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高知発「風力発電と保安林」⑧盛土規制法をすり抜け?

2021年に静岡県熱海市で起きた大規模土石流災害を教訓に、2023年5月から国は盛土規制法(宅地造成及び特定盛土等規制法)を施行した。最大2年の経過期間を経たあと、高知県が全面運用を始めたのは2025年4月1日。電源開発株式会社が本山町、香美市、大豊町の尾根筋で計画する大規模風力発電事業もその網をかぶったのだが…。バックホーのバケットひとすくいで規制から逃れた疑いが出ている。(依光隆明)

2025年4月16日付でジェイウインドが県都市計画課に提出した「宅地造成又は特定盛土等に関する工事の届出書」。工事中の面積は21.2㌶。大がかりな造成工事の割に何の工事かは書かれていない

規制は厳しいが…

熱海の災害が起きたのは2021年7月。山中に造成された巨大な盛土が大雨で崩落、28人が亡くなる土石流となった。その反省から生まれた法律が盛土規制法で、高知県内は全域が規制の枠内に入っている。規制対象は2025年4月1日以降に着工した工事。県の許可がなければ工事に入れないし、中間検査や定期報告、是正命令、さらには刑事罰も用意されている。書類の数も“膨大”と表現できるほどに多い。ところが2025年3月31日以前に着工していれば規制の対象外で、簡単な届け出だけで工事OK。高知県の場合、着手済みの工事は同年4月21日までに県へ届け出れば規制外が認められていた。

本山町などの尾根筋で計画中の大規模風力発電事業は、電源開発が子会社のジェイウインドを使って進めている。県によると、盛土規制法に関する書類は2025年4月16日付でジェイウインド社長から高知県知事あてに提出されていた。許可を申請する書類ではなく、「工事中」を根拠とする届け出だ。名称は「宅地造成又は特定盛土等に関する工事の届出書」(以下「届出書」と呼ぶ)。情報公開請求に基づいて開示された「届出書」を見ると、提出日に都市計画課が受け取りの印を押していた。

目を通してまず驚かされるのは、工事着手日が盛土規制法運用開始のわずか1週間前ということだ。駆け込みで工事に着手した、と表現しても誇張ではないだろう。もう一つ驚かされるのが何の工事かが全く書かれていないこと。県の様式がそうなっているのだろうか、これでは工事の目的も、最終的にどのようなものができるのかも分からない。理由としては二つ考えられる。一つは行政の縦割り主義。都市計画課が扱うのは盛土だけ。工事の概要は他の部局が担当するからそちらの書類に書いてある、という考え方だ。もう一つは添付の図面で分かるという考え方。しかし添付の図面にあるからといって「届出書」に工事の中身(目的や最終構築物など)を書かないのは不自然にしか見えない。しかも添付の図面は全面的に黒塗り(非公開)だ。この違和感が単なる違和感ではない、つまり重大な意味を持っていることがあとで分かる。

工事前(左)と工事開始後の写真=「宅地造成又は特定盛土等に関する工事の届出書」の添付図面より

10㌧ダンプ7万台分

「届出書」の内容を続ける。〈工事をしている土地の面積〉は21万2093平方㍍。サッカーコートにして30面分ほどだ。〈盛土又は切土の高さ〉は最大75㍍。これは25階建てのマンションに相当する。〈盛土又は切土をする土地の面積〉が21万2093平方㍍で、盛土量は40万4859立方㍍。この量もすごい。仮に10㌧ダンプで運ぶとざっと7万台分。〈工事着手年月日〉は2025年3月24日、〈工事完了予定年月日〉が2029年12月31日となっている。

「届出書」には地形図や平面図など36枚の図面が添付されているが、すべて黒塗り。最終ページの図面に添えた2枚の写真だけが開示されていた。それぞれの写真説明は〈着手前(撮影日:2025.3.24)〉と〈着手後(撮影日:2025.3.24)〉。着手後の写真にはバックホウ(重機の一種)が写っている。「届出書」の〈工事進捗状況〉には〈掘削〉と書かれているので、バックホウで掘削している写真だと分かる。

着手当日だからだろうか、工事途中の写真というより道路端のような現場にバックホウを置いただけのように見える。どう見てもバケットで路肩をひとすくいした程度にしか見えない。意味不明なこの写真が、しかし手続き上は重要な意味を持つ。この写真を根拠に県は21万2093平方㍍(21.2㌶)を改変(造成)する工事の途中であると認めたからだ。要するに、バケットひとすくいの写真で県は「10㌧ダンプ7万台分の工事が行われている」と追認した。それによって21.2㌶・40万立米の大工事が法の網から外れることとなった。

当たり前だが、県には県民の生活と安全を守る責任がある。「書類を出してきたから受け取った」的な軽い行為だったとは考えられない。事業者(電発)と周到に打ち合わせし、関係部局で慎重に検討したはずだ。最も合理的な推測は、「バケットひとすくいでも工事を始めていれば規制法にはかからない」と双方が合意した上で「届出書」の提出に至った――と考えること。「届出書」の工事面積が21.2㌶になっているのも双方合意の上だろうし、「届出書」に工事目的が書かれていないのも合意の上かもしれない。推測しかできないのは情報が開示されないからだ。情報公開請求をしても肝心な書類は黒塗りばかり。肝心なところを県民は知らされていない。

2025年3月21日付の「保安林内作業許可決定通知書」。許可された作業面積は3.1617㌶

許可は3.16㌶、届け出は21.2㌶

県民にとって、「届出書」の穴を埋めるのは保安林伐採関係の書類だ。本山町を管轄する嶺北林業振興事務所に2025年2月20日付でジェイウインドから「保安林内作業許可申請書」と「保安林内立木伐採届出書」が出されていた。申請書の方は3月21日付で「許可決定通知書」が返されている。それらの書類によると、作業の目的は風力発電施設のための作業道建設。作業期間は2025年3月21日から2027年3月13日までで、作業面積が3.1617㌶、作業道の長さは1.2㌔。延長1.2㌔の作業道を建設するために2027年3月まで3.1617㌶の保安林を改変する、ということだ。

盛土規制法の「届出書」と合わせると、こうなる。➀2025年2月20日、ジェイウインドが「保安林内作業許可申請書」と「保安林内立木伐採届出書」を提出。申請面積は3.16㌶、目的は作業道建設。②3月21日付で県が3.16㌶の保安林内作業を許可。期限は2年後の3月13日。③3月24日、バックホウが作業道の掘削工事を始める。④4月1日、盛土規制法の運用開始。⑤4月16日、バックホウの稼働を根拠にジェイウインドが「工事中」の届け出を県に出す。届出面積は21.2㌶。⑥県都市計画課がそれを受理。「工事中」を追認することで21.2㌶が盛土規制法の網を外れた。

お気づきだろうか。3.16㌶に対する許可が、届け出では21.2㌶の工事になっている。作業道造成の第一歩、バックホウのひとすくいが21.2㌶という大工事(大部分は未許可)の始まりだと県が認めたことになる。

8月26日にはネパールと中国の国境で大規模な土石流災害が起き、数千人規模の犠牲者が出た。世界中に流れた防犯カメラやスマホの映像は、想像を絶する土石流の威力を見せつけている。いったん崩れたらすさまじい被害を伴うからこそ、日本では盛土規制法ができたのだが…。猶予期間(経過期間)を利用してバケットひとすくいの工事を実施、それをもって盛土規制法の網をすり抜けるような業者が出れば規制は骨抜きになる。豪雨等で盛土が崩壊した際、そのような業者が誠実に対応するのだろうか。

標高1000メートル近い本山町の山中で進む作業道の造成工事。1.2キロ分のみ許可されている=ドローンより

作業道だけか、発電施設を含むのか

さらなる問題は、盛土規制法で届け出た21.2㌶がいったい何の工事かということだ。保安林関係の書類を見る限り、その工事は作業道の造成としか考えられない。書類には最終的な作業道の長さが7.8㌔と書かれている。許可を得たのは1.2㌔だから、6.5分の1。1.2㌔の改変面積3.1617㌶に6.5を掛けると20.6㌶。作業道建設に伴う最終改変面積は20.6㌶程度になると推測できる。事業者が明らかにしている風力発電施設の全体土地改変面積は22.5㌶なので、21.2、20.6、22.5という3つの数字が出たことになる。

似たようなこの3つの数字は何なのか。道義的にはあり得ないが、作業道を含む発電施設建設工事全体の改変面積を表している疑いは否定できない。盛土規制法をすり抜けた21.2㌶の中に大規模風力発電施設の本体工事面積まで含まれているのではないか、という疑惑だ。21.2㌶が風力発電施設全体の造成まで含むのなら盛土規制法に絡む今後の申請はもう必要ない。保安林の伐採と造成は1.2㌔分で許可を得ているから、同様の申請を6回ほど繰り返したら前例踏襲で許可は出るだろう。作業道の名目で必要な造成をやってしまえば、労せずして風力発電施設は出来上がる――。盛土規制法の趣旨を考えれば県がこのような筋書きを認めるはずがない。現実的な問題として、作業道の改変だけで風力発電施設ができるとも思えない。つまり常識的にはあり得ない。

大規模風力発電施設を造る際、最も土壌改変面積が多いのが作業道の建設だと言われている。しかしそれだけではない。風車一基ごとに0.5㌶ほどの風車ヤードを造成する必要がある。そこに大型クレーンを据え、タワーやブレードを組み立てる。大型風車を安置する基礎部分の改変も規模は大きい。広く平たんに、かつ地中深くまで掘る必要があるからだ。変電所や開閉所用地も造成する必要がある。工事に使う仮設ヤードや資材置場も造成が欠かせない。ほか、排水施設や調整池、沈砂池、運転管理棟、電気設備建屋、駐車場なども造成を伴う。残土処分場や土取場もゼロにはできないだろう。おそらくそれらすべてが残土規制法に引っ掛かる。

今後も盛土規制法に沿って許可申請をするはずだ、と思っていたら矛盾にぶつかることになる。発電施設建設に伴う最終的な土地改変面積は22.5㌶。盛土規制法をすり抜けた21.2㌶を引くと1.3㌶分しか残らないのだ。風車ヤードだけでも12基×0.5㌶で5~6㌶の土地改変が必要だとみられている。変電所や仮設ヤード、資材置き場、建屋などの分を考えると、残りの土地改変が1.3㌶で収まるはずがない。これはどういうことか。最終的な土地改変面積が大きく増えるのか。そうなると発電施設そのものの大幅な計画変更が欠かせない。では盛土規制法をすり抜けた21.2㌶の中に本体工事も入っているのか。しかし道義的にも現実的にもそれはあり得ない。

推測に推測を重ねるしかないのが現状だが、遠からず結果は出る。大規模風力発電施設の本体工事に入る際、ジェイウインドが盛土規制法の許可申請を新たに出せば現在の「届出書」は作業道の造成に関するものだったと分かる。その申請がないまま作業道以外の工事に入れば「届出書」は全体工事を含んでいたということだ。あり得ないことが起こったことになる。(つづき)

(C)News Kochi(ニュース高知)

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