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四国山地リポート「考えぬ葦・ヒト」の営為⑤国内外来種の罪㊤ホタルの遺伝子が危ない

国内外来種という言葉は、その語感以上の脅威を自然に与え続けている。文字通り、国内の種でも外来種と同等のダメージを生態系に与えるのだ。これまで知られなかった国内外来種の問題は、ここ愛媛でも四国全域でも深刻さを増している。現地から、国内外来種の課題をリポートする。(西原博之)

市街地でも至る所で見られるミシシッピアカミミガメ=松山市内

在来種が追い詰められる

各地で「植樹」や「放流」活動が盛んだ。自然保護、環境保全のため森を、川を元の姿に戻しましょう。山を、川をよみがえらせましょう。後世に、子孫に美しい自然を残しましょう。正義感あふれる言葉と分かりやすい掛け声で、各地の山に次々と植樹されている苗、撒かれる種。放流されるホタル、スズムシ、魚の稚魚。しかし生物学的には、こうした植樹・放流活動のほとんどが固有の生態系を破壊していることは、あまり知られていない。知識・認識不足と安易な取り組みで、いかに日本の山が、川が、海が追いつめられていることか。

「国内外来種」という耳慣れない言葉が今回のキーワードである。

「外来種」については多くの人がその意味と脅威を理解しているだろう。本来、日本には生息しない外国産の生物種や生育しない外国産植物などで国内の在来種が追いつめられ、生態系が壊されてしまう事態が今、日本各地で起きている。

池や湖沼で繁殖するミシシッピアカミミガメ(ミドリガメ)やオオクチバス(ブラックバス)、ブルーギル、各所の土手や空き地に繁殖するオオキンケイギク。日本の野鳥を押しのけるようにさえずるソウシチョウやガビチョウ、他種を駆逐するアオマツムシやツマアカスズメバチなど各種の昆虫類まで、例示すればキリがない。

こうした生物の多くは環境省が「特定外来生物」として飼育や輸入、取引、放流や野外への放置などを禁じている。市民の認識も次第に上がり、社会問題として定着してきた。この外来生物問題については、とりあえず今回は置く。

ゲンジボタル(上)とヘイケボタル=今川義康さん撮影

環境の包容力は厳格に決まっている

「国内外来種」とは、国内の他地域から持ち込まれた生物種を指す。国内でも、地域や標高、気候、植生が変われば生物種は違うし、遺伝子も違う。それをむやみに移動させれば地域生態系や遺伝的多様性が大きな影響を受けるのだ。今も植樹や放流などの行為で、日本の自然は大きなダメージを受けつつある。

最も良く知られた「国内外来種」は放流されたホタルだ。最初のボタンの掛け違えは、ホタルの放流から始まったといっても過言ではない。子どもたちへの環境教育として各地で盛んになり、マスコミもこぞって報道した。しかしこの行為が、いかに地域生態系を理解しない行為であったか。

愛媛県西条市にあるNPO法人西条自然学校の今川義康さんは、環境省のモニタリング調査でホタルの調査などを担当している。「ホタルの扱いについては、厳格に生息地の知識や生活史の知見が必要。遺伝的に、隣の川なら同じなのか、遠く離れた川だとどれだけ違うのか、知見や根拠をまず示す必要がある」と話す。生物学的な根拠がない限り、安易な放流は行うべきではないということだ。

ホタルの生活史は、生息する河川のごく狭い生息地で完結する。交尾したメスは水辺のコケや水草などに産卵、ふ化して幼虫になると河川に移動し、カワニナを捕食して成長する。土手などの地中に潜ってさなぎとなり、羽化して成虫になる。そこでオスとメスが出会い、交尾して産卵する。ここまでを、昆虫のライフサイクルと呼ぶ。ホタルは生涯を通じて移動距離が少なく、河川ごとにこうして生活史を全うするため、遠く離れた河川の個体群は微妙に遺伝子が異なるケースが多い。

例えばゲンジボタルは、東日本と西日本では発光間隔が違うことが知られている。発光間隔の違いはオスとメスの出会いにつながらないことを意味する。つまり「別種」と同じレベルの違いだ。研究が進むと、詳細な地域ごとの違いが明らかになる可能性がある。

「環境教育」としてホタルの幼虫を育て、河川に放流するイベントが各地で行われてきた。該当の河川で幼虫を育てて完結するなら多少は環境教育に資するだろう。ただし、あくまで「生き物を大切にしましょう」という情操教育の一環である。忘れてならないのは、放流によって個体数が増えることはまずないという現実だ。環境の包容力は、厳格に決まっている。生態系ピラミッドは恐ろしいほど隙間がなく、種ごとに地域の個体数は「定員」として定められている。地域生態系で生息できるホタルの数は限定されるのだ。

放流すれば、もともとそこにいた個体が追いやられて死滅するか、放流した個体群が定着できないか、いずれかである。だから、イベントとしての効果はあるが、実際に環境保全に資することはまずない。こうしたシステムこそ子どもたちに教える必要がある。

清流の象徴であるホタル。いつまでもその姿を見せてほしい=今川義康さん撮影

良かれと思う行為が環境を悪化させる

今川さんが懸念するように、遠く離れた水系の個体群を放流することは地域生態系や遺伝的多様性を喪失させる可能性が大きい。過去には愛媛県内でも、ホタルを別の自治体で捕獲して自分たちの自治体へ放流したという「窃盗」ともいえる事例があった。水系が変われば潜在遺伝子が微妙に違う可能性がある。つまり、地域個体群としては別となる。異分子を放流すれば、そこに生息してきたホタルの遺伝子がかく乱されるのである。それはホタルの遺伝的多様性が失われることを意味する。

そうした行為をこれまで多くのマスコミが疑いをはさむことなく報道し、環境教育・自然保護だという誤解を流し続けている。筆者は愛媛新聞の現役記者時代、「放流や植樹については原則、取材しない。それでも取材しなければならないケースでは、放流・植樹する生物種の原産地を明記すること」という規則を定めたことがある。しかしこの内部規定も、今やほとんど忘れ去られている。

同様の事例は多い。アユ(琵琶湖産の個体が多い)の放流やヒラメ、タイの稚魚放流など。ホタル同様、放流によって魚の個体数が増えることは、まずない。放流する種に混入して他の「国内外来種」が放出されるケースも多い。こうなると、地域生態系のかく乱はさらに進むことになる。良かれと思って行った行為が環境を悪化させることに、当事者はそろそろ気づかねばならない。

 

(C)News Kochi(ニュース高知)

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