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なぜ学校で…。高知市立小プール死をめぐる疑問➄水位が上がっていた

今回の事故で不可解なのは、長浜小が南海中プールの水位にさして関心を示していないように見えることだ。教育長を始め高知市教育委員会が南海中プールの水位を気にしていたのとは対照的に映る。その矛盾が6月11日以降に噴いてくる。(依光隆明)

南海中のプールで行う水泳授業の日程表

水位は上がっていた

引き続き高知市教育委員会が聞き取った資料に沿って進める。

6月7日、長浜小の校長が南海中と連絡を取って水泳授業の日程を決めた。南海中も水泳の授業をしなければならないから調整は欠かせない。やり取りしたのは午前9時4分、午前10時23分、午後1時59分の3回。ほか、午後零時50分ごろに長浜小校長が市教委学校環境整備課に浦戸小での水泳授業日程とバス停車位置の決定を伝えている。

6月10日、長浜小は学校家庭連絡システムを使って保護者に南海中、浦戸小での水泳授業の日程を配信する。南海中での授業は6月11日から7月11日まで、各学年(4~6年)2時間×4回となっていた。

6月11日午後、南海中のプールを使う初の水泳授業が行われた。授業をしたのは5年生で、長浜小の校長も同行した。重要なのは、南海中プールの水位が上がっていたことだ。6月5日、長浜小の校長と教諭3人が南海中のプールを調べたときには水深は100~120センチだった。南海中プールの満水位が120~140センチであることもそのときに把握している。6月11日は5日時点と満水位の中間程度だったらしい。校長が目視しただけなので、正確なところは誰にもわからない。

市教委の資料より。6月11日、長浜小の校長が水位の10センチ上昇を確認していた

「情報共有には至っていない」

市教委の資料は以下のように淡々と書いている。

〈長浜小校長は、この日の水位が、6/5(水)の現地調査の時より10センチ程度上がっていることを目視で確認した。南海中への水位上昇の理由の確認や、長浜小教諭との水位についての情報共有には至っていない〉

おさらいになるが、市教委は南海中プールの水位を気にしていた。水位が「長浜小と同程度」だと知ったあとで南海中プールの使用にゴーサインを出している。ところが市教委の問題意識は長浜小の校長には伝わっていない。さらにいえば、長浜小の校長は水位には関心を示していなかったと考えられる。市教委の資料を見る限り、長浜小の校長は水位上昇について市教委に報告をしていない。長浜小の教諭たちとの情報共有もない。

市教委の資料には長浜小の校長が6月14日(5年)、6月24日(6年)、6月28日(4年)の授業にも同行したことを書き添えている。

南海中プールの設計図面。25メートル×16㍍

浅い所でも頭の6センチ上

6月21日、南海中プールを使った4年生の初水泳授業が行われた。指導役は教諭Aと教諭B(市教委の資料通り。今後もこの2人をA、Bとする)で、監視役は長浜小の養護教諭。このときA教諭は南海中のプールが満水であることに気づく。B教諭の方は校長に帯同して6月5日の南海中プール現地調査に参加していた。B教諭も21日の南海中プールが満水であり、5日の現地調査時よりも水位が高いことを目視で確認した。

授業の冒頭、A教諭とB教諭は「苦手な子は浅いところにいること」「小学校のプールとは違うから絶対にふざけないこと」「背が高くても不安なら浅い方に来ること」と児童に注意を呼び掛けた。

満水位ということは、浅い所で120センチ、深い所は140センチある。4年生に当たる9歳児の平均身長は、高知県で男子133センチ、女子134.1センチ(いずれも2022年度)。7月5日の授業で亡くなった長浜小4年生の身長は113.8センチ(2024年4月測定)だった。浅い所でも水面は頭のてっぺんのさらに6センチ上になる。

市教委資料には「浮き」の練習をしていたときのことが書かれている。

〈被害児童は、南東角の最も浅い位置にいたが身長的に厳しかった。教諭Bが、一度体を持って足がつくか確認したが、水位は頭の上だったので、被害児童に半分つきっきりで対応した〉

この児童だけではない。「けのび」の練習では壁にしがみつく児童がいたことが以下のように書かれている。〈教諭Aは、けのびをプールサイドから見ていたが、壁にしがみつく児童がいたと記憶している〉。壁というのはプールの壁面のことだろうか。深いプールに戸惑う児童たちをA教諭もB教諭も確認していたことになる。ちなみにこの授業に参加した4年生の児童数や泳ぎが苦手な児童の比率、A教諭とB教諭の分担などは市教委資料には書かれていない。

市教委の資料から。長浜小の教諭たちは南海中のプールが満水位だったことを認識した

3人が溺れかけていた

市教委資料にはビート板を使ってバタ足練習をしていたとき、3人の児童が溺れかけたことが載っている。うち1人は7月5日の授業で亡くなった児童だった。3人が溺れかけたときのことを、市教委資料は以下のように表現している。

〈被害児童、児童➀、児童②の男子3人が、あっぷあっぷした時に、両教諭にすくい上げられる場面があった。被害児童は、バタ足が得意ではなくあまり進まないので、教諭がビート板を引っ張るなどの補助をした〉

「溺れかけた」と書いたが、ほかに表現のしようがない。〈あっぷあっぷした〉だけではさっぱり状況が分からないのだ。後日の授業で児童が亡くなっていることを考えると、〈あっぷあっぷした〉という状況こそ詳細に聞き取らなければならない。深刻な状況であれば今後の授業を考え直す必要があった。そもそも調査時とは20センチも水位が違っているのである。そんな状況で授業を始め、3人が〈あっぷあっぷ〉してしまう。平均身長が130センチ少々の小学4年生を水深120~140センチの中学校プールで泳がせ、しかも〈あっぷあっぷ〉という事態まで生じた。これで何の手立ても打たないのは不可解とさえいえる。

授業後、A教諭とB教諭は長浜小に戻って校長に事態を報告した。市教委資料はこう書く。

〈両教諭は、あっぷあっぷした3人の男子児童がいたことを長浜小校長に報告した。長浜小校長も1回目の授業後、教諭から「溺れかけた児童がいる」との報告を受けたと記憶している〉

1回目の授業後とは4年生の初回授業後ということだろう。つまり3人が溺れかけた事実について報告を受けたことを認めている。しかし市教委の資料を見る限りでは長浜小の教諭にも、保護者にも伝えていない。市教委への報告も行われていない。

南海中のプールが満水位となっていたことをA教諭とB教諭が長浜小の校長に伝えたかどうかもわからない。少なくとも市教委の資料には載っていない。(続く)

(C)News Kochi(ニュース高知)

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