政治

路上で消防が6分間足止め! 横浜に見る校舎警備の落とし穴

全国の公立学校で夜間・休日の校舎管理を外部委託する流れが進んでいる。1970年代までは教職員や用務員が宿直したが、現在の主流は機械警備。つまり警報機器の設置とセットにした警備会社への外部委託だ。一見、安価で頼もしいシステムに見えるのだが…。横浜市で起きた事案を縦軸にしてこの問題に焦点を当てる。(七尾和晃)

特別支援学校前の路上に到着した消防車=6月28日午前5時過ぎ、横浜市港北区

報知器の音声が鳴りやまない

2026年6月28日の日曜日、午前4時半ごろに横浜市港北区の特別支援学校で火災報知器が鳴り始めた。国立天文台のサイトによると、その日の夜明けは午前3時50分ごろで、日の出が午前4時28分ごろ。鳴り始めたときはまだ薄暗かったので、午前4時を過ぎたくらいではなかったかと思われる。最初、報知器音は不明瞭で小さかった。間もなくそれが「3階から火災が発生しました。避難してください」という男性の機械音声となり、その音量は時間の経過とともに大きくなった。9日前の6月19日には東京・北区の滝野川第三小学校で音楽室が出火、子どもたち11人が重軽傷を負う災禍となって全国に衝撃を与えたばかり。日曜日にもかかわらず、特別支援学校近くの住民は大音量の警報音声に目を覚まして事の成り行きに耳をすませた。

住民たちに違和感がわいたのはここからだ。感覚的には半時間以上してから停車直前に少しだけサイレンを鳴らして消防車が到着した。ところが消防車が来た後も機械音声は鳴りやまないのだ。どうしたことかとじりじりしていると、しばらくしてやっと機械音声がストップした。報知器の誤作動だったのだろう、消防隊は午前5時44分に現場から引き上げた。

なぜ機械音声が鳴りやまなかったのか。不審を持った住民が翌29日(月)の午前10時過ぎに横浜市教育委員会の支援学校担当者に電話で問い合わせると、前日早朝のこの騒動を全く把握していなかった。所管の市北部学校教育事務所も、同日夕の時点で把握していない。施設面を担う市教委教育施設課は住民が翌日昼に電話するまで知らなかった。

北部学校教育事務所に住民が電話したのは29日の午後4時50分だった。担当は当初、「もう午後5時になるので学校とも連絡がつかない」と返答した。「午後5時になったら学校に連絡がつかない?緊急時の対処態勢はどうなっているの?」と問われ、この特別支援学校に連絡して事案の発生を把握している。市教委教育施設課の担当に至ってはこう答えていた。「おそらく6月の報告書として上がってくると思います。つまり、6月28日に発生した件なのでこれから報告が上がってくるはずです」

火災警報器は誤作動だったのか。誤作動ならなぜ誤作動したのか。火災につながる要因はなかったのか。実は深刻な事態になり得る端緒だった可能性はないのか。些細な見逃しが重大な事故や事件につながる。今回の現場は特別支援学校という、より一層の配慮が求められるべき場所だった。慎重かつ迅速な対応が欠かせないことは誰もが想像できる。しかし市教委の対応は驚くほど鈍い。後述するが、さらに驚かされることもあった。

消防隊の「活動報告」。受令してすぐに出動、9分で到着したと書かれている

鍵がなくて入れない!

他方、火災報知器の作動を感知した警備会社と消防署の対応を見る。情報開示請求に基づいて7月16日に市が開示した公文書によれば、委託先の警備会社である京浜警備保障が火災報知機の作動をキャッチしたとしているのは6月28日午前4時37分。同社の報告書には同時刻に119番通報をしたと記されているが、市消防長が開示した「活動報告」では消防の受電は4時41分になっていた。通報と受電になぜ4分の差があるのかは分からない。「活動報告」によると消防隊は受電と同時刻に出動し、9分後の4時50分に支援学校前へ到着。6分後の4時56分、京浜警備保障が到着する。

消防隊と警備会社の到着6分差は大きな意味を持っている。未明に学校施設を開錠できるのは警備会社しかないからだ。鍵を持っている警備会社が到着しなければ消防隊は現場路上で待機するしかない。今回、消防隊の到着後も火災報知機の機械音声が鳴り続けたのはそのためだ。消防隊は路上で6分間も足止めされたことになる。仮に本当の火災であれば、対処は一刻を争う。6分のロスがどれほどの重みがあるのかは言わずもがなと言っていい。

京浜警備保障の報告書には若干の疑問を持たざるを得ない点もある。報告書によると、副校長への「緊急連絡」は119番通報の5分後。なぜ学校責任者への「緊急連絡」が5分も遅れたのだろうか。そもそも午前4時37分に119番通報したのだろうか。事案発生は6月28日であるにもかかわらず、欄外にある日付は「6月27日」になっていた。公文書に対する感覚が軽い、ひいては火災報知機の作動という事態を軽く見ている節も伝わってくる。加えて懸念されるのは横浜市教委の対応だ。

警備会社の報告書。発生と同時刻に消防へ通報したと記している。右上の日付は6月27日

そもそも報告書を作成していない⁉

「7月に入れば6月の報告書が上がってくる」という感覚自体が事案に対する感覚の鈍さを象徴しているが、驚かされるのはその報告書すら存在しない可能性があることだ。情報開示請求でそれが明らかになった。開示請求に対する市教委の回答は、「文書の不存在による“不開示決定”」。その理由を次のように記している。

〈横浜市教育委員会事務局による学校からの状況発生の報告については、主に学校訪問や電話等による聞き取りにとどまっており、文書を作成しておらず保有していないため〉

6月28日の事案発生から開示まで約3週間。この文章から感じられるのは無機質な軽さであり、事案を真摯に受け止める姿勢は伝わってこない。文面を見る限り、「7月に入れば上がってくる」はずの報告書はそもそも作成される仕組みすら存在しなかった疑いがある。3週間前の事案がメモ的な文書(上司や組織に報告すべき内容を書いたメモは公文書)にすらなっていないことがそれを裏打ちしている。

文書として内部共有しないということは、教訓として生かさない意思を示している。火災報知機の誤作動なんて頻繁にある、という感覚だろうか。その感覚が通報と受電の「4分差」にも、消防の「6分間待機」にも注目することのない体質を生んでいるのではないか。ひいてはそれが消防より6分遅れて到着し、報告書の日付にも頓着しない委託先のスタンスにつながっている可能性はないだろうか。

7月17日付の「不開示決定通知書」。そもそも文書を作っていないから開示できない、としている

自転車の速度で駆け付けた

校舎管理の外部委託は、公共施設の指定管理制度同様に全国で拡大している。総務省のデータによると、学校用務員事務の民間委託率は市町村で38.9%。都道府県は40.9%で、横浜などの政令指定都市は55.0%。夜間休日の校舎管理はさらに外部委託が進んでおり、例えば高知県の県立学校では7割(47校中32校)が警備会社の機械警備となっている。校舎の安全を託すだけに、当然ながら委託先には真摯な業務が求められている。

一口に機械警備といっても幾つかの契約方式がある。異常時の駆け付けだけを人に頼る契約もあれば、機械警備と人的警備(見回りなど)をミックスした契約もある。2006年に出た横浜市の「監査結果と措置」に関する文書にはこう書かれていた。

〈施設管理課では、市立小・中・盲・ろう・養護学校の施設等の安全を期するため、夜間、休業日等の警備業務を委託により実施している。主な委託内容は、警報機の設置による夜間等の機械警備であるが、併せて、警備担当員による業務として、校長の指定する時間帯において、夕方(おおむね午後4時から8時の間)は、警報機器の作動開始、校舎の巡回点検、教室の施錠などを、また、朝は、警報機器の作動終了及び校舎の巡回を行うこととされている。そこで、各学校における業務の履行状況をみたところ、一人の警備担当員が担当する学校が1校から5校と幅があることなどから、夕方の1回の巡回時間が、10分から1時間30分までと大きな差が見受けられた。また、朝の巡回時間についても、同様の差が見受けられた〉

以上を踏まえ、「措置結果」として「警備開始時、校長が指定した時間帯に30分以上巡回警備」「警備終了時、校長が指定した時間内に30分以上巡回警備。教職員に警備日誌記入の上、引き継ぐ」などを委託契約事項に盛り込ませた、とある。

警備会社による校舎の機械警備は全国的な流れで、ある大手警備会社は「東京都内や都市部では私立学校も多いので、公立に限らず学校需要は大きい」と指摘する。異常時の駆け付けについてはこう話していた。「警備業法上、警備会社は25分以内に現場に到着できるように拠点整備をすることになっています。ただ、うちはそれよりも厳しく、20分という社内規定で対応しています。消防よりも後に到着というのは基本的にはあり得ない。どうしてもそうならざるを得ない地域や状況であれば、場合によっては契約をお断りさせていただくこともあります」

今回の場合、委託先の京浜警備保障は消防よりも6分遅れた。京浜警備保障の報告書によると、待機所から特別支援学校までの走行距離は4・1キロ。信号等を勘案せずに到着時間までの速度を算出すると、およそ時速13キロ。自転車並みの速度、ということになる。しかしこれは消防隊にもいえる。「活動報告」によると、消防隊の基地から現地までは1.5キロ。現地まで9分かかったということは時速10キロとなる。なぜそれほど遅いのか、の理由は「活動報告」からは見えない。

高知県のホームページから。県立学校の機械警備は随意契約を基本としている。年間の契約金額(2社で約5000万円)を32校で割ると、1校当たり約150万円程度

随意契約という落とし穴

機械警備には実は陥穽がある。警報機など主要機器の設置は委託先任せであり、いったん設置したら業者の変更は困難なのだ。例えば高知県の場合、県立学校の機械警備は「綜合警備保障(ALSOK)」と「ケイエスエー・プロテック」に委託している。競争入札ではなく、いずれも1年更新の随意契約。県教委はその理由を「警備機器の設置等多額の初期投資が必要であることから、既に警備機器を設置している業者と契約を締結することにより経費を安価に抑えることが可能となるため」としている。

随意契約には「漫然と契約する」という危険性がある。学校の危機管理という最大限の緊張感が求められる場に、「漫然」が持ち込まれる可能性はないのだろうか。たまたま表面にちらり現れたのが6月28日に起きた横浜市の火災警報騒動なのではないだろうか。現場で消防が陥った「6分待機」、その後の横浜市教育委員会の対応ぶりは、同様の契約を結ぶ全国の他の自治体に多くの視点を提供している。

(C)News Kochi(ニュース高知)

関連記事

  1. 高知市とシダックス②「始期」をめぐる奇怪な論
  2. 高知裏面史 西岡寅八郎メモワール⑦対等だった「四天王」
  3. なぜ学校で…。高知市立小プール死をめぐる疑問⑫事故18日目にもう…
  4. 四国山地リポート「考えぬ葦・ヒト」の営為④人工林を自然林に㊦地下…
  5. 「季刊高知」間もなく100号 休刊挟み35年、野並良寛編集長に聞…
  6. 映画「どうすればよかったか?」㊤ 統合失調症に向ける目線のもどか…
  7. なぜ学校で…。高知市立小プール死をめぐる疑問㉖トラップが潜んでい…
  8. 60年前にタイムスリップ。高知県安田町、日本一昭和な映画館

ピックアップ記事









PAGE TOP