政治

高知市教委の「危険のアンテナ」大丈夫?神田小のケースを見る

2024年8月28日から2025年5月27日まで27回にわたってNews Kochiが連載した高知市立長浜小のプール事故記事(「なぜ学校で…。高知市立小プール死をめぐる疑問」)を読んだ高知市内の保護者からNews Kochiにメールがあった。子どもが危ない目に遭ったのに教育委員会の反応が鈍い。危険を感じるアンテナが緩んでいるのではないか、という内容だった。(依光隆明)

現場の位置関係。児童は上方の小さな横断歩道を右から左に渡り、右折して小道を上方に登校していこうとした=Google Earthより

児童の前をトラックが塞ぐ

メールの主を仮にAさんとする。Aさんは高知市立神田小に1年生の子どもを通わせている父親。心配なので登校時は学校近くまで付き添っているのだが、10月7日にこんなことがあった。学校に行くには大きな道沿いの短い横断歩道を渡って右折し、幅4㍍ほどの小道を左側通行で120㍍ほど進まなければならない。朝8時15分、子どもがその横断歩道を渡ろうとした。目の前の信号は青。ところが後方から右折してきた4㌧トラックが小道に進入して横断歩道上で立ち往生し、子どもは前に進めなかった。よく見ると、そのトラックの前方でもう1台の4㌧トラックが住宅地の造成現場にバックで入ろうとしていた。そのため次のトラックが横断歩道を塞いだ形で停止したのだが、そのトラックが横断歩道から前に進んだあと、3台目のトラックが赤信号で(ただし赤に変わっていたという明確な証拠はない)右折して小道に進入した。子どもは横断歩道で立ちすくんだままだった。

Aさんは「危ない」と思った。青信号だから、と子どもが急いで横断歩道を渡ろうとしたらトラックにはねられてしまう危険がある。そもそも登校時間帯に通学路の小道をトラックが次々と走ってはいけないのではないか、とも思った。Aさんは県内の警備保障会社と建設会社で執行役員をしている。仕事柄からも疑問点が目に付いた。小道の先で住宅地を造成しているのは全国大手のハウスメーカー。危険性を考えれば登校時間帯のトラック進入は避けなければいけない。しかも、見た限りでは警備員を1人しか置いていない。幾多の問題点を感じたAさんは造成主の大手ハウスメーカーにメールを送る。数度のやり取りで、警備員の充足と午前9時以前のトラック進入制限を約束させた。進入時間の件は「午前7時半から8時半までの搬入制限」を提示する大手ハウスメーカー側に「午前9時までの搬入制限」を求めて実現させている。その後、市建築指導課や市教委学校教育課にメールで連絡をしたが、Aさんが首を傾げたのは市教委学校教育課の対応だった。

Aさんが作った資料。青い縁取りの○にAさんが立ち、対角線上の横断歩道に立つ自身の子どもを見守っていた

メールの返事は11日後

市建築指導課や市教委学校教育課にメールを送った理由は、分譲地(14区画)での工事が長く続くとみたからだ。造成が終われば住宅建築が始まる。当然、工事用車両が行き来する。何か月、あるいは何年もそれが続くかもしれない。工事が長く続くと予想されるだけに、約束事項の順守などをめぐる業者への指導を市建築指導課に、PTAと学校への周知を学校教育課に頼もうとした。10月19日にメールを送った市建築指導課は翌20日に回答がきた。ところが学校教育課の場合は10月30日にメールを送ったのに8日間なしのつぶて。11月7日に催促メールを送ると11月10日にやっと返事がきた。メールを送ってから11日がたっていた。

Aさんが学校教育課に送ったメールは、「神⽥⼩学校通学路における建築⼯事の安全管理について」とタイトルを付けた長文だ。10月7日の出来事を説明したあと、「企業からは書面で回答をいただきました」として、その内容が「⼤型⾞両の搬⼊時間を午前9時以降に制限」「当該交差点に警備員を配置」「現場作業者への安全教育の実施」であることを列記。その上で、「教育委員会へのお願い」を以下のように書いた。

神田小へと続く小道。白線から白線までの幅は3㍍。溝ぎりぎりまででも4㍍ほどしかない。通学時間帯にこの道へトラックが進入するのは危ない、とAさんは声を挙げた=高知市神田

保護者の思いを丁寧に伝える

〈児童の通学路の安全を確保するため、以下の点についてご協⼒をお願いしたく存じます。➀学校への情報共有 本件について、神⽥⼩学校に情報共有していただき、以下の対応をご検討いただきたく存じます。教職員への状況の周知、登校時の⾒守り体制の強化(可能な範囲で)、児童への安全指導(横断歩道の安全な利⽤⽅法など)。② PTAとの連携 本件をPTAにも情報共有し、保護者による地域での⾒守り体制を構築したいと考えております。教育委員会から学校・PTAへの情報共有をお願いできれば幸いです。➂企業への継続的な注意喚起 学校として、企業に対して通学路の安全に関する継続的な注意喚起をしていただくことは可能でしょうか。地域・学校からの声があることで、企業側の意識も⾼まると考えております〉

通学路の危険をできるだけなくすため、保護者の願いを丁寧に書いた内容だ。クレーマーでもカスハラでもなんでもない。さらにAさんは「今後の対応」として自分たち保護者の今後の行動も書き添えた。

〈保護者として、以下の対応を予定しております。登校時間帯の現場確認による実施状況の監視、問題発⽣時の速やかな関係機関への報告、 PTAを通じた地域全体での⾒守り体制の構築。児童の安全を第⼀に考え、学校・PTA・地域・⾏政が連携して対応できればと考えております。何かご不明な点やご質問がございましたら、いつでもお気軽にお問い合わせください。ご多忙のところ恐縮ですが、よろしくお願いいたします〉

高知市学校教育課からのメール。催促してやっと11日後という反応の遅さ、冷えた文章にAさんは驚いた

違反があれば警察が取り締まり

返信が11日後(しかも催促して)だったことにもあきれたが、Aさんが不信を持ったのは返信の宛先が「メール提供者様」になっていたことだ。Aさんは実名を明らかにして丁寧なメールを送っている。ところが返信は機械的な定型文を想起する「メール提供者様」。内容も定型文を想起させるようなそっけないものだった。

〈メール提供者様 ⽇頃は、本市の教育にご理解とご協⼒をいただき、誠にありがとうございます。神⽥⼩学校区内の建築⼯事に係って、教育委員会にお問い合わせいただいた3点について、以下のとおり回答いたします。➀学校への情報共有について ご指摘いただいた箇所につきましては、学校の近隣に位置しており、複数の児童が登下校において利⽤することが考えられるため、他の通学路と同様に適切な安全管理が必要であると考えられます。お問い合わせいただいた内容を神⽥⼩学校⻑とも共有させていただいたところ、職員への情報共有や児童への声掛け、また学校通信を通じて保護者への周知等の対応がなされていると確認いたしました。②PTAへの情報共有について PTAと連携した⾒守り活動等のご提案につきましても、学校⻑に情報共有させていただきました。➂企業への継続的な注意喚起について 学校はこれまでに関係企業から⼯事⾞両の通⾏を9時以降にするなどの対応等を確認しており、今後も引き続き状況を確認しながら必要に応じて対応を⾏っていくことを学校⻑と確認させていただきました。⼯事現場等への関係⾞両の出⼊りにつきましては、関係法令に基づいて適切に⾏われるものであり、違反等があれば警察において取り締まり等がなされると考えております。今回の件につきましても、すでに本市建築指導課職員から近隣交番には相談・情報共有をしており、現場の確認等ご協⼒をお願いしております。今後につきましても必要に応じて関係機関等と情報共有を⾏ってまいります。今後も、⼦供たちの安全・安⼼を第⼀に、学校と教育委員会が協⼒しながら取り組んでまいります。 ⾼知市教育委員会学校教育課〉

Aさんはあきれた。実名でメールを送ったのは市教委とのコミュニケーションを図るためだ。それによって安全監視の密度を図ろうとした。ところが市教委側はAさんを単なる情報提供者扱いし、担当者の名前もない。しかもメールを読む限り、学校教育課が実際に動いたのは神田小学校に1本電話をかけ、学校長と話した程度にしか見えない。誠意や熱量が全く伝わってこない内容だった。たとえば〈⼯事現場等への関係⾞両の出⼊りにつきましては、関係法令に基づいて適切に⾏われるものであり、違反等があれば警察において取り締まり等がなされると考えております〉は、子どもを通わせている保護者の気持ちを逆なでしかねない表現だ。法令でいえば、午前8時にトラックが列をなして小道に進入しても違反ではない。法令と子どもの安全は別物だから懸念しているのであって、そのような保護者の気持ちを全く理解していない。

こんな調子でいいのだろうか、市教委は大丈夫なのだろうか、と思うAさんを次の行動に移らせたきっかけは11月26日だった。

児童らは右下の交差点から小道を上方に進み、神田公園の中央を左に歩いて神田小に向かう=Google Earthより

プール事故初公判の報道

11月26日、高知地裁で長浜小プール事故の初公判が行われた。起訴された長浜小校長が被告人質問で述べた言葉の一つは、「私の危険に対するアンテナが低く、どんなに危険なことか考えが及ばなかった」。長浜小の4年生を南海中のプールで泳がせる危険性、溺れかけた子が出たあとの危険性への認識ということだ。長浜小の事故では危険性の認識が鍵となった。市教委も、長浜小学校の現場も、「危険に対するアンテナ」の感度が低かったことが浮き彫りになっている。

当日の裁判報道に接し、Aさんは神田小の問題に関する市教委の対応がオーバーラップした。危険に対する感度が鈍いのではないか、教育委員会は実は何も学んでいないのではないか、と。AさんがNews Kochiにメールを送ってきたのは翌11月27日だった。

Aさんは「『何も起きなかったからよかった』ではなく、神田小のような『ヒヤリハット』を真摯に受け止め、対策を取ることが重要だと思います」と話す。そのためにも「教育委員会には通報に対して誠実に対応していただきたい」とも。さらなる安全のため、「教育委員会、警察、道路管理者による現場の合同点検」と「工事関係者への安全指導の徹底」を実現してほしいと述べている。

(C)News Kochi(ニュース高知)

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