2024年4月10日からNews Kochi でスタートした「高知市による民有地占拠疑惑」シリーズが冊子になり、高知市中万々のTSUTAYA中万々店など県内のTSUTAYAで販売が始まった。冊子のタイトルは「子どもの楽園『あそび山』の物語」。10月28日掲載のシリーズ⑪までを収録している。(依光隆明)
いったん許可したあと、市がクレーム
「あそび山」は高知市福井町にある。面積は1500平方メートルほどで、郵便局OBの古谷寿彦さん(81)と元県職員の滋子さん(79)夫妻が私財を投じて2005年に開設した。その名の通り自然豊かな子どもたちの自由なあそび場だ。土地を購入して整備したあと、古谷夫妻は高知市と県の許可を得て進入路となる通路橋の建設にかかった。順調に進んでいた「あそび山」造りが急変するのはそのときだ。通路橋の建設が佳境を迎えた2005年2月、いったん許可をした橋の建設に市がクレームをつけた。
市の主張を要約すると、「許可は間違い。橋の取り付け部は市有地なので申請を出し直せ」だった。古谷夫妻は法務局にある公図と現況を照らし合わせた。どう見ても橋の取り付け部は市有地ではなく、民有地または赤線(国有財産の里道)だ。明らかに民有地や国有地と分かっている土地を市有地として申請することはできない、と考えた。ところがそのことを市にどう説明しても通用しない。市は強硬だった。通路橋の撤去を通告したうえ、市有地だと主張する部分にゼブラ(縞模様)をペイントしてバリカー(車止め)を設置した。
以来、19年にわたって係争が続いている。
所有権の決め手なく係争地に
通路橋の取り付け部の土地について、市は高知市福井町字クチホソ1807番地だと主張している。1807番地というのは市水道局の北部高地区加圧送水所用地である。つまり通路橋の取り付け部は市有地だということになる。古谷夫妻は橋の取り付け部を「1805番地(民有地)または水路に沿った赤線(里道)だ」と主張している。市と対等の立場に立つため、古谷寿彦さんは1805番の2分の1の権利を取得、地権者となった。市と対等の立場になった上で、橋の付け根は1805番の民有地だという主張を続けている。
本来、高知市有地だという証拠になるのは昭和50年代の加圧送水所用地購入時に作った売買実測測量図やその際の現況写真なのだが、News Kochiの情報公開請求に対して高知市は「不存在」と回答している。結局、高知市が根拠として挙げるのは「あそび山」オープン後の2006年に市自らが作った「農道用地実測図」だけ。法務局の公図と違っていることもあり、橋の付け根が市有地だという証拠にはなっていない。対する古谷夫妻が民有地の証拠として挙げるのは法務局の公図だ。夫妻は「公図を見れば一目瞭然」と主張するが、橋の付け根を正式に1805番だと確定するには境界確定協議などが必要になる。市と協議しても確定するわけはないので、その場合は境界確定訴訟が必要となる。
民間人が市役所を相手に訴訟をするのは簡単ではない。カネも労力も市は無尽蔵に持っているからだ。市民の税金を充てれば何人でも弁護士を雇うことができるし、裁判を延々引き延ばしても気にすることはない。民間人はそうはいかない。カネも労力も、寿命だって続かない。加えて裁判所は民間に厳しく公的機関に甘い。これは特に刑事裁判の場合に目立つ。例えば公的機関の出した証拠は簡単に採用するが、民間の証拠には信じられぬほどの難癖をつける。理由はよく分からない。公的機関同士、親和性が強いのかもしれない。
古谷夫妻が裁判に踏み切れないのは以上のような懸念があるからだ。かといって市の土地だと確定したわけでは決してない。双方が権利を主張する限り、通路橋の取り付け部一帯は「係争地」となる。
桑名市長への小さな期待
「高知市による民有地占拠疑惑」で書いてきたのは、係争地を市がバリカーやゼブラペイントで一方的に占有する構図である。市有地を民間が占有するケースはこれまで何度も取材したことがある。しかし民間との係争地を、確たる証拠を示さないまま市が占有し続けるケースは見たことがない。しかも占有しているのは子どもの楽園への入り口なのだ。さらに不思議なことに、そこまでして占有する理由がさっぱり見つからない。占有したところで水道局の車両が通行しやすくなるわけでもない。一方的に「あそび山」に嫌がらせをしているとしか見えないのである。どう見ても市が常軌を逸しているとしか思えない。
高知市は政令で指定された中核市であり、2024年12月1日時点で31万3000人の人口を有している。そのような自治体が常軌を逸するようなことをするはずがない、と誰しも思う。しかし現実として常軌を逸するようなことを続けている。調べれば調べるほどお粗末な事務処理が明らかになってくるし、あげく書類の改ざんという犯罪に近いことまでやっている疑いもある。これを「公権力の暴走」と表現しても的外れではないだろう。巨大な暴走はささいな暴走から始まるし、少数者に対する暴政を見逃すとそのツケは見逃した多数者が払うことになる。だからこそNews Kochiはこの問題を重視し、「高知市による民有地占拠疑惑」として報じてきた。
「あそび山」を作った2005年当時の高知市長は岡﨑誠也氏(70)だった。その岡﨑氏は2023年11月の市長選で桑名龍吾氏(61)に僅差で敗北する。岡﨑氏は立憲民主・社民県連合・国民民主県連推薦で、桑名氏が自民・公明推薦という構図だった。岡﨑氏の退場で「あそび山」の問題も解決するのでは、と古谷夫妻は期待した。2024年3月と4月には桑名氏に心情を綴った手紙も出した。桑名氏から何らかのリアクションを期待したものの、返事はない。News Kochiも8月初めに桑名氏へのインタビューを申し入れたが、それにも返事はない。寿彦さんは「高知市は自分らあが死ぬのを待ちゆう」と弱気な言葉をこぼしながら、だからといって夫妻が桑名氏に絶望しているわけでない。ひょっとすると前市長の不始末を桑名氏が修正してくれるのではないか、と小さな期待を持ち続けている
県内のTSUTAYAで販売中
「子どもの楽園『あそび山』の物語」は、副題が「高知市による民有地占拠疑惑」。「シリーズをぜひ冊子に」という古谷夫妻の希望に応える形で「あそび山応援団」が編集・出版した。内容のほとんどはNews Kochi掲載当時と同じだが、「まえがき」を新たに書き加えている。編集を担当したのは元「月刊土佐」編集者の坂本美和さん。坂本さんを団長として9人の「あそび山応援団」が巻末に名を連ねた。発行日は2024年12月12日、A5判140ページで税込み700円。
古谷夫妻と「あそび山応援団」によると、書店販売は今のところ県内のTSUTAYA各店のみの予定。高知市政を批判する形になったのがネックなのか、扱ってくれない書店グループもある。書店ルートのほか、古谷夫妻を通じて購入することも可能。古谷夫妻の自宅は〒780-0965高知市福井町1589-2。