政治

報道被害の実態と救済を学ぶ 松山市で市民学習会

私のような報道被害者を二度と出したくない―。報道被害者が報道被害を語る市民学習会が3月23日、松山市内であった。深刻な報道被害を語ったのは、農業アイドルの自死をめぐって捏造に近い報道をされた松山市の会社経営、佐々木貴浩さん。裁判で勝ったにもかかわらず名誉回復が困難な実情を踏まえ、マスコミ関係者からのマスコミ批判が続いた。約40人の参加者は、報道被害者の出ない報道の在り方や今後の取り組みについて深く考えた。(西原博之)

報道被害の実態を訴える佐々木さん

読者や視聴者にも「真実見極めて!」

佐々木さんは農業法人を経営しながら農業アイドル「愛(え)の葉Girls」を通じて農業の魅力発信に取り組んでいた。ところが6年前、主要メンバ―だった女性が自死する。佐々木さんが驚いたのは、突然遺族や在京弁護士が佐々木さんのパワハラが原因だったと記者会見したことだった。遺族らは損害賠償請求訴訟も起こしたが、最も深刻だったのは一方的な報道だった。遺族らの主張が捏造に近かったため、裁判はすべて佐々木さんの勝訴。しかしテレビのワイドショーを見た視聴者らによるバッシングはすさまじく、佐々木さんの名誉はいまも回復していない。

この日、佐々木さんは一方的報道やその後のバッシングについて「私の力では到底抗えなかった」と胸中を吐露した。体験を語りながら佐々木さんが訴えたのは、「私のような被害者が二度と出ない社会になってほしい」だった。テレビのワイドショーがいかに自分の行為を捏造したか、故意な編集や事実の歪曲などの報道がいかに多かったか。佐々木さんは生々しい実態を示しながら切々と思いを述べた。

捏造としか言いようのない報道であっても、それを信じる人がいる。報道を信じた市民からの嫌がらせの数々も報告し、「家族まで社会から締め出された感覚」だったと振り返った。佐々木さんは自殺まで考えたことを明かし、事実とかけ離れた報道に猛省と検証を促した。併せて読者や視聴者にも「報道をしっかりと直視して真実を見つめてほしい」と注文を付けた。

報道されないという問題点を指摘する金繁さん

「大事な情報が報道されない」

続いて登壇した愛媛県愛南町議の金繁典子さんは、報道されないことにより市民が受ける不利益について、自身の体験を話した。Uターンして町議になるまで、金繁さんは国際環境NGOのグリーンピースで活動していた。金繁さんは「マスコミはグリーンピースを『反捕鯨団体』として総括し、そのイメージが定着しているが、実態は違う」と前置き。「(グリーンピースには)反核団体として世界に認知された環境保全の歴史がある。正しく理解することで偏見はなくなる」と述べた。さらに、自身が取り組んでいる地域の課題について具体例を挙げながら「地元紙が報道しない」問題について言及した。一例として「国が建設している国道の新内海トンネル工事で基準値の10倍を超えるヒ素が検出された」ことに触れ、「住民の被害が懸念され、議会でも質問したが、地元紙は取り上げなかった」ことを紹介した。

金繁さんは、観光拠点でもある海洋公園への大規模研修・交流施設の誘致についても触れた。「利用率の見込みや維持管理費がどうなっているのか不透明なまま、議会に諮らず町が誘致を決めた。町民アンケートでも6割以上が『必要ない』と答え「議会に諮らなかった手続きを9割が『納得できない』と答えたのに、地元紙は誘致を願っているかのような記事を出した」と指摘。誘致は実現しなかったものの、必要な情報を読者に伝えないマスコミの問題点を訴えた。

メディア側の責任体制を確立しようと呼びかける浅野さん

「番組と記事、佐々木さんに提供を」

マスコミ関係者が加わった対談では、元共同通信記者で同志社大学元教授の浅野健一さんが数々の誤報や報道被害の例を挙げながら既存のマスコミを批判した。実名報道を問題視する浅野さんは、「実名での誤認逮捕報道こそ検証するべき」と指摘。佐々木さんの報道被害についても「テレビ各局と新聞は、すべての番組と記事を佐々木さんに提供し、検証し、再発防止策を発表すべきだ」と訴えた。

浅野さんは、報道による人権侵害の防止を目指して活動する「人権と報道・連絡会」の代表世話人でもある。袴田巌さんの再審裁判や大川原化工機事件などを例に挙げながら人権侵害の救済にも触れ、メディアが責任を取る制度を作ることも提言した。下咽頭がんのために声帯を取っているが、浅野さんの主張は力強い。「現在の企業メディア幹部、メディア批判を忘れた御用学者らに抗い、生涯一記者として日本における国際標準のジャーナリズム創成に力を注ぎたい」と力強く宣言した。

報道被害者の救済について考えた学習会

商業マスコミの劣化を指摘する声

テレビ愛媛のOB、松田孝雄さんは愛媛県内の民放について「ニュースのほとんどの時間を知事の映像が占める報道は異常だ」と指摘。「市民の側に立つべきマスコミが権力の代弁者になっていてはマスコミの役割はない。しっかりと市民の立場で検証しなければならない」と述べた。

筆者もNEWS KOCHI記者としてマイクを握り、真実と嘘を見分ける手段を述べた。「報道内容が目的を持っているか、単なる自己満足ではないか、問題提起がなされているか、事実の羅列ではないか、物言わぬ人々の代弁者になっているか、権力をチェックしているか」という視点で見ると報道の嘘が見抜ける、と。

質疑応答では、商業マスコミの劣化を指摘する声が相次いだ。「取材の実態」について質問された佐々木さんは、「通常にインタビューに答えていると、最後に『あなたは人を殺したのですか』とくる。こちらが困惑、怒りの表情をしたところを撮影され、それが映像で使われる。こういう取材手法にも問題があるのでは」。会場からは「社会的に認知されている事象についてはある程度、真偽が区別できるが、佐々木さんのような個人の問題については難しい」「最近のマスコミは問題意識が欠如している。公共事業の在り方にも深い視点がないし、突っ込んだ報道はほとんど見ない」などの注文や批判が続いた。

(C)News Kochi(ニュース高知)

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