中山間

松山市で西原博之さんの「偲ぶ会」 記事集め追悼出版、西予市では記念展も

昨年(2024年)の8月20日に64歳で亡くなったNews Kochiのメインライター、西原博之さんの「偲ぶ会」が8月2日、松山市内で開かれた。西原さんがNews kochiに書いた記事を一冊にした書籍も同日出版された。一周忌にあたる20日からは西予市で記念展も開かれている。(依光隆明)

西原さんの遺影の横で参加者が次々と思い出を語った=2025年8月2日、松山市内

環境問題に健筆ふるう

西原さんは愛媛県北条市(現松山市)の出身。九州大学生物学科から愛媛新聞に入り、生物の視点を踏まえた切り口で環境問題に健筆をふるった。傍ら特定非営利活動法人愛媛昆虫類調査研究機構に所属し、四国のオサムシを研究。News Kochiには2023年12月の立ち上げ直後から参画し、意欲的に記事を書いていた。ところが2024年7月にモンゴルで昆虫調査を行ったあとに体調が悪化。翌月20日に松山市の病院で亡くなった。

「偲ぶ会」は西原氏と親しかった元愛媛県議の阿部悦子さん、テレビ愛媛OBの松田孝雄さんらが実行委員会を作って企画した。会場は松山市内で、会場内には西原さんが自ら採集したチョウやオサムシ、カブトムシなどの標本を並べた。

百数十年に一度しか咲かないといわれる竹の花を持って西原さんの思い出を語る写真家の河野豊さん

川石はぐって「清流度」確認

「偲ぶ会」には約50人が出席。西原さんの取材を受けた人、西原さんと一緒に仕事をした人が次々とマイクを握って思い出を語った。

取材を受けた思い出を話したのは、「棚田写真家」の河野豊さんや「土居町の水と緑を生かす会」の近藤孝夫さん、東宇和自然史研究会の和氣岩男さん、山本森林生物研究所の山本栄治さんなどなど。農業アイドルの自死をめぐって深刻な報道被害に遭った松山市の佐々木貴浩さんはメッセージで参加した。

次々と語られたのは、西原さんの行動力と切り口を象徴するようなエピソードの数々。愛媛県土居町を流れる浦山川を小規模ダムから守ろうと活動する近藤さんは、「現地に案内したら西原さんはさっと川に入って、石をはぐって『カワゲラがおる。この川は清流じゃ』と。懇切丁寧に説明してくれました」。現地調査に同行した阿部さんが「山道からあっという間に川まで駆け下りて、『一つ目の石をはぐったらカワゲラがいた、すごい清流だ、愛媛県でも屈指の清流だ』と言っていました」と言葉を添える。阿部さんは「帰りの車の中、西原さんは『記事はもう書けてるよ、頭の中で。記事は現場で書くものだ』と言っていました。もう驚いちゃった」とも。

企画展「昆虫標本と新聞記者西原博之の昆虫研究の歩み」のちらし。9月8日まで開催中

9月8日まで西予で企画展開催中

西予市産業部ジオパーク推進室の大森悠紀さんは、小学生のときに西原さんの書いた「えひめのチョウ」(東宇和自然史研究会編著、愛媛新聞社刊)を読んで生物学の道に進んだ。この書籍の基になったのは、2000年から2002年にかけて西原さんが愛媛新聞に連載した「生き残れるか愛媛のチョウ」。西原さんは愛媛に生息するチョウのほぼすべて、114種を採集してこの書籍をつくり上げた。大森さんは自身と「えひめのチョウ」のかかわりを説明しながら、8月20日から西予市城川町の四国西予ジオミュージアムで行う企画展について紹介した。

名称は「西原コレクション寄贈記念 四国西予ジオミュージアム昆虫展―昆虫標本と新聞記者西原博之の昆虫研究の歩み―」。西原さんの標本が同館に寄贈されたことを記念して開く。9月8日まで(火曜日休館)。観覧無料。

館のある西予市城川町は肱川支流の黒瀬川が流れていて、「謎の地質帯」と呼ばれる黒瀬川構造帯の由来ともなっている。黒瀬川構造体は、日本列島ではほかに見られない古生代(約5.4億年前から2.5億年前)の岩石群がある場所。ゴンドワナ大陸の一部だったのではないかという説もあり、黒瀬川構造体の岩石はジオミュージアムの目玉の一つとなっている。黒瀬川構造体は西予市から西は九州、東は高知県、和歌山県と中央構造線と平行に延びていて、高知県とも関係は深い。

宇和島時代の西原さんを語るえひめ南農協組合長の吉見一弥さん

カラオケは「ガッチャマンの歌」

「偲ぶ会」では西原さんと親しく付き合った人々もマイクを握った。えひめ南農協組合長の吉見一弥さんや愛媛県議会議員の武井たか子さん、西原さんが愛媛新聞の社会部時代、競い合って特ダネを出した元愛媛新聞社会部長の谷川哲也さんたちだ。宇和島支社長時代の西原さんと親交を深めた吉見さんは、「カラオケに行くと『ガッチャマンの歌』を歌っていました。『正義』や『真実』というものを腹に持っていた。『僕は書きたいんだ』という思いを話してもいました」。西原さんと同年代だった谷川さんは、社会部時代の思い出や愛媛新聞を定年退職したあとに関連会社で西原さんと机を並べて仕事をしたことを紹介した。谷川さんは西原さんの死後、News Kochiのメンバーに加わっている。

西原さんの妻、正子さんは西原さん愛用の虫取り網を持って出席、参加した人たちと西原さんの思い出を語り合っていた。

『愛媛で行き、書いた―記者 西原博之―』。「偲ぶ会」当日の8月2日に出版された

News Kochiの記事を書籍に

「偲ぶ会」に合わせて出版された書籍は『愛媛で行き、書いた―記者 西原博之―』。News Kochiの記者だった7カ月の間に書いた記事16本のほか、「惜別」や阿部さんの追想などが載っている。発行は「西原博之さんを偲ぶ会」実行委員会。印刷・製本は松栄印刷所。定価1700円プラス税。問い合わせは実行委員会の阿部さん(090-3783-8332)へ。

(C)News Kochi(ニュース高知)

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