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高知県の行政不服審査を検証する⑩公文書に改ざん疑惑

高知県在住のAさんが行政不服審査の裁決取り消しを求めて県を提訴した行政不服審査裁決取消請求事件は、Aさんが控訴して高松高裁に場を移した。Aさんが新たな論点として出したのは、情報公開請求に基づいて開示された公文書に改ざんが加えられていたという新たな疑惑だ。5月26日に口頭弁論が行われる。(依光隆明)

Aさんの控訴理由書

発端は情報公開請求

この裁判はAさんが情報公開請求した文書(校長が読み上げた文書)を県教育委員会が非開示としたことから出発している。Aさんは行政不服審査を申し立て、県教委は第三者委員会(行政不服審査会)に諮問した。委員会の答申は「開示せよ」。具体的には「校長が組織の長として、組織の見解を取りまとめた重要な文書であると認められる」「本件文書は、個人情報保護法第78条第1項の規定(開示義務)により開示しなければならない保有個人情報が記載されている地方公共団体等行政文書に該当すると認められる」とした。それを受けて県教委が答申に沿った裁決を出したのだが、その過程で複数の法律違反を犯した、とAさんは主張する。それを認めさせるために裁判を続けている。

Aさんの控訴理由書より。開示を求めた書類と開示された書類が違うことを「訴える利益」の根拠の一つとした。「訴える利益」がなければ門前払いされる

開示するから取り下げを

本筋と微妙に絡み合うのが開示文書の改ざん疑惑だ。

開示されるべき文書を仮に「12月文書」としよう。Aさんは2023年12月25日、学校長から子どもの処分に関する説明を受けた。校長は手元の文書を読み上げて説明した。この説明文書が「12月文書」だ。Aさんは2024年2月に情報公開請求してこの文書の開示を求め、同月16日に県教委が非開示決定を下す。同月22日、Aさんは県に行政不服審査を申し立てた。行政不服審査会が答申を出したのは2024(令和6)年9月。文書の開示が決定したのは10月だった。開示された文書を仮に「10月文書」とする。

「12月文書」を情報公開請求して「10月文書」が開示されたのだから、「12月文書」と「10月文書」は同一と見なすほかない。複雑なのは、行政不服審査申し立て後の2024年3月8日に県教委がAさんを呼んで「12月文書」を渡していたことだ。

Aさんによると、行政不服審査を申し立てた後に校長から「説明の場を設定する」という連絡があった。2024年3月8日、場所は高知市大原町の心の教育センター体育館。足を運ぶと、校長と教頭、生徒指導担当教諭、そして県教委事務局職員がいた。県教委事務局職員はAさんが審査請求書を出したときの担当だったので、面識があった。名札も着け、名を聞かれて答えてもいる。県教委事務局の職員であることは間違いない。

Aさんを驚かせたのは、その県教委職員が会の冒頭にこう言ったことだ。Aさんは「『校長説明文書を渡すから審査請求書を返却する』と言われました」と説明する。「校長説明文書」というのは「12月文書」のこと。行政不服審査をされては困るから「12月文書」を開示します、ということだ。Aさんが説明を続ける。「私はこれに強く反発し、法律に基づき処理するよう求めました。話はかみ合いませんでしたが、理性的な会でした。3時間に及ぶやり取りでした」

結局、県教委側はAさんに「校長説明文書」を渡し、それに基づいて校長が説明した。この文書を仮に「3月文書」とする。本来は「12月文書」と言ってもいいのだが、「12月文書」ではなかった可能性が出てきたので「3月文書」とする。

Aさんの手元にあるのは「3月文書」と行政不服審査を経てAさんに開示された「10月文書」の二つ。オリジナルの「12月文書」も含め、三つは同一のはずなのだが…。「3月文書」と「10月文書」が異なっていた。

内容が違っている部分。上が「3月文書」(甲第57号証)で下が「10月文書」(甲第58号証)

片方が改竄された公文書である

「10月文書」「3月文書」とも提訴の際にAさんが証拠として提出、採用されている(前者は甲第58号証、後者は甲第57号証)。二つはどう違うのか。2026年3月27日にAさんが高松高裁へ出した控訴理由書から引用する。

〈以下、両文書の内容を検証する。●甲第57号証の2頁中3の9行目。「診断書の提出については体調不良により課題に取り組めない場合に指導期間が延長されないよう配慮するためのものである。」●甲第58号証の2頁中3の9行目。「診断書の提出については指導期間が延長することに配慮するためのものである。」〉

両者の相違を示した上で、控訴理由書はこう続く。〈以上のように、両文書には、診断書の提出理由について、正反対の内容が記載されている。県立学校による特別な指導については、診断書の提出後も期間が延長された。この事実からすると、本件裁決あるいは本件文書開示決定に際して、指導の実態にあわせることを目的として何者かが当該文書を改竄したのではないかとの疑念が生じる。その他の部分についても、行ずれや語句の追加などが散見される〉

論理的に考えると、「3月文書」(甲第57号証)と「10月文書」(甲第58号証)のどちらかがオリジナルの「12月文書」と同一で、どちらかが違うことになる。控訴理由書は〈目的はともかく、何者かが個人情報の内容を意図しない形で変更した事実に相違ない〉〈甲第57号証と甲第58号証のうち、いずれかが真正な公文書であり、片方が改竄された公文書である〉と書く。

高松高等裁判所がある高松市中心街=Google Earthより

情報公開に性善説の罠?

公文書の改ざん疑惑は、行政不服審査の裁決問題以上に深刻な問題をはらんでいる。情報公開制度は行政に公文書を開示させるシステムだ。住民側の手続きに沿って行政は公文書を開示し、それが住民によるチェックを可能にする。つまり、開示された公文書を検証することで住民が行政の執行をチェックすることができる。前提としてあるのは、公文書に手が加えられないことだ。情報公開請求されたとき、行政が都合よく文書に手を加えたら制度そのものが崩壊する。行政がそんなことをするわけがない、という性善説が制度を制度として成り立たせている。

今回の裁判で浮上したのは性善説の罠だ。情報公開制度は性善説に依拠している。例えば住民には開示書類の改ざんをチェックするすべがない。なぜか。制度は改ざんを想定していないからだ。改ざんなんてありえない、考える必要もない、という性善説がすべてを支配している。ところが今回、同一であるはずの3つの書類に齟齬が出た。誰かが改ざんしたと考えるほかはない。(つづく)

(C)News Kochi(ニュース高知)

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