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なぜ学校で…。高知市立小プール死をめぐる疑問⑩教育長が浮いていた?

高知市立南海中学校のプールで長浜小学校4年生の児童が溺れたのは2024年年7月5日午前10時48分ごろだと思われる。高知市教育委員会が事故を知ったのは、児童が救急車で運ばれている午前11時30分ごろだった。

市教委資料から。事故の一報を聞き、教育長は水深の測定を指示している

事故直後も水深にこだわる

亡くなった児童が午前11時30分に救急車の中にいたのは市教委資料で示されている。11時04分ごろのこととして、資料にはこう書かれている。

〈救急隊員が到着し、処置を任せた。救急車には、長浜小校長が同乗した。救急隊員から児童の情報がほしいと言われ、救急車の中から11:27と11:32に学校へ電話をした〉

この前段には長浜小校長が午前11時ちょうどに南海中プールに駆けつけたこと、心肺蘇生の作業に加わったあとで救急車に乗ったことが書かれている。校長は救急車の中から2度長浜小に電話して児童の情報(内容は不明)を救急隊員に伝えていた。

午前11時30分、市教委学校教育課に電話で事故の一報を入れたのは南海中の校長だった。市教委内で事故の共有がなされ、教育長が指示を出す。中身は職員を現地に派遣することと、水深測定の指示だった。市教委資料はこう書く。

〈教育長から、病院と南海中への職員派遣指示と水深測定指示をした(原文のまま)〉

注目すべきは、松下整教育長が事故後も南海中の水深にこだわっていたことだ。長浜小の4∼6年生に南海中プールを使わせる際、プールの水深にこだわっていたのが松下教育長だった。教育長は固形塩素を使用して長浜小を使う案、長浜小のプールを使うために水泳授業を2学期に固める案も検討させている。現場で保健体育の教員経験を積んだからだろうか、小学生に中学校のプールを使わせることに一貫して消極的だったように見える。教育長は2023年11月に出た「高知市立学校の今後のプールの在り方に関する答申書」も気にしていたと思われる。そこには「小学校は故障を直して自校プールを使う」という方針が書かれている。それに従えば長浜小プールの修理を第一に追求すべきであって、即座に南海中プールを使うという結論は出ない。

高知市立長浜小学校(Google Earthから)

笛吹けど踊らず?

対照的に、「高知市立学校の今後のプールの在り方に関する検討委員会」の事務局を務めた市教委学校環境整備課は「自校プール使用」に執着したようには見えない。市教委の資料を見る限り、南海中の水深をことさら気にかけているのは松下教育長だけのように見えるのだ。一歩下がって推移を見れば、笛吹けど踊らずといった構図にすら映る。

松下教育長は中学校の校長から教育長になって現在3年目。12月末までが任期なので、もう最終コーナーを回っている。教育委員会ならびに教育委員会事務局を率いるのは教育長であり、市の教育行政に責任を負うのも教育長だ。議会の承認を得て市長から任命されるので、権限も責任も大きい。文部科学省は、教育長に求められる役割をこう説明している。〈教育長は、教育委員会の会務を総理し、教育委員会を代表するとともに、具体の事務を執行する、教育行政の第一義的な責任者である〉

組織上の立場はそうであっても、実際に教育委員会を動かすには手腕と経験がいる。たとえば松下教育長が率いる教育委員(4人)は就任15年目、11年目、11年目、9年目というベテランぞろい。教育委員会事務局の組織も大きい。教育委員会事務局や教育委員の言うがままになれば楽だろうが、自分の理想を実現しようとしたらよほど実力がないとできそうにない。今回の事故で垣間見えるのは、教育長が思い通りに教育委員会を動かせていないのでは?ということだ。

事故を受け、高知市教委は付属機関として第三者委員会「高知市立長浜小学校児童プール事故検証委員会」を作った。重要なのは、市教委はもとより市長を始めとする市長部局も、市議会多数派も、年度末に報告書を出すであろうこの検証委員会に下駄を預けてしまっていることだ。2024年7月25日の記者会見で桑名龍吾市長は、この検証委員会の役割について➀事実関係をしっかり把握してもらう➁発生原因を分析する③再発防止策を検討する――と力を入れた。当然ながら➀と②が緻密でなければ③は出ない。想定している委員会開催頻度は月1度ペースだが、月1度の開催で➀②を解明することができるのだろうか。第三者委員会を第三者がチェックするには公開が欠かせない。桑名市長はこの会見で「原則公開だ」と力説したが、検証委員会自体の判断で完全非公開(委員会後の説明等もなし、視察も非公開)が決まった。外から見えない以上、どのような議論が進んでいるか、厳密な聞き取りが行われているか、➀②があいまいなまま再発防止策ばかりを議論しているのではないか、等々を市民は全く知ることができない。

検証委員会のメンバーは市教育委員会が選び、事務局も市教委である。今回の事故で最も検証されなければならないのは高知市と高知市教委なのに、検証委のメンバーを市教委が決め、事務局も市教委が務める。高知市民が最も懸念するのは議論の方向まで市教委が決めてしまうことなのだが、それをチェックするすべはない。(続く)

(C)News Kochi(ニュース高知)

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