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高知発「風力発電と保安林」➆指定解除前に伐採済み?

四国一の大河川・吉野川の水源でもある高知県本山町、香美市、大豊町の尾根筋で計画されている大規模風力発電事業で、工事用作業道が注目を集めている。事業の成否を握るのは全域を覆う保安林指定の解除だが、それを得るまでもなく作業道の造成で保安林の多くが消えるのではないか。つまり作業道造成が保安林解除の「抜け穴」なのではないか、という疑惑が浮上しているのだ。(依光隆明)

国見山風力発電事業の予定地には電源開発の巡視路標識杭が立っていた。同社の送電線網が予定地近くを通っていることを表している=高知県本山町

一期工事は造成済み?

電源開発株式会社が子会社のジェイウインド(いずれも本社東京)を使って進める「高知県国見山周辺における風力発電事業」(国見山風力発電事業)。なぜ電源開発なのか、の理由の一つは「縄張り」だと推測できる。吉野川本流、本山町と土佐町の境界には1975年供用開始の早明浦ダムがある。現在でも総貯水量は全国9位。香川県や徳島県に送る水を貯めるというその重要さから、「四国のいのち」とも形容されてきた。その早明浦ダムで、電源開発は発電分野を担っている。つまり本山町を中心とする嶺北地域ではなじみのある企業であり、国見山風力発電事業の実施主体として違和感がない。さらに大きな理由として既設送電線網の存在が挙げられる。電源開発は魚梁瀬ダムを中心とする県東部の奈半利川水系でも発電を行っていて、魚梁瀬ダム―愛媛県西条間に「奈半利幹線」という18万7000ボルトの送電線網を持っている。早明浦ダムもその送電線網に接続しているのだが、国見山風力発電事業の予定地は奈半利幹線に極めて近い場所にある。

電源開発が発表した「2026年度供給計画の概要」によると、国見山風力発電事業の発電施設(この文書では「A発電所」となっている)から延びる送電線路名は(仮称)「嶺北国見山分岐線」。接続先は奈半利幹線132号鉄塔と記されている。注目されるのは亘長(こうちょう=送電線路の延長)の短さで、なんと100㍍。国見山風力発電事業の予定地を奈半利幹線が通っている、と言っていいほど接続する送電線網が近い。ちなみにこの資料では着工が「2027年度以降」、使用開始が「2028年度以降」となっている。

電源開発が国見山風力発電事業の本格調査に入ったのは2018年12月。地元住民の中に知らない人が多い状態のまま、2024年4月に環境影響評価(環境アセスメント)まで終了した。陸上風力では日本最大級となるローター径117㍍の風車を尾根筋に12基並べる計画で、土地の改変面積が22.5㌶、樹木の伐採面積は21.4㌶。環境省が運営する環境アセスのデータベース「EADAS」などで調べると、予定地(民有林)の全域が農林水産大臣によって水源かん養保安林に指定されている。

水源かん養保安林の指定解除はハードルが高く、よほどの公益的理由がないと不可。保安林に指定されたままでは風力発電施設の建設はできないので、国見山風力発電事業の成否は保安林指定の解除にかかっていた。ところが2025年6月に地元地区の一つが全戸投票によって保安林解除への不同意を決定する。ただでさえ困難な保安林解除が、これによって決定的に難しくなったと見えたのだが…。電源開発は計画遂行の姿勢を崩さなかった。2025年3月に始めた作業道の造成工事をその後も進め、2026年3月には第一期作業道工事の終着予定地まで造成を終えたとみられている。ただし一期工事が完工したわけではない。県治山林道課の上田芳也課長によると、「(一期工事は)現在は休工中」とか。完成予想図面が非公開なので、完成後の姿を県と事業者以外は知りようがない。

2025年2月20日付でジェイウインド社長が県嶺北林業振興事務所長に出した保安林内作業許可申請書の別紙「作業許可に係る事業計画書」より。管理用道路というのが作業道のこと。全長7.8㌔のうち1.2㌔が第一期工事だと記している

水源かん養保安林3㌶を皆伐

作業道(行政文書では「管理用道路」)をめぐる複数の不審点をあぶり出したのは、高知県が開示した資料群だった。情報公開請求によって開示されたそれら関連公文書は、黒塗りの多さで特徴づけられる。特に作業道造成工事に絡む情報はほとんどすべてが黒塗り。「協議記録」の黒塗りも目立ち、例えば次のような県側の問いに対する電源開発側の回答はすべて真黒く塗りつぶされていた。

〈道路部分も保安林解除にする思いはないか?〉〈風車ヤード標準断面図では、大きな造成が必要であることが分かるが、どういった理由か?〉〈管理用道路標準断面図にある道路企画で輸送は可能なのか?〉〈新設される盛土規制法の影響はないか?〉〈盛土部分については安定計算を行うのか?〉〈風力発電事業では保安林にかかる場合が多いのか?〉〈全国で保安林解除して風力発電施設を建設した事例はあるか?〉などなど。回答が黒塗りなので、電源開発側の考え方は全く伝わってこない。

数少ない開示部分の中で目が留まったのは、2025年2月20日にジェイウインドから県へ提出された「保安林内作業許可申請書」だ。添付された別紙「作業許可に係る事業計画書」に、「事業量」を全体と保安林に分けてこう書いていた。

まず全体。〈管理用道路:延長1.2km(全長7.8kmのうち)、車道幅員4.0m、面積3.2918ha ※以降の造成区域については順次申請を実施予定〉。次に保安林部分。〈管理用道路:延長1.2km(全長7.8kmのうち)、車道幅員4.0m、面積3.1617ha ※以降の造成区域については順次申請を実施予定〉

これによって保安林3.1617㌶を含む全体工事面積が3.2918㌶だと分かる。保安林部分を除いた面積は0.1301㌶。その正体は「現況」の項に載っていた。法定外公共物(里道)が0.1022㌶、法定外公共物(水路)が0.0279ヘクタール。公図に残る山中の小径や小さな流れ、いわゆる赤線、青線のことだ。現在は市町村が管理している。

保安林3.1617㌶の改変内容は、同日付でジェイウインドから県に提出された「保安林内立木伐採届出書」の別紙に明記されていた。〈伐採の方法:皆伐〉。皆伐、つまり雑木も含めてすべてを伐る計画だ。道路上の木を伐採するのは当然だが、ことはそう単純ではない。それは後で触れる。続いてこう書かれている。〈伐採する立木の樹種および林齢:次の通り=スギ52~72年生、ヒノキ40~59年生、クヌギ43年生、その他広葉樹72年生〉。環境面で欠かせない〈伐採跡地について行う植栽の時期〉は、〈管理用道路の供用終了後〉。これは道路が存在し続ける限り植林しないことを意味している。肝心の〈供用終了〉がいつなのかは書かれていない。風力発電施設の建設までか、施設撤去までか、施設撤去後も存在するのか。行政的解釈で文意を読み解くと、少なくとも仮設の道路ではないと解釈できる。半永久施設と考えた方が、可能性としては高い。

作業道の入り口。車止めの奥には縄が張られている

「森林の施業・管理に有効利用」

作業道が仮設ではなく半永久施設として造成されるであろう理由はその13日前、2025年2月7日付のある文書に紐づいていた。開示された文書名は「森林の施業・管理に必要な施設として管理用道路を利用することについて要望書」。あて先はジェイウインドの社長で、差出人は黒塗り。文面はこうなっている。

〈御社がご計画中の風力発電事業に伴い開設される管理用道路の周辺地域は、大半が保安林で水源のかんよう等の公益的機能をもった森林であるとともに、多くがスギ・ヒノキ等の人工林であり優良な木材生産地となっております。当森林では森林所有者による日々の整備・手入れ等が行われておりますとともに、治山事業・造林事業が施行されていることから、御社が開設される予定の管理用道路は、森林の施業・管理に有効に利用できるものと考えています。開設後は森林所有者並びに森林施業を行う者に共用されたく要望します〉

保安林に指定されると固定資産税はかからない。かといって森林施業が全くできないわけではなく、県が決めた厳しい施業要件の下で行うことができる。上の文書(これも公文書)は、森林所有者(と思われるが、黒塗りなので森林所有者本人なのか、そもそも実在の人物かどうかも不明)が風力発電用に作るこの作業道を森林施業に使わせてほしいと要望したことを表している。

要望を受けて2月20日付で県へ出した「保安林内作業許可申請書」は、保安林改変の目的を〈風力発電施設に係わる管理用道路(兼森林施業用)建設のため〉とした。つまり「兼森林施業用」を付け加え、以下を明記した。〈目的達成後の取り扱い:株式会社ジェイウインドが維持管理し、事業継続の限り作業許可の更新申請を行い供用を継続する〉。風力発電事業が続く限りこの道路は存在しますよ、森林施業に使わせてあげますよ、ということだ。こう書くとあたかも善意で森林施業に使わせてあげるように見えるが、内実は違う。

保安林内に風力発電施設建設用の作業道を造成する場合、前提として欠かせないのは保安林の指定解除。言葉を変えると、保安林に指定されたまま林内で作業道を造成するのは不可能となっている。ほとんど唯一、それを忌避できる(保安林の指定を受けたまま作業道を敷設できる)のが森林経営に寄与すること。2025年4月に改訂された林野庁治山課の「保安林の指定解除事務等マニュアル(風力編)」にはこうある。

〈保安林を森林以外の用途に転用する場合は、その解除が原則となります。ただし、保安林の指定目的の達成に支障がない、すなわち、森林の公益的機能の発揮を阻害することのない森林経営上で想定される範囲内での小規模又は一時的な行為や、保安林の指定目的の達成に寄与すると認められる行為については、保安林の解除によらず、作業許可により保安林に指定した状態で管理しながら土地の形質変更等を行うことを可能としています〉

整理すると、3重の重い扉があるように見える。①水源かん養保安林の機能を果たし続けること②小規模または一時的な行為であること➂森林施業にも使うこと――。①と②は県のさじ加減次第だと言っていい。「3㌶くらいなら水源かん養に影響がない小規模改変だ」と判断することもできるし、その逆もできる。③はさじ加減ではどうにもならない。森林施業をする主体(森林所有者など)が存在しないと成立しないからだ。➂の扉を開けた「鍵」が、先に示した「管理用道路を利用することについて要望書」だった。森林施業にぜひ使いたい、というこの要望書があってこそ作業道の造成が実現した。

作業道の建設申請を出す直前にそのような都合のいい要望が出るのは不自然ではないか、と考える人もいる。要望書を出したのは県の林業振興事務所ではないか、と疑う人すらいる。さすがにそれは考えづらいし、提出者が県自らであれば差出人名が黒塗りされるはずがない(個人情報に当たらないため)。とはいえ黒塗りなので虚実を調べようもない。疑惑は疑惑として残るしかない。

ドローンから見た作業道=2026年3月

27㍍×1.2㌔で保安林皆伐

「作業許可に係る事業計画書」に戻る。この文書により、延長1.2キロの作業道建設で3.1617㌶の保安林が皆伐されることが判明した。計算してみよう。簡単な計算だ。31617(平方㍍)÷1200(㍍)=26.35㍍。母数を改変面積の3.2918㌶にすると、27.43㍍。同じ文書には車道幅員4㍍、総幅員5㍍と書かれている。つまり道路幅は5㍍だが、実際は平均27.43㍍幅で保安林を皆伐し、赤線や青線を改変していることになる。30㍍近い幅で尾根近くの水源かん養保安林を皆伐し、切土や盛土で作業道を作る。法面は高く、切土部分も盛土もすさまじく多いことが想像される。

保安林内に作業道を作る際、道路の幅員は厳格に定められている。基本になるのは1970年の林野庁長官通知「保安林及び保安施設地区の指定、解除等の取扱いについて」で、「車道幅員が4メートル以下」とされた。2025年改訂の「保安林の指定解除事務等マニュアル(風力編)」でもそれがそのまま踏襲されている。書類上、今回の作業道は車道幅員4㍍、路肩を入れて全体幅5㍍。しかし可能性として、延長1.2キロのすべてでそれが守られているかどうかは分からない。問題は、住民がチェックしようにも縄が張られて入れないことだ。中に入らなければ違反があるかどうかは分からない。住民からの具体的な通報がなければ県も動かない。開示された「協議記録」には県が電源開発側に「道路にゲートは設置する予定か。地主さんとはそのような話をしているか」と尋ねたことが記録されている。電源開発側の回答は黒塗りだった。

ドローンから見た作業道=2026年3月

本工事前に保安林がない?

「作業許可に係る事業計画書」でさらに注目すべきは〈延長1.2km(全長7.8kmのうち)〉の部分だろう。この文書は事業の実施期間を2025年3月14日から2027年3月13日と明記している。その期間(第一期)につくり上げる作業道が全長7.8㌔のうちの1.2㌔。割合にして6.5分の1ということだ。つまり第一期工事に6.5を掛ければ最終の全体像が浮かび上がる。第一期工事に伴う保安林皆伐面積3.1617㌶に6.5を掛けると、20.55㌶。第二期以降もこのままの調子で作業すれば、保安林20.55㌶が伐採される可能性がある。

明らかになっている国見山風力発電事業の最終形は〈土地の改変面積22.5㌶、樹木の伐採面積21.4㌶〉。20.55㌶は、最終的な伐採面積の96.03%に達する。もちろん20.55㌶は机上の数値だが、発電施設が着工できるかどうかも分からないうちにほとんどの保安林が伐られる懸念を払拭するすべもない。なにより電源開発は〈以降の造成区域については順次申請を実施予定〉という方針を明らかにしている。山の形状に違いがない以上、同様のやり方で作業道の造成を続ける可能性が高い。

この問題に取り組む室谷悠子弁護士(大阪弁護士会所属)は、電源開発が細切れで申請を出す点に不審の目を向けている。保安林内への作業道建設は〈保安林の指定目的の達成に支障がない〉〈小規模又は一時的な行為〉などの厳しい条件が付けられている。「小規模ではない、水源かん養林の機能に影響する」と判断せざるを得ない大規模計画でも細切れに申請すれば認められるのではないか、国見山のケースはまさにそれではないか、という疑惑だ。保安林の改変が6.5倍の面積になる、推定20㌶に及ぶ、ということは申請書類をよく見れば分かる。そこまで視野に入れて県が許可を出したのか、3㌶という目先の申請数値で判断したのか、開示書類からは見えてこない。

保安林の指定解除には触れないまま保安林内に作業道が造られ、気が付けば風力発電予定地の保安林がほとんど伐採されている――。おそらくその段階では保安林解除の申請すら出ていない。保安林解除が国見山風力発電事業の焦点だと思っていたら、解除を申請するまでもなく保安林から樹木が消えている可能性があるということだ。解除を目指すのではなく、作業道を造成して保安林をなくしてしまう。にわかには信じられない裏技だといえる。

樹木がなくなっても保安林指定が消えるわけではない。しかし樹木がなくなった保安林指定が意味をなすだろうか。室谷弁護士は「事業者が保安林解除を申請するとき、『実質的な森林面積は4ヘクタール』等と書くのではないか」と話す。森林が少ないので指定の意味はない、として計画予定地の保安林指定が解除される可能性はないのだろうか。森林法第26条には「指定の理由が消滅したときは、遅滞なくその部分につき保安林の指定を解除しなければならない」というくだりもある。国見山風力発電事業の最も高いハードルが保安林問題なので、指定解除は発電施設着工と直結する。

以上が開示資料から見える一端だが、驚くことはまだあった。(つづく)

(C)News Kochi(ニュース高知)

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