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四国山地リポート「考えぬ葦・ヒト」の営為③大規模林道の現実②立ち上がる市民

奥深い山で進められる公共事業の常として、よくあるのが建設根拠のあいまいさや環境破壊の隠ぺいだ。大規模林道はその典型かもしれない。山の奥深くでこっそりと建設がすすめられたのだが…。北日本でブナ林を守る運動をしていた市民の目は、鋭くこの工事の罪を見抜いていた。のろしは山形県と福島県で上がった。(西原博之)

大規模林道の出口。緑資源機構が立てた標識が目立つ=日吉―松野線

市民運動が計画を止めた

山形県の「葉山の自然を守る会」代表の原敬一さんらと福島県の「博士山ブナ林を守る会」の東瀬紘一さんらが「大規模林道問題全国ネットワーク」を結成し、1993(平成5)年に山形県で第1回全国集会を開いた。

以後、福島県や北海道、岩手県、広島県など大規模林道建設中の地域で集会を重ねた。現地調査や市民アセスメントを実施し、大会アピールを出し、林野庁との交渉、環境省への申し入れなども行った。「林業振興に何の効果もない」「森林破壊」「税金の無駄遣い」などなど、あらゆる視点から大規模林道建設を追及したのである。

運動は国を動かし、追いつめ、各地で路線を建設中止に追い込んだ。そんな中で談合事件(2007年の緑資源機構による官製談合)が明るみになり、機構は解散する。それによって国による建設は止まった。市民運動が国の計画を止めるという新たな歴史を作った。

小田―池川線の工事現場を視察する大規模林道問題全国ネットワーク愛媛大会の参加者=2002年11月17日

愛媛で開催、高知の事務所を訪問

筆者も山形、岩手、広島など各県の集会に参加し、新聞紙面などでそれを報告した。建設阻止運動の中締めとして、2002(平成14)年11月には第10回となる「大規模林道問題全国ネットワークの集い」が愛媛県で開かれた。テーマは「愛媛の山、川、海の自然は今」。大規模林道問題は川、海の問題でもある。各地から反対運動を主導してきた人たちが集まり、大規模林道の問題点を地域ごとに抉り出した。愛媛からは山本森林生物研究所の山本栄治さんが森林の役割を説明し、「大規模林道に予算を費やすのは愚か。より有効な施策に使うべきだ」と問題提起して大きな拍手を浴びた。

集会のあと、有志で高知市にある緑資源公団高知地方建設部を訪問し、質問書と抗議文書を手渡した。

資料を手に大規模林道の現状を調べる山本栄治さん=小田—池川線

「忘却こそを許せない」

2016(平成28)年にはこの運動を総括した「検証・大規模林道」を出版した。筆者も四国の大規模林道建設の経緯と問題点を担当し、失われた環境を思って筆を進めた。

全国各地で建設された大規模林道が放置され、荒れ果て、無残な姿をさらしている。多くの市民がそこに冷めた目を向け続けている。

かつて山形県の「真室川―小国線」を視察したことがある。建設から多くの年月がたっているわけでもないのに、同線では崖崩れが起き、各所で寸断されていた。北国の山道は豪雪のため、稼働期間も半年に満たない。では半年は稼働しているかといえば、実際は今も通行止めの区間が多い。山形県で活動する原敬一さんは、「道端の草や木を枯らすために除草剤をまいている」と怒りを込める。ネットワークの生みの親でもある原さんは、今も大規模林道の残した負の遺産を指摘し続けている。「1兆円も注ぎ込んだ道路の多くが今は廃道だ。国はそれを過去のことにしてしまって忘却している。それこそを許せない」と。

貴重な自然林を貫いて走る大規模林道=小田―池川線

破壊された山肌が残骸として残るだけ

東北の大規模林道には土砂崩れや大雨による崩落で10年間以上も通行止めが続く区間が多い。復旧計画もできていない。貴重なブナ林を伐採して道路をつくり、植えたはずのスギは気候に合わずに全滅した。福島県の「飯豊—桧枝岐線」「米沢―下郷線」も土砂の下。「大規模林道が建設された山でキノコ栽培をしていたが、もう分け入ることもない。道路は時折、若者がバイクで走るだけ」と証言するのは福島県の東瀬紘一さん。「破壊された山肌が残骸として残っているだけだ」と続ける。大規模林道反対運動発祥の地である東北地方では道路として機能している大規模林道はほぼ存在しない。

(C)News Kochi(ニュース高知)

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