西日本では地震が頻発する。阪神大震災が起きたのは29年前だった」と説いたあと、岡村さんはプロジェクターで日本地図を示して阪神大震災以降の地震を解説した。「5年に一度、大きな地震が西南日本を襲ってきた」と指摘し、「それがほぼ終わり、南海トラフが動く時期に来ている」と説明。南海トラフの地震が起きるまで高知市近辺が隆起し、室戸岬が沈降を続けるのだが、「隆起も沈降も3年前から終わった」ことを明らかにして警戒を呼び掛けた。高知市の地下27~28キロに震源となる断層面があることも解説し、「高知市民は震源の上に住んでいることを自覚すべきだ」とも。

過去4回、1605年以降の南海トラフ巨大地震がいずれも冬に発生していることにも注意を促した。「高知においては過去4回、400年間の地震はすべて晩秋から冬に起きた。したがって大きく山が崩れたという経験を高知県はほとんど持っていない」と述べ、「もし雨の多い時期、例えば6月の梅雨時期あるいは9月の台風シーズンに地震で3分間大揺れすると、周りの山の多くが崩れてしまう。平野の家々は液状化で傾く」と指摘。冬の地震と夏の地震は違うこと、次は夏場に起こると想定しておくべきことに言及した。

命を守るための準備を、と訴える岡村さん

日本で一番遅れているのが高知市」

阪神大震災では「倒壊家屋から人を救い出すのに6時間かかった。津波が来るまでに間に合わない」という表現で、岡村さんは家が凶器となりかねない実態も訴えた。

「地震は単なる自然現象だ。100年で3分間しか揺れない自然現象」と説明し、「広場や畑の中にいればどうということはない。命を落とすのは家。緊急地震速報が鳴ったとき、外に飛び出すのも一つの手段」と続けた。

能登地震の調査結果として、「昭和56年5月までに建築された旧耐震基準の家がやられていた。私が調査した33軒のうち9割は1階を2階が押しつぶしていた」と報告。「阪神大震災は6434人の犠牲者のうち約5000人が家の倒壊で亡くなった。その小型版が能登で起きた」と説明した。命を守るために呼び掛けたのは、「地震でつぶれない家に住む」「家の中のものを倒れないように、落ちないようにする」「夜、津波から逃げる訓練をしておく」の3つ。行政の補助が出なくても一度耐震診断をしておいた方がいい、と勧めた。

「約10年は余震が続く。壊れかけた家には怖くて住めない」とも指摘。「そのあとどうするかを考えておく必要がある」として、高知市の防災プランから二次避難対策が抜け落ちていることに言及。「どこに新しい街を作ってどういう生活をするのかを踏まえ、別の場所に移動してもらう必要が出る。津波に遭った所には長期にわたって戻れないのだから。一人ひとりが考えないといけないのだが、日本でも一番遅れているのが高知市だ」と指摘した。2次避難先について住民と対話すらしていないことを重ねて指摘し、「県も高知市も政府から『やってください』と言われているのにほとんどできていない。大問題だ」と明かした。

津波はがれきや車を伴って住宅地の奥深くまで進入する。たとえ1メートルの津波でも人は助からない=2011年3月27日、宮城県名取市

「ハードが機能しないのが地震」

最後、岡村さんは命を守ることを考えようと訴えた。

「水と食料で命は守れない。あればいいけれど、それは助かった人が使うもの。家が倒れたら食料をストックしていても仕方ない」と説明。「ローリングストックの罠」という言葉も使って水と食料ばかりに目を向けることに警鐘を鳴らした。ハード対策に力を注ぐ行政の在り方についても「ハード対策は機能することが前提。機能しないのが地震」と述べた。「ハードに頼ると、一つが崩れたときに全く対応できない」とも。例えば消火栓を使おうとしても水は来ていない。岡村さんは愛媛県八幡浜の消防署に「大地震、われわれは動けません」と大書されていたことを紹介し、自分の身は自分で守ること、そのために普段から考えておく、準備しておく必要性を強調した。

 

(C)News Kochi(ニュース高知)

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