「土佐の大地に新幹線を!」これはかつて高知市桟橋通3丁目に居を構えた自由民主党高知県衆議院比例区第二支部に掲げられていた看板だ。中に入って「新幹線について話を聞きたい」と申し出ると、渡されたのは四国新幹線の認知度を高めるためのイベントのパンフレット、そして署名用紙であった。市民の強い要望によって四国新幹線の誘致活動が行われているのだとすれば、「認知度を上げるためのイベント」は的外れではないだろうか。高知に住み、生活をしていた一個人としては「なぜこんな夢物語を政治家は掲げるのか」というのが正直な感想だ。しかし、「四国新幹線」という単語を聞く機会が増えたのも事実。夢物語と思っていた四国新幹線は、実は実現可能な未来なのかもしれない。(立命館大学3年、宅間稜悟)=インターンシップ研修生

「土佐の大地に新幹線を!」を掲げた自民党事務所=2024年、高知市桟橋通3丁目
基本計画路線と整備新幹線
実は四国新幹線の構想自体は近年に登場したものではない。最初に発表されたのは1969(昭和44)年に打ち出された「21世紀の国土のグランドデザイン」で、1970(昭和45)年に全国新幹線整備法が成立、1973(昭和48)年には四国新幹線を含む11路線が「基本計画路線」として公示された。基本計画路線に入った四国新幹線は、実は二つ。一つは岡山県を始点とし、終点を高知とする四国縦断案。もう一つは始点を大阪とし、終点を大分とする四国横断案。基本計画路線となっても着工はまだまだ先で、まずは整備新幹線に選ばれないといけない。
全国新幹線整備法は「運輸大臣は、政令で定めるところにより、基本計画で定められた建設線の建設に関する整備計画(以下「整備計画」と呼ぶ)を決定しなければならない」(第7条)と定めている。つまり具体的な整備計画が立てられることが重要であり、それこそが新幹線整備の第一歩となる。
実際に整備計画が立てられた路線を通称「整備新幹線」と呼ぶが、その路線が決まったのは同じ1973年だった。整備新幹線となったのは東北新幹線、北海道新幹線、北陸新幹線、九州新幹線(鹿児島ルートと長崎ルート)。2016(平成28)年の北海道新幹線開通で整備新幹線の全てが開業したものの、全線開通はまだ先のこと。そちらが優先されるため、整備新幹線以外の基本計画路線はいまだ構想段階にとどまっている。いわば四国新幹線は構想段階に過ぎない。

JR岡山駅の新幹線
四国だけが空白地帯
なぜ今、四国新幹線なのか。大きな理由は、主だったほかの新幹線がすでに開業したことだ。北海道新幹線の開業により、列島の中で四国だけが新幹線空白地帯となっている。2010(平成22)年には国も含めた「四国における鉄道ネットワークのあり方に関する懇談会」が開かれ、「鉄道の抜本的な高速化を進めること」を柱とした提言がなされた。高速化の方策の一つが「新幹線の導入」だ。提言をきっかけに4県の市長会や町村会、商工会議所、商工会など、多くの行政・経済団体が参画した官民一体の活動組織「四国新幹線整備促進期成会」が結成される。現在までこの組織が四国新幹線導入の旗振り役となって国への要望活動や地域住民への理解を深める活動を行ってきた。
「さらなる高速化には限界」
四国新幹線に現実性はあるのだろうか。採算はどうだろう。JR四国本社に問い合わせてみた。
まず四国新幹線の導入についてどう捉えているのか。JR四国の回答は「新幹線は四国の将来の地域づくりに不可欠なインフラです。既存新幹線との接続による広域交流圏の形成や分散型国土形成などに大きく貢献し、大規模災害発生時の重要なライフラインになり得ます」だった。導入後の在来線への影響や新幹線建設の負担金等に関しては「想定したものはありません」。理由は「新幹線の計画がまだ具体化されていない段階のため」だそうだ。技術的に実現可能なのかという点については、「他の地域と比較して四国特有の課題があるとは想定していない」と答えてくれた。「山地の多さは(北海道新幹線の)新函館北斗~札幌間トンネルが路線の約80%。利用客数については、北陸新幹線と比較して沿線人口に遜色はありません」と。
鉄道の高速化が目的であるのならば新幹線以外の手段もあり得るのではないか、という点も聞いた。回答は「JR四国では会社発足以来、曲線改良などの線路設備改良や振子車両の導入で、高速化に取り組んできました。しかし、現在の鉄道施設でのさらなる高速化には限界があります。そもそも在来線と新幹線では最高速度に大きく差があります。在来線の最高速度は時速130kmです。これに対し、整備新幹線の最高速度は260kmに達します」。四国新幹線整備促進期成会のホームページによると、新幹線の導入により新大阪や東京からの移動時間は最も距離がある高知県で約半減するという予測が出ている(リニア開通後の予測)。四国4県間の移動も1時間以内に短縮できる。新幹線導入が抜本的な高速化につながることは明らかだ。

岡山〜高知をつなぐディーゼル特急「南風」=JR高知駅
高知県の負担は年26億
新幹線を整備するには地方自治体も負担を求められる。高知県交通運輸政策課に問い合わせし、四国新幹線に関する具体的な想定、県としての取り組みを聞いた。まずは県が負担する整備負担金。回答は以下の通りだった。
「『四国の鉄道高速化検討準備会』が平成 26 年(2014年)に行った試算では、四国の新幹線整備事業費は約 1.57 兆円(工期8年)とされています。これを現在の負担ルールにあてはめた場合、実質的な高知県負担は、約 210 億円(単年度当たり約 26億円)と試算しています」。詳しい内訳は、情報公開制度で入手した開示資料に書かれていた。それによると、全体負担金の3分の2を国が負担し、残りの3分の1を地方が負担する。そのうち半分以上を地方交付税で賄うため、地方の自主財源による負担というのは12〜18%ということになる。これが上記の回答内で示された「現在の負担ルール」にあたる。実はこれらの想定は高知県単独で行ったものではなく、「準備会」による2014(平成26)年の試算で算出されたものだ。取材したのは2024(令和6)年だったので、10年前の計算ということになる。10年前の、しかも県自ら行った想定ではないことから力が入らないのでは、という印象を受けた。

JR高知駅の構内
「更なる取組を進める」
四国新幹線について、国はどのようなスタンスなのか。昨年、2025(令和7)年に内閣府が示した「経済財政運営と改革の基本方針」(骨太の方針2025)には〈基本計画路線を含む幹線鉄道ネットワークについて、各地域の実情を踏まえ、地方創生2.0の実現にも資する幹線鉄道の高機能化に関する調査や方向性も含めた検討など、更なる取組を進める〉とあった。これを受けて四国新幹線整備促進期成会は、整備計画への格上げが近いという期待感を持っている。確かに表現は徐々に前向きになってきていて、たとえば骨太の方針2023 には「基本計画路線及び幹線鉄道ネットワーク等の高機能化等の地域の実情に応じた今後の方向性について調査検討を行う」と書かれていた。要するに、「調査研究を行う」レベルだった。骨太の方針2024 ではそれが「更なる取組」という表現になる。具体的には「デジタル田園都市国家構想の実現にも資する幹線鉄道の地域の実情に応じた高機能化に関し、更なる取組を進める」。骨太の方針2025は「方向性も含めた検討」へとまた一歩進んだように見える。とはいえいまだに調査も行われていない現状を見ると、ものごとが進んでいるとは言えないだろう。国の考え方について、四国新幹線整備促進期成会は「北海道、北陸、九州での整備計画路線を優先的に整備するスタンスで取り組んできている」と受け止めている。整備路線がすべて完成するまでは四国新幹線の実現は難しい、と解釈しているようだ。

JR高知駅外観
やはり夢物語なのか
取材を通して感じたのは、まだ何も動き出していないということだ。国の骨太方針が基本計画路線に言及するなど、四国新幹線整備促進会の調査や署名活動は国を動かす影響力を持っているのかもしれない。その一方で、県ばかりでなくJR四国ですら調査もしていないことを考えると、実現までの道のりは長い。ここ10年は大きな調査も行われず具体的な計画も出ていない現状を見ると、個人的にはやはり夢物語だとしか思えない。新幹線ができることによるメリットや、それによる地域の活性化は少なからずあるだろうが、今の四国に莫大な資金を投じて新たな鉄道網を作るほどの体力と魅力があるとは思えない。各地方自治体が積極的な調査を行い、四国が一丸となって活動を行なっていく以外に実現への道はないように感じられる。

















