中山間

高知発「風力発電と保安林」⑤「植民地化」という構図

電源開発株式会社(本社東京)が四国山地で計画している大規模風力発電施設の建設について、同社は計画地を覆う保安林の指定解除を待たずに準備工事を進めている。工事実施主体は完全子会社のジェイウインドで、2025(令和7)年3月に大規模な作業道建設を開始、現在は「防災工事」の名目で土地の改変を続けている。この風力発電事業を不安視する声は根強くあり、同年6月には地元地区の一つが保安林の伐採に反対の意思を表明、先行きは不透明なままになっている。(依光隆明)

国見山の尾根筋を北方の本山町方面から見る。後方の尾根に高さ144メートルの巨大風車が並ぶ。右に広がる棚田が吉延地区。この棚田でできるコメのおいしさは全国的に高く評価されている=Google Earthより

日本最大級が尾根に12

高知県本山町、大豊町、香美市にまたがる「高知県国見山周辺における風力発電事業」(国見山風力発電事業)。2018(平成30)年12月から本格調査に入り、2024(令和6)年4月に環境アセス(環境影響評価)まで終了した。陸上風力では日本最大級となるローター径117㍍(高さ144㍍)の風車を尾根筋に12基並べて発電する。総出力(最大出力)は5万400㌔ワット。土地の改変面積は22.5㌶、樹木の伐採面積が21.4㌶。電源開発の2019年3月期決算資料には最大出力が9万4600㌔ワット(94.6㍋ワット)と明記されているので、もともとはさらに大きな規模の計画だった。

既に作業道の敷設まで始めているが、問題は計画地がすっぽりと保安林に指定されていることだ。ほとんどが解除の難しい水源かん養保安林になっており、保安林解除が実現するか否かが計画の成否を左右するとみられている。

過半数の世帯が反対

2025年6月、保安林解除に反対の意思を明らかにしたのは計画地の西端付近に当たる本山町大石地区だった。全69戸で投票し、保安林解除に「同意する」が29戸、「同意しない」が37戸、無効が1戸。地区の過半数が記名の上で保安林解除に反対を意思表示し、地区として保安林解除に同意しないことを決めた。

計画地一帯の保安林解除を決めるのは国だが、判断には県知事の意見を尊重する。県知事が「ダメ」の意見を出しているのに国が保安林を解除する可能性はゼロに近い。県知事は市町村長の意見を尊重して意見を決める。市町村長は住民意思を尊重して態度を決めるから、地元住民の意思表示が最も重要ということになる。地元地区が明確に反対の意思を示した以上、普通に考えれば保安林解除は極めて難しい。

大石地区周辺の保安林には触らないように計画を変更するのではないか、という声も地元にはあった。当初、電源開発の陸上風力事業部は「計画変更うんぬんというところはまだ弊社の中で考えてはいない」と明かし、その上で「2029年度発電開始という当初目標は変更しない」と話していた。2026(令和8)年2月末までに電源開発は計画変更を明確に否定する方針を決め、現在は「地元の理解を得たうえで、あくまで予定通りの計画で保安林解除を目指す」としている。前年6月直後のスタンスは「(大石地区が出した結論を)ひっくりかえすようなことを考えているわけではない」だったが、それが変化する可能性もある。

規制緩和というウルトラ

可能性からいえば、ウルトラⅭ的な奥の手がある。

これまで書いてきたように(特に連載②)、国は保安林解除のルールを規制緩和しようとし続けている。典型は、2025(令和7)年3月に林野庁長官が出した通達だ。保安林解除へ地元の声をどの程度尊重するか、そのルールを微妙に変えた。事業者に〈直接の利害関係者等の同意の有無、地域住民の動向等を的確に把握〉を課していたのを、〈直接の利害関係者等の意見、地域住民の動向等を的確に把握〉に。つまり「同意の有無」を「意見」に変えた。小さな変更だが、意味は大きい。字面通りに読めば、意見を聞き置けばOK。同意を取らなくていいことになってしまう。極端な話、地区集会に数回出席しただけで事業者が「意見は伺いました。様々な声があることは承知いたしました」として保安林解除の申請を出すことも想定される。

林野庁治山課は「従来通りの運用(同意が必要ということ)を続ける」と言っているのだが、いつまで続けられるのかは分からない。大規模開発は力関係で決まる。事業者の力が強ければ字面通りの解釈で突き進む可能性はゼロではない。林野庁長官通達を盾に、事業者が「保安林解除の申請を認めろ」と県や市町村に裁判を起こすこともできるのだ。裁判するぞ、と言うだけで県や市町村が折れると踏む可能性も十分考えられる。「住民意見は聞きました」で事業者が保安林指定の解除を申請し、県や国が「法的には認めざるを得ない」とコメントして伐採を認める。茶番のようなそんな筋書きが現実となるかもしれない。

事業者への不信感を説明する「高知・本山の風力発電と暮らしを考える会」の加藤和代表=高知県庁2階、県政記者室

環境影響評価書を閲覧させず

計画実現の鍵を握るのが県や市町村の姿勢だ。事業者は住民の動き以上に行政の姿勢を探っている可能性がある。再生可能エネルギーや地権者の収益、土木建設産業に対する考え方の比重と、防災や住環境維持、自然保護、一次産業に対する考え方の比重は県や市町村によって大きく違う。行政のスタンスによっては住民よりも行政側にアプローチした方が結果につながるからだ。実際、大規模開発の多くは行政を実質的な味方とすることで実現してきた。

行政の姿勢を懸念し、2026(令和8)年2月末には「高知・本山の風力発電と暮らしを考える会」(加藤和代表)が高知県庁を訪問、治山林道課長に計画中止を求める約2万6000筆の署名(オンライン署名を含む)と要望書を手渡した。引き続いて行われた記者会見で、加藤代表は「環境影響評価は住民が知らないまま行われ、ほとんどの住民が知らないまま閲覧期間が終わっていた。『(環境影響評価書を)閲覧させてほしい』と申し出たが、会社に拒否された」と説明。住民説明会も「2018年から19年にかけて行われたが、ほとんどの住民は知らないまま。会社は『実施した』としているが、現実として多くの住民は知らないままだった」と電源開発に対する不信を表明した。

会見で強調したのは環境への影響だ。風車の高さは144㍍に達する。「45階建てのビルが回っているのと同じ。自然環境への影響は計り知れない」と加藤代表。隣に座る猪股史事務局長は「美しい棚田が広がる吉延地区で祖父母から引き継いで田んぼを作っている。国見山で生まれた水が吉延の田んぼを守っている」として、水源かん養林を守る必要性を訴えた。住民の不安材料は湧き水や地下水の減少、地すべり災害の危険、低周波公害、渡り鳥を始めとする動物への影響など多岐にわたる。加藤代表は工事に伴う盛土の危険性にも言及した上で、「県は保安林の伐採許可を出さないでほしい」と強く訴えた。現在、「防災」名目で作業道工事が行われていることにも不信感を示し、「(この大規模風力発電事業が)なぜ影響がないと言えるのか、事業者側にぜひ説明をしてほしい」と呼び掛けた。

高知県土佐町と本山町にまたがる四国最大の早明浦ダム。「四国のいのち」と形容される=Google Earthより

「高知県をワヤにすな!」

県庁を訪れた「高知・本山の風力発電と暮らしを考える会」のメンバーは約10人。治山林道課長に署名と要望書を渡したあと、その中の一人が課長に向かって声をあげた。「国見山には土佐藩の参勤交代道がある。それを業者に壊されたくない」。声の主は1995年から2003年まで2期8年、土佐郡選出の県議会議員を務めた川田雅敏さん(79)だった。川田さんの声には怒りがこもっていた。「吉野川は自分たちの誇りだった。その吉野川は早明浦ダムの建設で死んじゃった。自分たちはそれをもう何十年も我慢している。国見山も県民にとって誇れる山であり、歴史的な山だ。今度は国見山を潰すのか。僕はほんと、高知県をワヤにすな(馬鹿にするな)という怒りでいっぱいだ」

早明浦ダムは堤高106㍍、総貯水量3億1600万立方㍍を誇る四国最大のダム。四国の真ん中、高知県本山町と土佐町にまたがって建設され、四国最長河川の吉野川をせき止めて水利や発電、洪水調節に供している。四国3県、中でも香川県には香川用水を通じて大量の水が送られていることから「四国のいのち」とも呼ばれている。高度成長期に構想され、試験湛水開始が1973(昭和48)年、運用開始は1975(昭和50)年。このダムのために上流の高知県大川村は役場を含め全世帯の半分以上が水没した。その後も濁水被害やダム直下の浸水被害、流量低下、生態系の変化、河川漁業の壊滅など、ダム周辺の住民は継続して多大な影響を受けている。

発電量を見ると、早明浦ダムの最大出力は4万2000㌔ワット。国見山風力発電計画の5万400㌔ワットはそれを上回っている。ただし風力は水力よりも安定性がないため、年間の発生電力量は早明浦ダム(公表値で年129㌐ワットアワー)と同程度になると思われる。早明浦ダムの発電を担うのも電源開発なので、国見山の風力発電事業が実現すれば同社は本山、土佐町という嶺北地域で二つの大規模発電所を持つことになる。電源開発は香川県と岡山県を結ぶ延長100キロの本四連系線も持っている。本州と四国で電力をやり取りする幹線だが、四国から本州に向かう量が圧倒的に多い。つまり四国は電力供給地だといえる。

計画地に広がる水源かん養林の写真と吉延の棚田の写真とを掲げ、大規模風力発電によって森林が伐採される影響を説明する「高知・本山の風力発電と暮らしを考える会」の猪股史さん=高知県庁2階の県政記者室

〈一方的受益者〉と〈一方的被害者〉

風力発電は水力発電以上に「リスクは地方が負い、利益は都市が享受する」という構図が鮮明に現れる。尾根を切り拓くことで災害の危険が増し、山の保水機能も劣化する。水の問題は繊細で、良質かつ豊富な水で営まれる地元の一次産業、二次産業がダメージを受ける危険性がある。巨大風車の低周波音は住民や家畜に健康被害を及ぼす可能性があるし、バードストライク(渡り鳥の衝突)など動植物への影響も少なくない。景観の変化による山岳観光への影響もある。

これに対し電気の供給を受ける都市住民は、快適な都市生活や高度な経済活動を、自らの居住圏を汚すことなく継続できる。都市部の企業は地方で発電された再エネ証書(電気の「非化石燃料価値」などを証書化したもの)を購入することで「脱炭素経営」を株主や消費者にアピールできる。さらに重要なのは、経済的利益が都市部に偏重することだ。多くの大規模風力発電は都市部に本社を置く大企業や外資系資本によって行われている。売電収益の大部分は都市部に吸い上げられ、地元に残るのは固定資産税程度。その構図は「エネルギーの植民地化」という言葉が生まれるほど著しくなっている。国策会社として生まれた電源開発自体、コーポレート・ガバナンス報告書には〈外国人株式保有比率=20%以上30%未満〉と記載されている。高知の環境を犠牲にして生み出した売電収益が、国外にまで運ばれる構図になる。

川田さんが憤ったのは、早明浦ダム建設から続く「エネルギーの植民地化」の延長線上にこの風力発電計画があるからだ。「高知・本山の風力発電と暮らしを考える会」の加藤代表が指摘したように、電源開発はこの計画を半ば秘密裏に進めようとしてきたふしがある。電源開発が正面から自信を持って計画を説明できない理由は、〈一方的受益者〉と〈一方的被害者〉という二律背反構造を誰よりも深く認識しているからかもしれない。(つづく)

(C)News Kochi(ニュース高知)

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