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高知県の行政不服審査を検証する➃「被告」と「裁判官」が同一人物?

行政不服審査法に基づく審査請求を受けて高知県教育委員会が出した裁決書には腑に落ちない点がたくさんあった。審査を請求したAさんがそのことに疑問を呈すると、県教委は更正文書を送ってきた。(依光隆明)

情報開示請求に対し、県教育委員会が出した「不存在決定通知書」。公文書ではないという解釈だった

そもそも更正できない?

おさらいしておこう。高知県内に住むAさんは県立学校の処置に疑問を持って県教育委員会に情報開示請求を行った。請求文書の中に、学校が処置を出す際に校長が読み上げた文書も含めた。結果は「非開示(不存在)」。読み上げ文書は私文書であり、公文書としては存在しないというのが県教委の判断だった。それはおかしい、とAさんは行政不服審査法に基づく審査を請求した。それが2024年の初め。同年9月、諮問を受けた県行政不服審査会は「認容すべき」という答申を出した。Aさんの主張を認めなさい、開示しなさいということだ。翌10月、県教委は裁決書を出す。裁決は「却下」「棄却」「認容」のいずれかなのだが、県教委が出した裁決書の主文は「認容」ではなく「容認」だった。結論部分に載せた条文は「棄却」を表していた。

支離滅裂ではないか、と憤ったAさんは11月1日に質問書を送り、12月11日に公益通報者保護法に基づく通報を行った。県教委は誤りを認め、12月19日付で「裁決書の更正について」という通知をAさんに送る。「更正」というのは職権によって内容を改変するということ。内容を変えずに字句を直す「訂正」とは重みが違う。更正したのは主文、結論、教示欄など6カ所だった。更正通知が送られてきたあと、Aさんは公益通報窓口にメールで以下のような通報を加える。

〈裁決には拘束力(不可変更力)があり、更正できる場合は、同一性を害さない限り書き損じ等に限られます。しかし、当該更正文書は、書き損じを超え、同一性がありません。行審法第52条違反です〉

行審法第52条というのは、裁決には法的拘束力があるという内容。裁判所の判決と同等の重みを持つということだ。つまり裁決書は行政の最終決定であり、裁判における判決文と同じく字句の訂正等以外の変更は許されない、とAさんは考えた。

裁決書の決裁文書。県教委人権教育・児童生徒課が起案し、教育長まで回っていた

担当者まで同じだった!

それからもう一つ、それ以上に疑念を持ったのは被告が裁判官を兼ねることだった。行政不服審査では「処分庁」が行った処分の当否を「審査庁」が審査するのだが、今回の場合は処分庁が県教育委員会で、処分が「非開示」。その妥当性を審査する審査庁も県教委で、審査庁としての県教委が、処分庁(県教委)が行った処分について裁決を出していた。法の定めでそうなっているのだが、問題は処分を起案した課も裁決を起案した課も同一だったこと。調べるうちにAさんはさらなる驚愕の事実を発見する。起案者、つまり担当者まで同一だったのだ。俎上に上がった処分(非開示処分)を起案した担当者が、いわば裁判官として裁決書を起案していた。

2022(令和4)年6月に総務省行政管理局が出した「行政不服審査法事務取扱ガイドライン」は除斥(じょせき)について定めている。除斥とは手続きの公正さを図るために関係職員をその手続きから外しておくこと。このガイドラインは「審理員の除斥事由」として行政不服審査における除斥対象者を定めている。教育委員会は審理員を充てなくていいが、担当者の除斥事由は審理員と同じ。この規定がそのまま使われる。

ガイドラインによると、除斥事由の筆頭にあるのは「審査請求に係る処分若しくは当該処分に係る再調査の請求についての決定に関与した者又は審査請求に係る不作為に係る処分に関与し、若しくは関与することとなる者」。具体的な例が挙げられていて、そこには「処分等の決定書を起案した者」「処分等の決定権者」「処分等に係る稟議書に押印等した者」が並ぶ。

非開示処分を決めた決裁文書。裁決書の起案者と同じ職員が起案していた

ガイドラインを無視?

Aさんが情報開示請求で入手した回議書を見ると、「非開示処分」を起案したのは人権教育・児童生徒課のBさん。裁決書を起案したのも同じ課の同じBさんだった。Bさんが非開示処分を起案したのであれば、Bさんは裁決の過程から除斥しなければならない。「処分等に係る稟議書に押印等した者」に至っては、係、チーフ、課長補佐、課長がこぞって該当する。つまり非開示処分を下した人権教育・児童生徒課は裁決には関わってはいけないことになる。

もちろんガイドラインは法律とは違う。しかし法律の趣旨を形にしたものがガイドラインであって、法律を勝手に拡大解釈してガイドラインを無視してしまったら行政そのものが成り立たない。

どう考えても県教委は暴走している、しかし県教委自身は暴走だと思っていない。そんなとき、住民はどうしたらいいのか。Aさんは最後の手段に出た。(続く)

(C)News Kochi(ニュース高知)

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