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なぜ学校で…。高知市立小プール死をめぐる疑問㉑「全国に在庫がなかった」

2024年7月5日、高知市立長浜小学校の4年生が市立南海中で行われた水泳の授業中に溺れて亡くなった。小学生が中学校のプールで授業をしていた原因は、長浜小のプールが故障したことだ。News Kochiは今回のプール故障に関する文書を高知市に情報公開請求し、11月25日に入手した。(依光隆明)

長浜小学校プールの設計図から。水深は1㍍から1.2㍍と書かれている

電気系統の不具合を発見

おさらいすると、事故の発端は2024年6月4日、プール開き前の点検で業者が不具合を発見したことだった。2023年11月に発表された「高知市立学校の今後のプールの在り方に関する答申書」は、プール故障時の対応を明記している。それによると、小学校の場合は故障を直して自校プールで授業をしなければならない。答申に沿って市教育委員会は自校プールを使う可能性を探ったが、翌々日に市立南海中のプールを使うことに決める。決定の決め手は長浜小と南海中プールの水深が同じ、という長浜小学校からの報告だった。実際に水泳授業が始まると、南海中学校プールの水深がはるかに深いことが分かる。児童から「怖い」という声も上がる中、7月5日に行われた4年生の授業中に男子児童一人が溺れて亡くなった。最も浅いエリアでも水深はこの男子の身長を上回っていた。プールには3人の教員がいたが、男子児童が溺れたときには3人とも目を離していた。

今回開示された文書類によると、入札によって点検を請け負ったのは高知市のA工業(便宜的に仮名とする)だった。書類を読み解くと、まず電気系統の不具合を発見したことが分かる。市学校環境整備課にA工業社長名で出された「長浜小プールろ過器調整作業の完了について」には〈標記の件について、業務が完了したことを報告します〉としてこう書かれている。〈朝から終日にかけて点検および交換作業を実施いたしました。制御盤の点検をしたところ異常が見られましたので、制御盤の調整並びに電磁接触器を交換し、異常を解消し正常に動いていることを確認しました〉

開示資料より。6月4日、点検開始前の写真

「即時修繕を行う必要がある」

以上の通り、「制御盤の調整」と「電磁接触器の交換」によって電気系統は即日復旧した。

修繕費用をA工業に支払うための書類は市学校環境整備課が整えた。〈電気系統の調査を行った際に異常が見られたため、原因である制御盤の調整、電磁接触器を交換するもの〉と説明し、処理方針は〈学校環境整備課で緊急対応(修繕等の発注)する〉。見積金額は32万8790円で、〈緊急対応のため業者に発注した〉としている。

修繕費用を払う先は修繕をしたA工業に決まっているのだが、いちおう「業者選定理由書」もつけなくてはいけない。そこにはこんな説明が書かれている。

〈保守点検業者による浄化装置の開始前点検はプールの給水後から、水泳授業開始までの短い期間で行われる。高知市立学校においては、6~7月にかけて水泳授業が計画されているため、当課としても授業の計画になるべく支障が出ないように、即時修繕を行う必要がある〉〈上記業者(A工業のこと)は今年度、当該校のプール浄化装置点検業務を請け負っており、設備の構造や取水方法について熟知している。作業の中で不良・故障が判明した場合、修理等を早期に対応することが可能である。また、現地調査を実施していない他業者に修繕を依頼した場合、責任区分が曖昧になる恐れがあることから、上記業者が契約の相手方として適当であると考える〉

「見積書」によると、「運転調整労務費」10万5300円、「メーカー立会料」6万2000円、「制御盤調整費」4万6800円などとなっている。その合計が32万8790円。

電気系統は直ったが、問題は濾過ポンプだった。

高知市立長浜小学校=google earthより

前の年に浦戸小で同じことがあった

A工業は「三方弁というバルブが動いたので、電気系統はOK。しかしポンプが動かなかった」と説明する。「シャフトの取り換えだけでいく場合もあるんですけど、そのシャフトも錆びて抜けない状態だったんで。もう取り換えしかないな、と」

プール底の排出口から出た水は、濾過ポンプの力でパイプの中を走る。集毛器、砂濾過機を通ってきれいになったあと、塩素を注入されてプールに戻る。濾過ポンプはいわば心臓であって、そこが動かなければプールの水を循環させることができない。水質を保つための砂濾過や塩素注入も使えない。

「前年度に浦戸小学校で同じことがあって」とA工業が明かす。「そのときはシャフトが抜けたのでシャフトの交換だけで終わったんですけど、長浜小学校はちょっと無理でしたね。錆びて、無理やったんで。抜けなかったんで」。濾過ポンプの中で回転運動をして水を吸い上げるのがシャフトである。長浜小のプールは、そのシャフトが錆びて固着していた。それだけ経年劣化が進んでいた。

開示資料から。交換前の濾過ポンプ

全国の在庫を探したが…

長浜小学校のプールにあった濾過ポンプは荏原製作所の自吸ポンプ125FQH-67.5Bだった。「全国の在庫を探したんですけど、なかったんですよ」とA工業が説明する。「同じやつにしなかったら他のところも調整が必要になるので。同じポンプならポンプだけ替えたらいいですよね。別のポンプを入れたら配管も替えなきゃいかんのですよ」

学校環境整備課の書類を見ると、6月4日にA工業からの連絡を受け、6月7日に発注伺を起案・決裁したことが分かる。内容欄にはこう書かれていた。〈長浜小学校プールろ過機調整作業により、電気系統での異常が解消されたが、当該作業の際、ろ過ポンプが経年劣化により稼働していないことが新たに判明したため、ろ過ポンプの修繕を行うもの〉。見積金額は49万5000円。

業者選定理由書はこう書いている。〈本業務は、長浜小学校のプール浄化装置保守点検業務を行うにあたり、プール浄化装置の開始前点検に不具合を発見した箇所について修繕を行うものである。当該校ではプールろ過機調整作業を行い、電気系統での異常が解消されたが、当該作業の際にろ過ポンプが経年劣化により稼働していないことが新たに判明した。ろ過ポンプはプールの水を循環させる役目を担っており、多数の生徒が短時間で入れ替わり入水し、授業を受けるなかで、水質を保つうえで大変重要である。ろ過ポンプが故障した状態では、自校プールでの水泳授業の実施が難しくなることから、早期に交換を依頼する必要がある〉

8月に高知市教育委員会が公開した資料(聞き取りを基にした文書)によると、教育長らは固形塩素投入による水質維持も検討したものの、断念している。

開示資料から。新たに搬入した濾過ポンプ

「今期は無理とは言ってない」

高知市教委の資料で気になるのは、6月4日に長浜小校長が外出から戻ったときに「今シーズンは使えない」と報告を受けたことだ。もう一度その部分を取り出してみると、市教委資料にはこうある。〈長浜小校長が外出先から学校へ戻った。業者が午前中から点検作業中であったが、この時間になっても復旧せず、今シーズンは使えないとの報告を受けた〉

「今シーズンは使えない」という報告について、A工業は「言っていない」と強く否定する。「納期は〇月までとは言ったけど、『今期は無理』とかは言っていない」と。問題は〇月までの中身だが、「7月いっぱいかかったんじゃないかとは思う」と振り返る。「納期は7月末になりそう」的なことを言ったということらしい。おおむねその通り、7月18日に修繕は完了する。

注目しなければならないのは、故障が分かったときに教育長らが「2学期に授業日程を遅らせる」という案を検討していることだ。そのことは市教委資料に書かれている。7月中に修繕できるのであれば、2学期の水泳授業は問題なくできる。「2学期」よりも「南海中での実施」を選んだ理由は市教委資料からは分からない。

今回の事故は学校プールの濾過ポンプ故障から始まった。事故の主因ではないものの、故障がなかったら中学校のプールを使う必要がなかったことも間違いない。つまり、事故原因を真摯に探ろうとすれば故障をめぐる問題も外せない。

プールの濾過システムに詳しい高知市のある業者は、濾過ポンプのシャフトが錆びて固着していたことに反応した。「シャフトがステンレスじゃなかったということだと思う。入札時に値段ばかり見て材質のことを考えていないからこうなる」。浦戸小学校のプールが故障した次の年に長浜小のプールが故障した。来年、またどこかのプールが故障しないとは限らない。(続く)

(C)News Kochi(ニュース高知)

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