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高知県の行政不服審査を検証する➇判決は2026年1月

高知県教委の被告準備書面に対し、Aさんは10月半ばに原告準備書面で反論した。全面的に反論を加えているが、最重要と思われる「除斥」(じょせき=関係者を職務執行から排除する)の部分だけを紹介する。裁判は弁論が終結し、来年1月に判決が下る。(依光隆明)

高知県教育委員会が入る高知県庁西庁舎

発端は「県教委が法律違反?」

まずはおさらいを。

➀2023年、県内在住のAさんが県教委に対して文書の情報公開請求を行った。➁県教委が下した「非開示処分」に納得できないAさんは、2024年初めに県へ行政不服審査を申し立てた。③行政不服審査法では非開示処分を下した「処分庁」を庁内の「審査庁」が審査する。➃法の定めで、Aさんの件は審査庁も処分庁も県教委だった。つまり被告側が裁判所を兼ねるという奇妙な構図となった。⑤2024年10月、県行政不服審査会を経て審査庁(県教委)はAさんに裁決書を出す。➅裁決はAさんの主張を認めた内容だったが、内容が正確に伝わらないほど裁決書に不備があった。➆加えて県教委は非開示処分を下した職員(処分庁の担当)を行政不服審査(審査庁)の担当にしていた。➇法律は処分庁と審査庁の担当者が同一であってはいけないと「除斥」の規定を定めている。つまり県教委が法律違反を犯している疑いがあった。⑨2025年4月、裁決の取り消しを求めてAさんは県教委を訴えた――。

提訴日は2025年4月14日。被告は高知県、代表者は高知県教育委員会(代表者は教育長)。事件名は行政不服審査裁決取消請求事件で、裁決の取り消しと弁護士費用の被告負担を求めている。損害賠償額は160万円。

被告準備書面が除斥に関する判例を「不知」とした点にもAさんは反論を加えている=Aさんの原告準備書面より

「決裁ラインにある職員」はダメ

被告準備書面ですでに県教委は非開示処分を下した職員と行政不服審査の裁決を下した職員が同一だったことを認めている。その上で、〈教育長の指揮の下で同一の課の職員が担当することも、法令違反に該当するものではない〉と主張した。決めるのは決裁権者だから、その指揮下にあれば誰がやっても構わない、という論理だと思われる。Aさんはそこに反論を加えていく。

〈行政不服審査法第9条第1項の規定により、教育委員会が審査庁である場合、審理員が指名されない。なぜなら、教育委員会は、優れた見識を有する委員で構成される合議体であるから、公正かつ慎重な判断が担保されているからである。したがって、教育委員会の構成員が自ら審査庁として審理手続きを主宰する〉

通常、審査庁は「審理員」を選んでその職員に審査をさせる。ところが教育委員会は審理員を選ぶ必要はない。教育委員という見識ある者が集まった合議体なので、審理が偏ることはないと考えられているからだ。これは法律でそう決まっている。

〈この場合において、行政不服審査法第9条第4項の規定により、教育委員会の職員が、審理手続の一部を処理できる。これは、一般の行政事務と同様に、審査庁の最終判断を左右しない事務に関しては、審査庁自らが行うよりも、その職員が処理した方が合理的だからである。同項によると、「その職員」が行うことができる審理手続について、「口頭意見陳述の聴取」等の5個を指定している。5個とも調査や検証に関することで、判断に関することについては指定されていない。「その職員」の資格については、同項の括弧書きにより、第2項第1号が適用され審査請求に係る処分の決定に関与した者は除斥される。このことは、法律の趣旨からすれば自明である。行政不服審査法の改正にかかる国会審議において、政府側答弁者も「その職員」から除斥される者について説明をしている。審理員は独立した権限を持ち、補助職員も原処分に関与した者は避けるなど法案の趣旨に則した選任が求められる〉

被告が裁判官になってしまっては判決(裁決)が信用されるわけがない。だから行政不服審査法では処分にかかわった職員を除斥するように求めている。厳格な除斥は行政不服審査法の根幹なのだ、とAさんは指摘している。

〈ただし、教育委員会の構成員たる教育長及び教育委員については、当該処分に関与していても除斥されない。「当該処分に関与した者」とは、①処分等を行うための立入検査、事実認定等を行った職員、②処分等の起案をした職員、③処分等の書類の回議を受けたり、決裁した決裁ラインにある職員、④処分等に係る聴聞の主宰者及び補助者となった職員などとされる。また、単に、処分等の担当組織に所属しているだけで、当該処分に関わる事務に全く従事していない職員や、法令担当課で処分等に関して相談を受け、一般的な解釈 を示した職員などは除斥事由に該当しないとされている(伊東健次『Q&A行政不服審査制度の解説』)〉

教育長や教育委員が除斥対象にならない理由は、除斥してしまうと審理庁が成立しない恐れがあるため。職員に関しては、除斥対象となる「処分に関与した者」が細かく定められている。つまり教育長と教育委員を除く教育委員会の職員すべてが除斥候補であり、その中の「処分に関与した者」は除斥しなければならない。それを踏まえて、Aさんは以下のように結論づける。

〈本件裁決については、上記②、③の職員が、審理手続きをしていることを被告自身が認めている。したがって、本件裁決については、行政不服審査法第9条第4項の規定に違反する手続き上の瑕疵があり違法である〉

除斥対象者について、総務省行政管理局作成の「行政不服審査法 審査請求事務取扱マニュアル」も「処分等に係る稟議書に押印した者」などと具体的に定めている。今回の場合、非開示処分を下した稟議書に押印している者と行政不服審査の裁決にかかわる稟議書に押印している者が重複するので、そのマニュアルにも反している。

高知地方裁判所

上の指揮下なら除斥なし?

Aさんの主張は法律を条文通りに解釈した内容だと言っていい。これに対し、県教委の主張は〈教育長の指揮の下で同一の課の職員が担当することも、法令違反に該当するものではない〉。要するに、「裁決を決定するのは教育長であって、その下の職員は決定にかかわっていない。だから除斥は適用しなくてもいい」という論理だと解釈できる。裁決は行政不服審査会の答申を受けて教育長(あるいは教育委員の合議)が決める。起案や決裁にかかわった職員は上の命令で機械的に仕事をこなしているだけなのだ、という主張なのだろう。あえて表現すれば実質論だと言えるかもしれない。

総務省は「処分等に係る稟議書に押印した者」などと誰にでもわかるマニュアルを作って除斥対象を定めている。マニュアル通りに除斥するのが法に沿っているのか、責任者の指揮下であれば除斥規定は適用されないのが法の趣旨か。本人訴訟で闘うAさんの主張が認められるのか、弁護士を擁する県教委の主張が通るのか。

10月中旬で弁論は終結し、判決は来年1月下旬の予定。どんな判決が出るのだろう。(つづく)

(C)News Kochi(ニュース高知)

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