シリーズ

なぜ学校で…。高知市立小プール死をめぐる疑問➁「今シーズンは使えない」

高知市立長浜小の4年生男子が水泳の授業中に亡くなった問題は、県内外に波紋を広げている。授業で児童が亡くなるという信じ難い事態だけに、文部科学省は事故の3日後に全都道府県へ概要を知らせて注意を喚起。県内では行政側の対応の遅さ、閉鎖性に対する不信の声があがっている。小学生を持つ保護者の中には子どもをスイミングスクールに行かせ始めた人もいる。(依光隆明)

高知市役所

来年までなにも分からない?

原因究明を非公開の第三者委員会(高知市立長浜小学校児童プール事故検証委員会)に任せたことで、はるか先まで高知市民には事故原因を知るすべがなくなった。説明義務を負うのは高知市や高知市教育委員会だが、両者とも第三者委の影に隠れてしまっている。おそらく2024年度末の第三者委員会報告まで動くつもりはない。議会の動きも鈍い。特に最大会派の市長与党、「自民党・中道の会」の動きが鈍い。

市民には不安や不満の声が出始めている。澱のようにたまっているのは「人災ではないか」という思いだ。甚だしい声としては「これは殺人だ」と口にする人までいる。「亡くなった児童の四十九日も過ぎたのに市は何もやっていない」「市の学校で、しかも授業中に亡くなった。市長がなぜ記者会見を開いて頭を下げないのか」などの声もある。中でも切実なのは子どもを持つ保護者だ。今後、プール授業がどうなるのか。原因究明ができない限り水泳授業が復活しないのではないか。しかし密室の第三者委員会任せで十分な原因究明ができるのか。原因究明ができたところで子どもたちの安全が保証されるのか。来年も水泳の授業がないのならスイミング教室に行かせるしかない、などなど。背景にあるのは市に対する不信感と言っていい。

市教委が行った聞き取りのスケジュール

「使えない」は誰の判断?

事故が起きたのは2024年7月5日だった。50日後の8月24日に開かれた第1回検証委員会で、市教委は数種類の資料を配布した。中心を占めたのは事故の経緯である。

市教委が関係者から事故の経緯を聞き取ったのは事故の3週間以上あとだった。資料によると、長浜小校長への聞き取り(個別対面)が7月29日。同小の教頭と教諭2人については翌日(いずれも個別対面)。南海中と浦戸小の校長へは翌々日に文書で経緯を聞いている。教育委員会内の聞き取りは1か月後の8月5日で、これは「全体対面」という形式だったらしい。全体対面がどのようなものかは分からない。ほか、長浜小の4年生に8月7日から19日までの期間でアンケートを行っている。

以下、市教委の資料に従って経緯を振り返っていこう。

アクシデントが起きたのはプール開きを翌日に控えた6月4日午前だった。長浜小にやって来た業者が、プール浄化装置の点検作業中に濾過ポンプの故障を発見する。午後、市教委学校環境整備課に長浜小から電話があり(誰が電話をしたかは記載なし)、濾過ポンプの故障を知らせた。午後4時ごろ、外出していた長浜小学校の校長が学校に戻る。この時点では濾過ポンプは復旧しておらず、校長は「今シーズンは使えない」との報告を受けたらしい。資料にはこう書かれている。

〈長浜小校長が外出先から学校へ戻った。業者が午前中から点検作業中であったが、この時間になっても復旧せず、今シーズンは使えないとの報告を受けた〉

「今シーズンは使えない」という言葉はのちに大きな意味を持つのだが、市教委の資料では校長に誰が報告したのかが書かれていない。業者名も書かれていない。重要な言葉の割に扱いが軽い。言葉が浮いてしまっている。

報告を受けた長浜小校長は、職員室にいる職員に翌5日のプール開きが中止となったこと、「今後の水泳授業は調整中で、南海中と浦戸小の使用を考えている」ことを伝える(時刻は不明)。午後6時16分、長浜小の校長はメール配信(高知市立学校家庭連絡システム)で保護者にプールの故障と5日のプール開き中止を伝えた。文面は以下の通り。

〈明日からプール開きを計画していましたが、本日、予定していました業者によるプール浄化槽を実施したところ(原文のまま)、故障していることがわかりました。この故障についてはすぐに改善されるものではないようです。急な連絡で申し訳ありませんが、明日のプール開きは中止いたします。また、今後のプールの使用についても確認中です。今後の予定がわかり次第、お知らせします。取り急ぎ、連絡いたします〉

市教委資料から。「今シーズンは使えない」のくだり

自校プールか他校プールか

午後7時、長浜小の校長が市教委学校環境整備課に電話し、濾過ポンプ故障の報告をする。電話を受けた職員は、このときに南海中と浦戸小のプールを使用する案を聞いたと記憶している。それを受け、課内では浦戸小に子どもを行かせるためのバスの手配に関する協議が行われた(南海中には徒歩で移動できる)。併せて同課は松下整教育長に明日実施予定の長浜小のプール開きができなくなった旨を報告した。

6月5日午前(市教委資料によると、午前9時半以前と思われる)、長浜小の校長が南海中と浦戸小の校長に電話をかけ、長浜小のプールが故障したのでプールを使わせてほしいと打診する。南海中、浦戸小の両校長とも了承し、南海中の校長は「一度プールを見に来てほしい」と伝える。

午前9時半、教育委員会は松下教育長、植田浩二教育次長と学校環境整備課が長浜小のプール故障問題を協議する。市教委資料はこう書いている。〈固形塩素投入や2学期に授業日程を遅らせることなど、自校プールで実施する方法がないかの協議がなされた。教育長は、長浜小校長からの南海中プールの水深報告を待って結論を出すことにした〉

前回触れたように、2023年11月に発表された「高知市立学校の今後のプールの在り方に関する答申書」はプール故障時の方針を明記した。それによると、小学校は故障を直して自校プールで授業をすることになっている。答申に沿って市教委は長浜小のプールを使う可能性を探っていた。他校プールに前のめりとなった長浜小と、自校プールにこだわろうとする市教委。ここから迷走が始まる。

「今後のプールの在り方に関する答申書」から。故障が起きたときの対応順序

焦点だった「水深報告」

重要なのは「長浜小校長からの南海中プールの水深報告を待って」というくだりである。「固形塩素投入」「2学期に水泳授業をずらす」などの手立てを検討しながら、なぜ南海中プールの水深報告を待って結論を出すことにしたのか。なぜ「固形塩素投入」「2学期に水泳授業をずらす」ではだめだったのか。この資料では肝心の論議がすっぽり抜け落ちている。さらに問題は「水深報告を待って」の真意である。当然ながら市教委は南海中プールの設計水深を把握している(把握していなかったらそれはそれで大問題)。市建築課の設計図面によれば、最も浅い所で120センチ、最深部で140センチ。市教委は現況の水深を確認したかったのかもしれないが、それなら南海中に電話すればいい。そもそも現況の水深を確認したところで大した意味はない。多人数の授業が行われても、給水しても、雨が降っても水位は上下する。

午後3時20分、長浜小校長が南海中と浦戸小で水泳の授業を行う案を職員会で報告する。午後3時40分、バスを手配するため、市教委学校環境整備課の職員が長浜小の校長に南海中で授業をする学年を確認する。

午後4時45分、プールの水深を測るために長浜小の一行が南海中を訪問した。(続く)

(C)News Kochi(ニュース高知)

関連記事

  1. 高知市とシダックス①指定管理をめぐる疑惑
  2. 高知市の対策遅れ指摘。岡村眞さん、南海トラフ巨大地震への準備訴え…
  3. 龍馬記念館のカリスマ、最期のカウントダウン① 宙に浮きそうだった…
  4. 四国山地リポート「考えぬ葦・ヒト」の営為② 山鳥坂ダム①3つめの…
  5. 高知市とシダックス⑥「通知から2カ月」の新ルール
  6. 60年前にタイムスリップ。高知県安田町、日本一昭和な映画館
  7. 龍馬記念館のカリスマ、最期のカウントダウン⑤時代の風に乗る
  8. 四国山地リポート 「考えぬ葦・ヒト」の営為⑥屈指の清流に小規模ダ…

ピックアップ記事









PAGE TOP