中山間

秋の再開第一弾は「小林旭」 高知県安田町、日本一昭和な映画館

高知県東部にあるお山の映画館、「大心劇場」で10月18日から25日まで小林旭の「ギターを持った渡り鳥」が上映される。夏場の休止期間を経て、3カ月ぶりの再開。1959年公開の日活映画で昭和の雰囲気を楽しんでもらう。(依光隆明)

大心劇場に貼られている「南国土佐を後にして」のポスター

1959年公開「渡り鳥シリーズ」第一弾

今も活躍中の小林旭さん(86)が20歳のときの作品で、のちに連作される「渡り鳥シリーズ」の第一弾。小林さんは1959年8月の「南国土佐を後にして」に主演し、大ヒットを記録。人気上昇を受けて2カ月後の同年10月に「ギターを持った渡り鳥」がリリースされた。両作とも監督は斉藤武市で、共演も同じく浅丘ルリ子。ほか、中原早苗、渡辺美佐子、金子信夫、宍戸錠らが出演している。「南国土佐」の舞台が高知だったのに対し、「ギターを持った渡り鳥」の舞台は北海道・函館。

大心劇場ができたのは「南国土佐を後にして」や「ギターを持った渡り鳥」ができる5年前、1954(昭和29)年。旧中山村(昭和18年に合併して安田町)に「中山映劇」として誕生し、1982(昭和57)に現在地(安田町内京坊)へ建物を移して大心劇場として再オープンした。国道55号を山側に折れ、車で約10分。ごめんなはり線の安田駅からは徒歩で約30分。県道の対岸、山に囲まれた中に喫茶「豆でんきゅう」があり、その並びに大心劇場が立っている。

看板製作中の小松秀吉さん=安田町内京坊

「今年は暑かったきねえ」

館を経営するのはフォーク歌手「豆電球」としても活動する小松秀吉さん(73)。普段は喫茶「豆でんきゅう」のマスターで、ライブに呼ばれたときはギターを持って「豆電球」、映画を上映するときは大心劇場の館主となる。映画は月1回・8日連続興行のペースで、細く、長く続けている。

71年前の建物を使っているだけに、大心劇場の館内は昭和の雰囲気が満載。ネックはエアコンがないことだ。冬場は石油ファンヒーターを持ち込んで重ね着で鑑賞してもらうが、夏の暑さは逃げようがない。小松さんによると、「中山映劇の時代は2階の窓を開けて夏も上映しよった」とか。しかし移転後は窓を開けにくくなったうえ、夏の暑さは年々厳しくなるばかり。「西日もきついし、お年寄りが倒れでもしたら大変やき」と7、8月は長期休館に入っている。

「今年の夏は暑かったきねえ。9月も休んで10月からにした」と小松さん。暑さを考え、休館明けの上映を10月半ばまで持ち越した。「10月の後半になったらちょっとは涼しゅうなるろうき」とも。

高知県東部、安田町。アユで有名な安田川をさかのぼった場所に大心劇場はある=Google Earthより

映画大好き人間の聖地に

近年、大心劇場は「日本一昭和なお山の映画館」としてその存在が注目されている。小松さんが言う。

「きのうも沖縄からバイクの青年が来たがよ。映画館の中を見せちゃったら喜んで、『次は映画を見に来ます』と言うて帰った。その前は神戸から80歳の人が家族で来た。その人も大喜びで帰っていった。だいたい1日1組くらいはそんなお客さんが来るがよ」

昭和の映画館を見たい、懐かしさに浸りたい、小松さんに会いたい。来る人の思いは様々だが、みんなが喜んで帰る。女子中学生の2人組は、館を見たあと「歌って!」と小松さんにせがんだ。ギターを持ち出して持ち歌の幾つかを聴かせてあげると大喜びで帰っていった。昭和の映画館と小松さんの優しいキャラ。訪れた人の記憶に深く楽しく刻まれる、映画大好き人間の聖地になりつつある。

完成間近の看板。3日がかりでコツコツつくり上げた

18日∼25日、1日2回

10月9日午後には「ギターを持った渡り鳥」上映告知の看板が完成した。作業するのはすべて小松さん一人。7日に立て看板へまっさらの紙を張り、8日にその全面へ色を塗って9日に文字を描いた。紙を張っても、色を塗っても、乾燥させる時間が欠かせない。しかも喫茶店のマスターをやりながらなので完成までには時間がかかる。

「看板を描き始めたのは中学の終わりごろやった。親父から『描きたかったら描いてみいや』と言われて描き始めて。ほかの館にも見に行った。当時は館主さんが看板を描きよった時代やき」

館主が描くということは、館ごとに看板の個性があることを意味する。それを見に行って技術や字体、字の配置を学んだ。小松さんの描く看板自体にもファンがいる。看板を「売ってほしい」と言われたこともある。

「ギターを持った渡り鳥」のポスター

「11月は舟木一夫で」

「ギターを持った渡り鳥」の上映は10月18日(土)から25日(土)までの8日間。昼の1時と夜の7時に上映する。料金は大人1500円。問い合わせは0887・38・7062の喫茶「豆でんきゅう」へ。

小松さんによると、「11月は舟木一夫主演の映画を上映する」ことに決めている。舟木一夫の作品は昨年も今年も上映したが、「ファンが多いがよ。『ぜひやってくれ』って言われちゅうし、県外からも見に来てくれる」とか。

昭和の映画も、新しい映画も。来年の6月まで、月1回(気が向けば月2回)のペースでいろんな映画を上映する。

(C)News Kochi(ニュース高知)

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