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高知市とシダックス⑥「通知から2カ月」の新ルール

2024(令和6)年5月7日、高知市は「始期まで」問題で新しい運用方針を公表した。シダックス大新東ヒューマンサービス(東京)が「高知市立龍馬の生まれたまち記念館」(高知市上町)の指定管理を受託できたのは、①「始期まで」に指定管理開始日を含める②指定管理施設に営業所なるものを置く③それらを高知市が認めた―の3点セットがあったため。この3点セットには手を付けないまま、実質的にはそれまでの方針を変更することを明らかにした。(依光隆明)

現在の募集要項。「指定管理期間の始期までに市内に営業所を作る」を応募資格にしている

あると思った営業所がなかった

おさらいしておこう。

発端は2021年、シダックス大新東ヒューマンサービスが坂本龍馬生誕地近くにある「龍馬の生まれたまち記念館」の指定管理に手を挙げたことだった。

県外企業の応募資格は「高知市内に支社又は営業所等があること」。シダックスは高知に営業所を作っていないが、指定管理の「始期まで」に作ればOKになっていた。

募集要項の文面はこうだ。

〈(応募資格は)高知市に本社、本店、支社又は営業所を設置していることとします。なお、申請時点で、支社又は営業所等を有していない団体等であっても、当該施設の指定期間の始期までに設置できる施設であれば申請可能とします〉

始期とは2022年4月1日午前零時である。それまでに高知市へ営業所を作ることを条件にシダックスは指定管理に応募し、高知市の2団体を退けて受託した。

2022年4月1日からシダックスは「龍馬の生まれたまち記念館」の指定管理をスタートさせた。市議会議員も、市民も、当然シダックスは高知営業所を高知市内のどこかに設けていると思っていた。名のある県外企業が無法なことをするわけがないし、高知市が規則違反を認めるはずがないからだ。ところが2023年11月になって判明したのはシダックスに高知営業所がないことだった。ホームページの営業所一覧にもないし、高知市議会議員がシダックス本社に問い合わせても高知営業所は存在しなかった。

市議会議員の追及に市はこう答弁する。「シダックスは2022年4月1日に『龍馬の生まれたまち記念館』に営業所を置いた。なんの問題もない」。指定管理期間が始まってから指定管理している場所を名ばかり営業所にしていいなら、こんな応募資格をわざわざ作る必要はない。「指定管理者が施設に入るのは当たり前。それを営業所とするなら応募資格なんて必要ない」と一部の議員は憤ったが、市は「『始期まで』には4月1日も入る。指定管理施設に営業所を作っても問題はない」と突っぱねた。

ガイドライン改正の説明文書

「2カ月以内」で2つの難問を解決

大きな問題は2つある。

①「始期まで」に開始日である4月1日を含んでいいのか、という問題と②指定管理施設内に営業所を作って申請資格をクリアさせていいのか、ということだ。

2024年5月7日に市が発表した新方針は、①②ともに不可能にする狙いがあった。

ポイントは「『指定管理者指定通知書』に記載する通知日から2カ月以内に支社又は営業所を高知市内に設置」とガイドライン(高知市指定管理者選定手続ガイドライン)に明記すること。問題となるのは通知日だが、これは「指定管理者の指定に関する議決から2週間程度」と明記することにした。

4月1日が始期の場合、指定管理者の決定を盛り込んだ議案が議決されるのは遅くても12月議会。それから2週間後だと、少なくとも1月10日中旬までが通知日となる。そこから2カ月以内であれば4月1日にかかることはありえない。4月1日にさえかからなければ指定管理施設内に営業所を置くことはできない、という理屈。

新方針を発表した場は市議会の行財政改革調査特別委員会だった。

議員の一人がこう疑問を呈した。

「(ガイドラインの改正案は)営業所を施設内に置いてはだめだ、とは読めないが」と。市の答えは「『2カ月以内』でそこを担保している」だった。「通知日から2カ月以内」という項目さえあれば、指定管理の始期日に指定管理施設へ営業所を置くという裏技は使えないという見解である。つまり「2カ月以内」の項目さえあれば十分、というわけだ。

ガイドラインの改正案(赤字の部分)

抜け穴はゼロではない

市の見解には複数の穴がある。

「通知から2カ月以内」が有効なのは、あくまで議会が予定通りに行われた場合だけ。12月議会が越年することはこれまでにもあったし、これからもありうる。仮に1月中旬までかかったら「2カ月以内」が4月に入る可能性もゼロではない。「営業所を施設内に置いてはだめ」と明記していない以上、4月1日に指定管理施設内に営業所を置ける可能性も出るのである。もちろん可能性がゼロではないというレベルなのだが、想定外を想定しなければならないのは行政の常識でもある。

もう一つは、指定管理が始まったあとである。たとえば社員のマンションを高知営業所にしておいて、それで応募資格をクリアする。指定管理が始まったあと、社員のマンションだと具合が悪いので指定管理施設を高知営業所にしてしまう。「指定管理施設内に営業所を置いてはだめ」と明記されていないので、このやり方は認められることになる。

募集要項には基本協定を3月31日までに締結し、「営業所等設置届出書」の類を添付させるとしている。しかし「2カ月以内」が3月31日を超してしまった場合、「2カ月以内」が優先されるのか、「3月31日」が優先されるのかはあいまいなまま。あいまいさが今回の混乱を招いたのだから、少しでもあいまいさが残ると解決にはならない。

「高知市立龍馬の生まれたまち記念館」の展示から

方針を変えないことが前提だった?

冒頭に便宜上「方針を変更」と書いたが、高知市は方針を変えていない。

市議会行財政改革調査特別委員会の席上、市は「高知市指定管理者選定手続ガイドラインの改正について」という文書を配って説明した。その文書にはこう書かれている。

「(市議会で)ガイドラインの解釈について疑義が生じ、附帯決議がなされたことから、指定管理者の業務開始までの準備期間や提出書類等を整理し、より明瞭なガイドラインに改正を行うもの」

附帯決議の内容は、「遅くても指定期間の始期の前日までに、当該指定管理者にその状況(営業所設置の状況)を報告させること」など。指定管理の開始日(4月1日)に指定管理施設へ営業所を設置する「シダックス方式」に歯止めをかけようとするものだった。

附帯決議を踏まえ、「ガイドラインをより明瞭にした」のが高知市の今回の新方針である。明瞭にしただけだから、方針自体は何ら変えていない。逆説的に見ると、「指定管理施設に営業所を置くのはOK」という方針を変えないために編み出した手立てともいえる。つまり「指定管理施設内に営業所を置いてはだめ」と明記しないまま「シダックス方式」に歯止めをかけるのが「通知日から2カ月」という今回の方針だった。

「始期まで」に4月1日が入る、をOKとする解釈も同様である。市の解釈を変えたくはない。だから「通知日から2カ月」という枠をはめることで4月1日問題が浮上しないように手を打った。はずなのだが、これまで見たように「通知から2カ月」に4月1日が入ってしまう可能性はゼロではない。ということは、「始期まで」問題も消えていない。

新しい募集要項の案

なぜ規則の裏をかく企業に…

2022年春、「始期まで」に4月1日が含まれると主張することでシダックスは高知市の応募資格を楽々とクリアした。法の裏ならぬ応募規則の裏をかいたと言っていい。News Kochiの質問に対し、シダックスは「(『始期まで』に)日本語解釈、法規上4 月 1 日は含まれると認識しています」と回答した。シダックスの主張でいくと、高知市の応募資格に抜け穴があり、シダックスはそれを突いたことになる。4月1日が「始期まで」に入り、同日から指定管理を行う施設に営業所を作ることを認めたら、そもそも県外企業に「市内に営業所を作りなさい」というハードルを設ける意味がない。高知市が設けたハードルに穴があったということだ。

そもそもこの「シダックス方式」を誰が考え出したのだろうか。シダックスからの回答を見る限り、シダックスが独自で発想し、高知市に事前通告して実行したと読み取れる。だとしたら高知市は規則の裏をかかれ、半ば渋々でそれを認めざるを得なかった構図が想像できるのだが…。シダックスが規則の裏をかくような企業であれば、高知市はその後の取り引きを敬遠するはず。ところが議会を見る限りでは市はシダックスの弁護に最大限の力を入れ、2024年4月からは「高知市立自由民権記念館」の指定管理もシダックスに任せている。

「龍馬の生まれたまち記念館」の指定管理にシダックスを選んだ2021年度審査に応募(落選)した団体の男性が首をかしげた。「シダックスの管理になって驚いたのは、『生まれたまち記念館』が何も変わらないこと。働いている人もそのままだし、問題点にも手を打たない。変わったのは責任者がいなくなっただけだ。エリアマネジャーでないと何も判断できないのに、中四国を飛び回ってほとんど高知にいない」。そう言ったあと、あきれたように首を振った。「びっくりしたのは『自由民権記念館』も同じだったこと。働いている人もそのままだし、責任者は「生まれたまち記念館」と同じ人物。高知市は指定管理開始後の状況を全く見ていないのではないか。ひょっとしたら何もしないほうがいいと思っているのかもしれない。(指定管理応募時に出された)シダックスの企画書を見てみたい」

(C)News Kochi(ニュース高知)

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