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なぜ学校で…。高知市立小プール死をめぐる疑問⑭「今シーズン使えない」は嘘だった

高知市議会9月定例会で持ち時間いっぱいを使って長浜小プール事故死問題について質したのは9月19日の伴武澄議員、次に多くの時間を使ったのは同日の岡﨑豊議員(いずれも市民クラブ)だった。2人が様々な角度から質したことにより、幾つかの重要なことが明らかになった。(依光隆明)

伴武澄議員の質問に答える桑名龍吾市長

意味不明瞭な市長答弁

伴武澄議員はゆっくりとした口調で、しかし憤りを込めて質問した。論点の中心は第三者委員会「長浜小学校児童プール事故検証委員会」の問題で、まず非公開としたことによって市民に知る手段がなくなったという問題点を詳述。報告書を出したあとで第三者委員会が解散してしまったら質すべき先すらないことを指摘した。伴氏は2012年7月、京都市立養徳小学校で起こったプール事故死を例に出し、「報告書が出たあと、第三者委員会は解散し、資料はすべて廃棄された」と指摘。そのようなことがないように桑名龍吾市長や松下整教育長にくぎを刺し、第三者委員会を教育委員会の付属機関として立ち上げた理由を質した。弘瀬優副市長から「総合的に触(さわ)れるのは(市長部局の)総務部」だと考え、当初は総務部に置くことも考えたという答弁を引き出したあと、なぜ調べられる側の教育委員会内に立ち上げたのかと質問。桑名市長は以下のように答えた。

「第三者委員会の立ち上げに当たっては教育委員会にするか市長部局にするか議論した。市長部局に置くことも考えたが、今回はいじめなどと違って学校の授業に言及する。授業について市長部局からいろいろ言うのはおかしい。学校の中で起きた事故なので、学校の中で調査するのが妥当だ。教育にかかわる分野なので、教育委員会がふさわしい」

早口の答弁をメモしたので細部は正確でない可能性があるが、桑名氏はおおむねこのように答えた。言語は明瞭だったものの、意味は分からない。第三者委員会を市長部局に置くか教育委員会に置くかという問題と、市長部局が授業に口を挟む問題は質が違う。「授業について市長部局からいろいろ言う」とはどういうことだろう。いろいろ言うのは委員であって事務局ではない。委員を誰にするかという時点で恣意的な要素が入ると市長は考えているのかもしれないが、そうであればなおさら教育委員会には置かない方がいい。教育委員会が人選してしまったら「いろいろ言わない委員を選んだに違いない」と思われることは容易に想像できるからだ。おそらく公平中立だと見てくれる方が少ない。

答弁する弘瀬優副市長

すべては第三者委員会に

非公開問題に関連し、第三者委員会に中間報告を求めるべきではないかということも伴氏は質問した。これに対し、桑名市長は「中立公平を保たなければならないので私の方からは(中間報告の要請は)言えない。すべては検証委員会(第三者委員会)の判断に委ねたい」と答弁。中間報告を求めることがなぜ第三者委員会の公平中立を棄損するのかに関しては言及がなかった。

議会での質疑によって、高知市が第三者委員会にすべてを委ねる構図が明瞭になっていった。松下教育長の答弁で目立ったのは「お答えを差し控えさせていただきたい」。第三者委員会には話すが、議会には話さないということだ。そこまで第三者委員会に下駄を預けてしまって大丈夫か、という質問も伴氏は組み立てた。たとえば「遺族から報告書に不満が出たらどうするのか?」と。報告書に不満が出たときはおそらく第三者委員会はすでに解散している。責任を持つ組織も責任者もいない、という状態になる可能性があるからだ。松下教育長は「報告書が出たのちに教育委員会との間に齟齬が生まれるとは考えていないが、それ以外のところで足りない部分等が出れば何らかの形を取らなければならない。今はそうならないようにするのが私の仕事だ」と答えた。足りないところがあったら再び別の第三者委員会を立ち上げるという意味だろうか。続いて伴氏は「誰のために報告書をまとめるのか」と問いかけ、松下教育長は「ご家族(遺族)と話をする中で『なぜ死ななければならなかったのか』という思いを語っていただいた。検証を通して、しっかりと『なぜこのようなことが起きてしまったか』を明らかにすることをお約束している」と述べた。

9月19日の高知市議会定例会

予算の問題も検証?

岡﨑豊議員は、第三者委員会の立ち上げ直前に教育次長が「決して設備の問題ではない」「予算上の問題は関係ない」と公言したことを重視、「幹部の発言は予算の問題を軽視している。検証委員会(第三者委員会)の論議に影響を与えるのではないか」と質問した。これに対し松下教育長は、「(検証委員長は)『事案の概要を当然の前提とはせず』と言っている。第三者の立場で検証をしてくれると考えている。検証委員会を立ち上げる前の論議が影響を与えるとは考えていない」と述べた。桑名市長も「(そのときは)検証委員会が立ち上がった状態ではなかった。(予算は関係ないという見解は)憶測にすぎない」と答弁。市長、教育長ともに「予算上の問題は関係ない」という教育次長発言を明確に否定した上で、松下教育長は第三者委員会が設備の問題や予算上の問題にまで踏み込んで検証する可能性を示した。併せて教育長は「私どもが『予算のことについて検証してください』と話をすることはしない」とも述べ、「いろんな方面から丁寧に検証していただけると思う」と第三者委員会自体の意思に任す考えを明らかにした。

市教委の資料から。6月4日、長浜小の校長は誰かから「今シーズンは使えない」と報告を受けた

驚愕の「7月18日修繕完了」

岡﨑豊議員の質問に答える形で桑名市長は重要な事実を明らかにした。長浜小プールの故障についてだ。すべての発端はプール開きを翌日に控えた6月4日、長浜小プールの浄化装置に不具合が発見されたことだった。同日午前、長浜小にやって来た業者が、プール浄化装置の作業中に濾過ポンプの故障を発見した。同日午後4時ごろ、長浜小に戻った校長が「(プールは)今シーズンは使えない」と報告を受ける。

翌6月5日、教育委員会は固形塩素投入や2学期に授業日程を遅らせることなどを検討する。背景にあったのは2023年11月に発表された「高知市立学校の今後のプールの在り方に関する答申書」だとみられる。そこにはプール故障時の方針として、小学校は故障を直して自校プールで授業をすることが明記されていた。それに沿うならば長浜小プールを使うことを徹底追求するほかない。

ところが同じ6月5日、長浜小は1~3年生を浦戸小、4~6年生を南海中プールに行かせて今年度の水泳授業をすることに決め、教育委員会も同日夕にそれを認める。詳細な思考経路は明らかになっていないが、市教委側の判断材料に「今シーズンは使えない」という情報があったことは間違いない。今シーズンは使えないということは、2学期に水泳授業を集中させることもできない。1シーズンすべてを固形塩素でしのぐのも現実的ではない。

9月19日、桑名市長はこう答弁した。

「(長浜小のプール故障は)交換部品の納品に時間を要したが、7月18日に修繕を完了した」

桑名氏はさらりと言ったが、この言葉の意味は極めて大きい。南海中のプールを使う必要があったのかという本質的問題にもかかわるからだ。「今シーズンは使えない」は誰が言ったのか。そもそもどの程度の故障だったのか。「交換部品の納品」さえ急がせればごく短期に修繕できたのではないか。ごく短期であれば、固形塩素の投入でしのぐことができたのではないか。少なくとも修理後に水泳授業を固めるという手立ては成立したのではないか。

高知市がこれまで報告してきた事実関係の中で、客観的に明らかでありながら意図的に情報開示を伏せていることがある。それがプール故障の内容だ。明らかにされていたのは「6月28日午前10時ごろ、修理日程が7月18、19日に決定した」ということだけ。すべての前提になるのがこの故障なのに、どのような故障だったのかが全く明らかにされていない。9月19日の桑名答弁で分かったのは、想像以上に軽微な故障だったという疑いだ。6月28日から修理まで20日間も空くのは単に交換部品の到着を待っていたからであり、修理を始めたら1日で完了している。どう考えても「今シーズンは使えない」ような故障ではない。実際にわずか1日で修理は完了している。日にちがかかったのも、交換部品の到着を待っていただけなのである。

プール事故が起きたのは7月5日の水泳授業だった。交換部品の到着を延々待っているときに事故が起きた。交換部品さえ急いで取り寄せていたら長浜小のプールを使えた可能性もある。「今シーズンは使えない」はどういう根拠で誰が誰に言ったのだろう。「今シーズンは使えない」という言葉が引き金になって何の瑕疵もない小学4年生が亡くなっているのだ。「今シーズンは使えない」と「7月18日に修繕を完了した」の落差はあまりにも大きい。少なくとも市長がさらりと言うべきことではない。(続く)

(C)News Kochi(ニュース高知)

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