愛媛県広見町(現鬼北町)出身の放射線衛生学者、木村真三さんのレポートです。広見町は四万十川の支流が貫くJR予土線沿いにあり、木村さんは予備校時代(土佐塾予備校)の1年間を高知市で過ごしたこともあります。2011年3月の福島第一原発事故後、木村さんは勤めていた厚生労働省の研究所を辞し、福島での調査に没頭しました。現在は獨協医科大(栃木県)の准教授を務めながら福島県郡山市と同県浪江町津島地区に測定拠点を構えて地道な調査を続けています。近年はハンセン病や優生保護法へも視野を広げていて、昨年12月には優生保護法のリサーチのため高知県を訪れました。
分室移転乗り越え、福島での調査を継続
2024年は地震と大雨、航空機事故と最初から終わりまで、激動の1年でした。
私も福島県二本松市と獨協医科大学の協定終了が1年半前に出て、そこから分室移転問題が持ち上がり、多くの方々のお力で何とか福島での調査が継続できることになりました。
私自身も激動の1年を過ごしました。
先ほど(2024年12月末)、ようやく新規移転先の浪江町津島地区の施設と郡山市に設けた測定室のしめ飾りを買うことができました。
別に福の神がやってこなくても、平穏であれば良いのです。
「ファクトチェックとは」を講義
ここで、政治の話をひとつ。
世界では、ウクライナに戦争を仕掛けたプーチン、本来なら国家騒乱罪で逮捕されても良いトランプ、無差別攻撃を続けるイスラエルのネタニヤフ政権にも憤りを感じます。
一般市民を巻き込み大量虐殺を行ったプーチン政権を批判しながら、ネタニヤフが行っていることに目をつぶるアメリカの姿勢は、まさに国家の衰退としか言いようがありません。
そうでなくては、トランプが再選すること自体、あるはずがないのです。
韓国は自浄効果がまだ残っているので、尹大統領は収監されるようですが…
国内に目を向けると、東京都知事選、衆院選でのポピュリズムの台頭。
目先のことに流され、国として必要な税収を減らし、赤字国債の乱発では、日本もそう遠くない時期に終焉がくるのではないかと危惧してしまいます。
東京都知事選、衆院選では、選挙という神聖なものが、若い人たちには死語、死後?になっているかもしれないが・・・公序良俗とはかけ離れたコミックショーのような立候補者が乱立、挙句、兵庫県知事選は明らかに選挙制度の見直しをせねばならないくらい劣化してしまいました。
身の丈ではありますが、来年度から、少人数制で行う獨協医科大学1年生の講義では、「ファクトチェックとは何か」を様々な視点で検証します。
巷に横行するSNSに左右され、真実は何かを見ようとしない人が増えている昨今、国内外で起きていることに正しい目を向けることを始めなくてはなりません。
安田にぽつんと映画館
次に明るい話題を。
今月(12月)、私は優生保護法下における精神疾患患者の強制収容、断種手術、ロボトミー手術(備考参照)が行われた高知県最古の精神病院で初代院長を勤められた医師のご遺族からお話を伺うため高知市に出かけました。
こちらのお話は、そのうち研究をまとめたらお伝えしますが、今回のメインは明るいものです。
高知県安芸郡安田町の山裾と安田川が迫ったわずかな土地に、「ポツンと一軒家」に出てきそうな映画館があります。しかも、35mmフィルムの上映もできるというレトロという言葉では表現しがたい、生きた化石のような映画館です。
地元のひとは、あまり足を運ばないのですが、全国からこのノスタルジックな映画館に惹かれていろんな人々がやってきます。
この映画館の名前を大心(だいしん)劇場と言います。今年で70年を迎えた同館を1人で切り盛りしているのは小松秀吉さん。
父親である初代館長の意志を継ぎ、大阪の大学を卒業後、豆電球という名でシンガーソングライターもやるし、看板もポスターをうまく使って手書きで作るし、何から何までお手製で賄ってきました。
オールナイト上映を手伝った!
今回、その小松さんが病気を患い、元気を無くしているというので、高知新聞社会部長、朝日新聞特別報道部長を歴任された依光隆明さんと役者兼脚本家をされている桜井珠樹さんの二人が中心となり、高知芸術祭の補助金を得て12月14、15の両日に70周年映画祭を企画しました。
たまたま、依光さんのお父さんが国鉄職員時代、私の生まれ故郷の近くの西土佐村江川崎(現 四万十市)で駅長をされていたご縁と朝日新聞で連載された「プロメテウスの罠」の「研究者の辞表」という一節で取り上げられたことがきっかけで、お付き合いするようになりました。
依光さんの奥さんから送っていただいたミカンと共に映画祭のチラシが入っていたので、これは!と思い、参加してきました。なんと、初日の14日はオールナイトの上映会。私も最初からお手伝いで、会場作りから暖を取るためのBBQ小屋の炭起こしなどボランティアで働いてきました。
まあ、手作り満載の映画と映画館、前述の桜井さんが書いた「追い風ヨーソロ!」は25万円の低予算ながら、なかなかどうして、幕末と現代が重なり合う不思議な映画を見て来ました。
開会式の後、サプライズとして小松さんご夫妻への花束贈呈もあり、ヨーソロの出演者達が登壇し、小松さんへのエールを送りました。
備考)ロボトミー手術とは
人間の脳の一部を破壊することにより、精神疾患患者の症状が改善されると考え、ポルトガルの神経学者のエガス・モニツによってロイコトミー手術(前頭葉白質切截術)が行われました。20例の手術により治癒7例、改善7例、変化なし6例として1936年3月、パリの神経医学会で発表されました。その後、アメリカの神経科医ウォルター・フリーマンと脳外科医のジェームス・ワッツにより、術法が改良されロボトミーと名付けられました。1937年の「ニューヨーク・タイムズ紙」の一面に「精神病治療の転換点のなる新たな手術」というタイトルの記事で、同手術が「獰猛な野生動物」を「穏やかな人間」に変える画期的方法だと紹介されています。
こうした功績から、1949年モニスは「ある種の精神病に対する前額部大脳神経切断の治癒的価値の発見」によりノーベル生理学・医学賞を受賞しています。
しかし、ロボトミー手術を受けた多くの患者達に後遺症が出たことで、ノーベル財団には「ロボトミー手術で人格を破壊された被害者団体」から、モニスの生理学・医学賞を抹消すべきだという申請が何度も提出されています。
ジョン・F・ケネディ大統領の妹ロースマリーは軽度の精神発達遅滞があったといわれ、20歳のころから気分の変調や粗暴さが目立つようになり、困った父親がフリーマンに依頼してロボトミー手術が施されました。術後、人格水準低下の後遺症で残りの64年の人生を介護施設で過ごすことになったという逸話が残されています。