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なぜ学校で…。高知市立小プール死をめぐる疑問⑪議会は動くのか

高知市の教育委員は教育長を除いていずれも長期にわたって委員を務めている。学校整備に高知市は予算をかけてこなかったという指摘もある。それらも含め、2024年7月5日のプール死亡事故の要因は重層的に絡み合っているはずだ。糸を解きほぐすように丹念な検証をしない限り、市民への真摯な報告はできない。再発防止につながらない危険性すらある。検証に向け、鍵を握る高知市議会定例会は9月9日に開会する。(依光隆明)

「高知市立学校の今後のプールの在り方に関する答申」より、各プールの老朽度。「50年以上」が2割を占める

事故の背景に教育予算?

今回の事故の発端は長浜小プールの故障だった。背景には高知市の学校プールが一斉に老朽化した問題がある。検証が欠かせないのは、必要なメンテナンスを高知市がやってきたのかどうか。納入にかかわった業者は、高知市がメンテに予算をかけてこなかったことを指摘している。「プール設置業者に継続的なメンテを頼むべきなのに全くやってこなかった」と。だからプール故障が相次ぎ、とうとう死亡事故まで起きた、と憤る。プールの老朽化に悩む市教委が諮問した先が「高知市立学校の今後のプールの在り方に関する検討委員会」だった。高知市としては、この委員会で学校プールの順次使用停止⇒外部プール利用へという流れを作りたかった可能性がある。背景はおそらく財政問題である。だから検討委員として市は財政部の人間も入れ、プールにどれほど多額の費用がかかるかも検討させた。しかし検討委員会は、小学校に関しては「修理して自校を使う」という答申を出した。事故後に市教委が作った聞き取り資料を見ると、その答申にこだわった対応をしようとしたのが教育長であり、そうでないのが事務局を務めた学校環境整備課だったように見える。

学校プールのメンテンナンス、あるいは学校施設への予算のかけ方は検証の要点の一つだといえる。なぜなら今回の事故でもプールを修理しようという動きが極めて鈍いように見えるからだ。プール修理の予算が潤沢であれば、教育委員会も学校現場も「いくらかかってもいい、一刻も早く直してくれ」と業者に頼む。迅速に長浜小プールを直していれば今回の事故はなかったのである。しかしそうはならなかった。何十年にもわたって学校施設にカネをかけない伝統がしみついていて、それが今回も出たのではないか。修理予算の計上に腰が引けたから最もカネのかからない南海中プールの使用という結論を出したのではないか。いずれにしろ財政問題と今回の事故は切り離せない。第三者委員会「高知市立長浜小学校児童プール事故検証委員会」の立ち上げに当たり、7月25日の会見では桑名龍吾市長も「(検証委員会の)議論の成り行きを見守っていかなければならないが、(予算措置の必要性など)そういった議論にもなっていく。そういった議論が出てきたときには市としてどう対応するのかを検討していかなければならない」と話していた。

「高知市立学校の今後のプールの在り方に関する答申」より。実際は61校ある。長浜小学校のプールは築32年で、プールの状態評価は3の「必要に応じて適時修繕」

顔ぶれ変わらぬ教育委員

教育予算と関連して浮上するのが教育委員である。松下整教育長は就任して3年足らずだが(任期3年)、教育委員(4人)は15年目、11年目、11年目、9年目。県の教育委員会と比べるといかに長いかが分かる。県の教育委員(5人)は最長の委員でも6年目。あとは5年目、3年目、3年目、1年目となっている。教育委員を選ぶのは首長であり、議会の同意を得て任命される。権限は重く、文部科学省はその役割を以下のように書いている。

■教育委員は執行機関の一員であり、教育委員会の重要事項の意思決定を行う責任者であるという自覚を持ち、教育委員会における審議を活性化させるとともに、教育長及び教育委員会事務局のチェックを行う。

■教育行政のプロでは持ちにくい、それぞれの視点から、地域の抱える課題を捉え、地方公共団体の長や教育長、事務局とともに、より一層民意を反映した教育行政を実現していくこと。そのために不断の研鑽に努める必要があること。

つまり今回の事故について、教育委員が無関係ということはあり得ない。

教育施設予算が十分でないことがプールの故障頻発につながった可能性があれば、責任の一端は教育委員にある。現在のメンバーを教育委員に選んだのは前市長の岡﨑誠也氏であり、岡﨑市政の執行機関の一員として教育にかかわってきたからだ。懸念されるのは、岡﨑市政と親和性が高いがゆえに長期にわたって教育委員を務めているのではないかという可能性。首長の思惑に教育委員の選任が左右される懸念について、文部科学省は〈首長が委員の選任に権限と責任を有しているにもかかわらず、それを、地域の教育問題の解決を左右するほどの意味を持つものとして認識せず、選挙の論功行賞や庁内のローテーション人事として利用するなど、情熱をもってかつ慎重に人選に取り組んでいない〉という指摘があることを紹介している。岡﨑氏の教育行政を支えた教育委員メンバーが平均で12年近くもその職にとどまり続けてきたことが教育予算に、教育施設にどのような影響を与えてきたか。教育施設関係予算の低位安定につながった可能性があるのだとしたら、それも検証する必要がある。かといって教育委員会が人選した第三者委にそのような検証ができる可能性は低い。

人選に問題がなかったとしても、月1回・計8回の委員会だけできっちりとした検証ができるのだろうか。本気でやろうとすれば、第三者委が自らの手で関係者すべての聞き取りを行う必要がある。学校、教育委員会、プール施設業者、教育関係者…。仮に10人に絞ったとしても、1時間ずつやって10時間。このほか、何らかの方法で子どもたちの話も聞いておく必要がある。よほど集中的に審議しないと真摯な検証までたどり着けないのである。誰が計8回の委員会で結論を出すと決めたのかといえば、調べられる側の教育委員会がすべてを決めている。せめて市長部局に第三者委員会を置けば違っただろうが、桑名龍吾市長はそうはしなかった。では誰が市民の期待に応えるのか。考えられるのは議会しかない。

2023年に岡﨑誠也氏が交付した「高知市立学校の今後のプールの在り方に関する検討委員会条例」の一部

市民の期待に応えられるのか

兵庫県知事のパワハラ問題で同県議会は百条調査特別委員会を作って疑惑を調べている。知事を含む関係者を呼び、証言を交差させて真実に辿り着こうと集中的な尋問を続けている。高知県議会も2000年に百条調査特別委員会を作って知事や副知事をはじめとする多数の関係者を尋問した。調査権は議会の「伝家の宝刀」とも呼ばれている。つまりいざというときに調査権を行使するのが有権者の付託を受けた議会の役割だと言っていい。もちろん高知市議会も「伝家の宝刀」を持っている。

今回の事故は高知市内外の多くの人たちに衝撃を与えた。授業中に、何の瑕疵もない小学4年生を学校が死なせているのである。これでは安心して子どもを学校へ送り出せない、と思った保護者は少なくない。不幸な事故を踏まえ、何をするべきか。第一に取り組むべきは真摯な検証であり、それをすることによって二度と不幸な事故が起こらないような手立てを取るほかない。本来、その先頭に立つべきなのは市民の代表である市議会議員である。第三者委員会は教育委員会の付属機関であって、市議会とは何の関係もない。つまり第三者委の存在が議会活動の制約になるはずはないのだが、市議会の動きは不審なほど鈍い。市長を守りたいために動かないのか、過去の市政を検証されたくないために動かないのか。聞こえてくるのは複数会派のベテラン議員たちが「動くべきではない」と声を上げたという話ばかり。第三者委が動き始めたから議会は遠慮すべきだという理屈らしいが、そんな理屈を市民に説明できるのだろうか。そもそも第三者委の報告に議会が責任を持てるのだろうか。ひょっとすると動きたくないために第三者委の存在を挙げているのかも、とすら想像してしまう。検証しようとしたらその作業は膨大になる。知恵も労力も責任感もいる。第三者委員会任せにした方が、確かに楽なのである。

事故が起きた直後から議会の中には「特別委員会を作るべきだ」という声がある。2番目に大きい会派、市民クラブ代表の岡崎豊氏がその方向で地道に動いているものの、会派内にも否定的な声があって大きな動きにはなっていない。沈黙状態だった最大会派、「自民・中道の会」から9月に入って事故の詳細を質問で取り上げようとする動きが出たが、数人のベテラン議員が押しとどめたこともあって実現しなかった。なぜか議会周辺では「動かないほうがいい」という声が広がっている。

市民の中では事故は全く終わってはいない。来年3月、第三者委員会が検証を尽くした報告書を出さなければ来年度の水泳授業にも赤ランプがつくからだ。子どもを学校に送り出すのをためらう保護者もいるかもしれない。保護者を安心させるのは真摯な検証と再発防止しかない。高知市の教育予算が少しでも関係している可能性があれば、市議会議員も無関係ではない。(続く)

(C)News Kochi(ニュース高知)

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