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なぜ学校で…。高知市立小プール死をめぐる疑問⑳36ページの異様な「のり弁」

高知市立長浜小学校の4年生が市立南海中で行われた水泳授業で溺れて亡くなった事故で、News Kochiは2024年9月27日に第三者委員会「長浜小学校児童プール事故検証委員会」の議事録を高知市教育委員会に情報公開請求した。11月1日に出てきたのは、見たこともないほど見事な「のり弁当」だった。(依光隆明)

情報公開請求に対する「期間延長通知書」。請求内容は「8月24日の長浜小プール事故検証委員会で、委員長が非公開にした部分の議事録」。わざわざ「個人情報等は黒塗りにした上で」と注釈を入れた

「非公開」だからこそ情報開示

情報公開を求めたのは、「8月24日の長浜小プール事故検証委員会で、委員長が非公開にした部分の議事録」。同日行われた第1回検証委員会は、議事の途中で委員長が非公開を決め、傍聴していた報道陣や市議会議員も退室させられた。非公開に対する批判は大きかったが、理解を示す声もあった。議論の中で個人名が出ることもあるだろうし、非公開にすることで実りのある議論ができるのではないか、という考え方である。自由な、実りのある論議と引き換えに非公開が認められたと言っていい。

非公開といっても、検証委員会が決め得るのはリアルタイムの議論を公開しないということだけ。議事録の開示非開示を決めるのは教育委員会に任されていた。あとで見るように、高知市行政情報公開条例は非開示部分以外の開示を指示している。非開示部分をチェックした上でそれ以外を開示するのが行政上の筋道なのである。

今回の場合、リアルタイム論議を全面非公開にしたからこそ議事録の部分開示が欠かせないという側面もあった。自分の子や孫にもかかわる深刻な問題なのに、現状では議論の方向すらさっぱり分からないからだ。聞き取るべき人に聞き取りをしてくれているのか、自分の専門分野だけにこだわるような的外れな議論になっているのではないか、教育委員会にことさら肩入れしているのではないか。そもそも委員が熱心に議論してくれているかどうかも知るすべはない。高知市は検証委員会に1千万円以上の補正予算を投じている。予算の適切な執行という観点で見ても、ある程度は市民の目が検証委員会に届く必要があった。

開示された議事録は黒塗りばかり。見たことがないほど見事な「のり弁当」が並んだ

教育長不在のはざまで判断

高知市の情報公開条例(市行政情報公開条例)では15日以内に開示するかどうかを決め、申請者に伝えるのが原則となっている(30日を限度として延長可能)。今回のケースでは9月27日に請求し、決定(公文書部分開示決定通知書)が出たのは10月28日。微妙なのは、松下整教育長が辞職をしたのが10月16日、次期教育長(永野隆史氏)の就任が11月1日という教育長の不在期間に決定が行われていることだ。決定通知書の差出人は「高知市教育長職務代理者、高知市教育委員会委員 谷智子」になっていた。

開示非開示を決定するのは教育委員会だが、実質的には決定通知書に明記された「事務担当課」が判断する。今回の場合は検証委員会の事務局を務める高知市教委重大事案検証室である。教育次長の植田浩二氏が室長、市長部局の森山宏一氏と森田加奈子氏が副参事を務めている。市教委と市長部局の混成部隊で、計7人。構図としては、いわば「被告席」に座るべき教育次長が市民への開示非開示を決める立場にいる。検証委員会で追及されるべき「被告」側が委員を決め、予算案を決め、委員に審議をさせ、議事録を作り、議事録の開示非開示まで決めているという構図になる。

議事録の開示日は11月1日午後1時。1カ月以上も引き延ばすのであれば開示非開示をさぞかし真摯に検討したのだろうと想像したのだが…。期待は見事に裏切られた。

情報公開請求の開示文書が黒塗りされることは頻繁にある。個人情報や印影は公にしてはいけないケースが多いからだ。それ以外の部分まで、要するになんでもかんでも黒塗りしたと思われる文書も少なくない。上から見ると真っ黒なので、いつの間にかこれを「のり弁当」と形容するようになった。「のり弁」が交じっていても、すべての文書が「のり弁」というのは見たことがない。それを初めて見た。

開示された議事録の表紙(これにはページ番号がない)の一部。「非公開決定以降の会議」としてこの議事録が作られていたことが分かる

日程調整まで「のり弁」に

開示された議事録には開催日や開催場所、出席者(委員、事務局、その他)を載せた表紙があった。その次のページからページ番号がついているのだが、1ページ目から36ページまで、すべてが「のり弁当」だった。辛うじて1ページ目に〈再開 午後1時57分〉、36ページ目には〈閉会 午後3時35分〉と書かれている。それ以外は真っ黒。開示文書のコピーには1枚10円かかるので(表裏印刷)、コピー代がもったいないと思えるほど同じページが続いている。

ただし明らかになった部分もあった。

表紙の冒頭にはこう書かれている。

〈要約版 ※声が重なる等で聞き取れない部分あり。趣旨を変えない範囲で修文を行っています。また、日程調整のところは、参考掲載とし、発言部分は大幅に省略しています〉

その下の部分にはこうあった。

〈【非公開決定以降の会議】第1回高知市立長浜小学校児童プール事故検証委員会議事録〉

以上から分かるのは、①検証委員長による非公開決定以降の議事録を独自に作成している②発言そのままではなく、趣旨が伝わる「要約版」として作成③非公開後、検証委員会は日程調整である程度の時間を取っている。

日程調整の部分は「参考掲載とし、発言部分は大幅に省略」と書いている。つまり発言部分を簡略化した上で議事録に載せていることが分かる。その部分まで市教委は「のり弁」にした。単なる日程調整まで非開示にしたのである。日程調整のやりとりを非開示にする理由は全く理解できない。要するに市教委は議論のすべてを、たとえそれがプール事故とは全然かかわりのないことであっても市民の目には触れないようにしたということだ。本筋から離れた議論であっても、参考程度の意見であっても、雑談であっても、とにかくすべてを「のり弁」化したと考えられる。これは情報公開条例の趣旨に反する。

「行政情報一部公開決定通知書」には「公開できない理由」が書かれていた

外部からの干渉、圧力って?

高知市行政情報公開条例の第10条にはこうある。

〈実施機関は、公開請求に係る行政情報の一部に非公開情報が記録されている場合において、非公開情報に係る部分を容易に区分して除くことができ、かつ、区分して除くことにより当該公開請求の趣旨が損なわれることがないと認められるときは、当該非公開情報に係る部分以外の部分を公開しなければならない〉

実施機関というのは、市長や市教育委員会、上下水道管理者、選挙管理委員会など。今回のケースでは市教育委員会が実施機関となる。必然的に教育委員会には非公開情報以外を開示する義務があるのだが…。条例は拡大解釈の余地も残している。

たとえば条例の第9条は「非公開情報」について細かく定めている。その多くは個人情報や人権絡み。そんな中に、さりげなく市役所側が拡大解釈できそうな項目を入れている。よく使われるのは第9条(5)にある以下のくだり。

〈市の機関並びに国、独立行政法人等、他の地方公共団体及び地方独立行政法人の内部又は相互間における審議、検討又は協議等に関する情報であって、次に掲げる理由があるもの ㋐公開することにより、当該又は将来同種の審議等における率直な意見の交換又は意思決定の中立性が不当に損なわれると認めるに足りる合理的な理由〉

今回の根拠規定もこれだった。決定通知には「公開することができない理由」と「根拠規定」も書かれていた。「根拠規定」として挙げたのが第9条第5号であり、非開示の「理由」は〈これを公開した場合、外部からの干渉、圧力等の影響を受けるなどにより、当該又は将来同種の審議等における率直な意見の交換又は意思決定の中立性が不当に損なわれるおそれがあるため〉。

読んでいて気がつかれるだろうが、情報公開条例が指摘した最も大事な部分を市教委は意図的に外している。最も大事な部分は〈認めるに足る合理的な理由〉なのである。〈不当に損なわれるおそれがある〉は単なる市教委の推測、想像、空想であって、そこに至る〈合理的な理由〉が明確でなければ非開示にはならない。唐突に〈外部からの干渉、圧力等の影響を受ける〉と書いているが、何を言いたいのか意味が全く分からない。〈干渉や圧力〉が非開示の合理的な理由であるなら、なぜ干渉や圧力が起きるのかを論理的に書き込まなければならない。論理的かつ具体的に書くことで市民に納得してもらわねばならない。当然ながら「ひょっとしたら圧力を受けるかもしれない」と市教委が夢想するだけでは〈合理的な理由〉にはならない。

これが1ページ目。上部に「再開 午後1時57分」とだけ書かれている。非公開にして傍聴者を退去させたあと、会議再開が1時57分だったことだけが分かる

議員に説明しない、質問させない

議事録すべてが「のり弁当」になったということは、市教育委員会は第三者委員会の議論一切を市民にも議員にも明らかにしないということだ。いや、条例の趣旨からいえば市役所内の市長部局や選挙管理委員会、公平委員会、上下水道局、消防局などに対しても非開示にしなければならない。市行政情報公開条例を忠実に読んでも、担当課の解釈でも、実施機関が非開示とした情報を他の実施機関に持ち出すことはできないからだ(所定の手続きを経た個人情報などは共有可能)。市長部局にも非開示ということは、市長や副市長ですら本来は見ることができない。市民にも議員にも市長にも明らかにしない議論を、いったい誰のために相応の人件費を使って議事録に仕上げるのだろう。

臨時市議会で可決された高知市の補正予算を見ると、検証委員会の事務経費は771万3000円。委員報酬が328万7000円。しめて1100万円を計上している。検証日程が延びると費用は膨らむし、この中には事務局の人件費は入っていない。議事録を書き起こす人件費だけでも少なくないはずだ。日程調整を論議する録音を聞き、それを誤りない文字にするだけでも安からぬ費用が掛かる。

カネと労力をかけて作ったところで、この議事録を見ることができるのは第三者委員会(検証委員会)の委員本人と、教育委員会だけ。もちろん議事録作成の意義は認めるものの、これほど頑なな非開示を見せつけられると、いったい誰のための議事録かと思ってしまう。高知市が市教委内に重大事案検証室を作った真意は情報統制だったのではないか、とも考えざるを得ない。第2回検証委員会から終了後に委員長が会見を開くようになったが、どういうわけか重大事案検証室は質問できる人間を報道機関に限った。第3回委員会後の会見では、質問した市議会議員を重大事案検証室の職員が注意するシーンすらあった。つまり検証委員長が説明する対象は報道機関であり、議員には一切説明しないし、質問もさせないということだ。市民の代表にもかかわらず、議員は目も耳も塞がれた状態に置かれている。情報を極端に統制しておいて、市教委はおそらく年度末になってぽんと報告書を出す。市民の代表として、市議会議員はそれを了承できるのだろうか。議論の流れを知らずに報告書を読み解くことができるのだろうか。(続く)

(C)News Kochi(ニュース高知)

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