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高知市とシダックス②「始期」をめぐる奇怪な論

2023年12月の高知市議会定例会ではシダックス(本社東京)が指定管理の申請条件に違反している疑惑が焦点となった。高知市内に営業所等を作るのが条件だったのに、営業所の類が存在しなかったからだ。議員の追及に対し、高知市が言い続けたのは「全く問題はない」。根拠として展開したのは、資格規定を根底から覆すような奇怪な論理だった。(依光隆明)

2019年に落成した高知市役所新庁舎

条件は〈3月31日深夜零時までに営業所を設けること〉

指定管理の募集要項には「申請資格」についてこう書かれている。

〈高知市に本社、本店、支社又は営業所を設置していることとします。なお、申請時点で、支社又は営業所等を有していない団体等であっても、当該施設の指定期間の始期までに設置できる施設であれば申請可能とします〉

2021年度、シダックス大新東ヒューマンサービスは「始期まで」に営業所を作ることを条件にして「龍馬の生まれたまち記念館」の指定管理を受託したことになる。「始期」とは2022年4月1日午前零時にほかならない。

3月31日深夜12時(つまり4月1日午前零時)までは高知市の企業(入交住環境株式会社)が指定管理を務めていた。遅滞なく引き継ぐためには4月1日午前零時をもってシダックスが指定管理を開始しなければならない。どう考えても「始期」は4月1日午前零時。「始期まで」は4月1日午前零時(3月31日深夜12時)までとなる。

シダックス大新東ヒューマンサービスのホームページ

申請条件無力化の合わせ技

2023年12月議会で高知市はそれを根底から覆す主張をした。要約すれば、「『始期』は4月1日午前零時ではなく4月1日が丸々入る」という理屈である。必然的に「始期まで」とは「4月1日いっぱいまで」となり、市は「シダックスは4月1日に『龍馬の生まれたまち記念館』に営業所を設けたから何の問題もない」という論理を展開した。

指定管理期間が始まったあとに指定管理している施設を営業所にしていいなら、前記のような「申請資格」をわざわざ作る必要はない。そもそもこの申請資格は「高知市の施設を指定管理するならせめて営業所くらいは作ってくださいよ」という規定なのだ。企業誘致するときにさまざまな条件を付けることがあるが、それと同じ。当然ながら議員側は追及した。「指定管理者が指定管理施設に入るのは当たり前。それを営業所等とするなら申請資格なんて必要ない」と。

立ち止まって市の主張をまとめると、2点に集約される。一つは「『始期まで』には4月1日が含まれる」という主張。もう一つは指定管理者が指定管理している施設も営業所と見なす、という主張である。

この合わせ技があれば、県外企業による植民地的進出(公的な仕事を安値で受託し、市民を低賃金で働かせる。それを県外からコントロール)を阻む防波堤だった申請資格条項を事実上死文化できる。つまり県外企業を呼び込むため、市の執行部はいつの間にかこの条項を死文化していた。この条項が死文化されたことによって利益を受けたのがシダックスであり、驚いたのは資格条項を字面通りに受け止めていた高知市民だった。

2021年度にはすでにこの方針で運用していた、と市は説明している。資格条項の主旨からすれば180度の方針変更だったが、2023年12月議会で追及されるまで議員や市民には全く説明していない。当然、12月議会では与野党を問わず一部議員(自民、市民クラブ、共産)が「おかしいではないか」と声を上げた。

資格条項の無力化に舵を切ったのは2023年11月まで市長を務めた岡崎誠也氏だが、12月議会での執行部答弁を見る限りでは新市長の桑名龍吾氏も同じスタンスだ。疑問を呈する議員側に、桑名氏を始めとする執行部は「全く問題ない」という姿勢を強調した。

「始期」問題はシダックスへの便宜にとどまらない影響をはらんでいる。

2024年度からシダックスが指定管理を担う高知市立自由民権記念館

高知市だけは日本語が違う⁉

「『始期まで』には4月1日が含まれる」という理屈が認められたらどうなるのか。ここからは仮定の話を。

高知市内の企業が「小学校入学の始期までは保護者は短時間勤務」という決まりを作っていたとしたら、4月1日あるいは1年生の1学期まで親は短時間勤務になるということだろう。「学齢期までに○○をしておいてください」となったら学齢期中にしておけばいいということだろうか。店のオープンまでに片付けを、という意味はオープン日に片づけてもいいということ? 「アユの解禁までに河川の清掃をしましょう」も解禁日に清掃してもいいこと? 「2学期が始まるまでに髪を切ってきなさい」と学校に言われれば、普通の自治体では夏休み中に髪を切らないといけない。ところが高知市だけは始業日に切ってもいいということになる。

冗談みたいな話だが、冗談ではなく高知市ではそうなってしまう。

シダックス大新東ヒューマンサービスのホームページから

「営業所はある」と主張するのは高知市だけ?

そもそも「龍馬の生まれたまち記念館」に2022年4月1日からシダックスが営業所を置いているのかどうかも実は判然としない。前回指摘したように、シダックスのホームページによると四国内で営業所があるのは高松市と松山市だけ。シダックス大新東ヒューマンサービス本社に電話で問い合わせた高知市議に対し、同社は「高知県内には営業所はありません」と明言している。要するに、「龍馬の生まれたまち記念館」にシダックスが営業所を置いていると主張するのは高知市役所しか存在しない。(次回は12月議会での高知市の答弁などを)

 

(C)News Kochi(ニュース高知)

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