シリーズ

高知市による民有地占拠疑惑③理由もなく花壇ができた?

高知市福井町で高知市が市民と係争中の土地を占有している問題は、市行政のありかたに疑問を投げかけている。市が開示する資料を見る限り、占有の決め手となる根拠はない。それでいて占有を続ける態度から見えるのは、「行政のやることに間違いはない」「お上に逆らうな」という尊大さである。尊大さとは裏腹に、市の手続きはお粗末極まりない。一例として、市が自らの主張の補強にした花壇に焦点を当てる。(依光隆明)

あそび山(後方)への橋の入り口に市が占有を示すゼブラを記している

市長が嘘をつく?

前回から間隔があいたので、再びおさらい。

①郵便局と県庁を勤め上げた古谷寿彦さん(80)、滋子さん(78)夫妻が退職金を投じて高知市福井町に土地(地目=原野)を買い、市内の子どもたちが自由に遊べるように「あそび山」と名付けた遊園を作った。公道から水路(国有財産の青線)を渡った先に「あそび山」があるので、夫妻はそこに通路橋を架けようとした。

②夫婦は「あそび山」に向かう通路橋の入り口を民有地である福井町字口ホソ(くちほそ)1805番と確認。詳細な図面をつけて2005(平成17)年1月に通路橋を造る許可を高知市に申請する(公共用財産占使用許可申請)。夫妻の申請を市は認め、岡崎誠也市長が県高知土木事務所に同意書を送った。夫妻は同様の申請書を橋本大二郎知事にも出し、水路を管理していた県高知土木事務所長から通路橋建設の許可を得る。

③通路橋の建設途中に市は橋入り口が市有地である1807番地(北部高地区加圧送水所用地の一部)だと主張し始めた。市の主張を認め、手続きをやり直せと。しかし夫妻がどう調べても橋の入り口は1805番地だった。通路橋は完成、市は橋の撤去を主張する。

④水路の管理は県から市に移る。市は水路使用(水路に通路橋を架ける行為)の更新許可を出さなかった。

⑤2005年9月、夫妻は「あそび山」をオープンさせる。1か月後、高知市は通路橋の入り口に車止めを設置して「あそび山」に車両が入れないようにした。併せて地面上にゼブラ(縞模様)をペイントして占有を始めた。

⑥2006(平成18)年7月、古谷夫妻は車止めを外させるべく提訴したが(通行権妨害排除請求事件)、敗訴。ただし2008(平成20)年の高松高裁判決は橋入り口の土地が市の土地であることも認めなかった。市が自らの主張の根拠として提出した「農道用地実測図」が「公図の位置関係と一致しない」が理由だった。

⑦裁判で係争中の2009(平成21)年12月、市は車止めを外す。

⑧現在、高知市はゼブラを残して所有権を主張。古谷夫妻は1805番地の共同所有者(持ち分2分の1)となり、橋入り口は高知市と古谷夫妻の両者が所有権を主張している。

⑨北部高地区加圧送水所用地購入時に市が作成した売買実測測量図やその際の現況写真は土地所有の根拠になるはずだが、高知市はいずれも「文書不存在」としている。

上記⑥にあるように、市が所有権の根拠とする「農道用地実測図」は市自身が作ったものであり、境界確定の立会人も土地所有者を網羅していない。しかも裁判所も「公図の位置関係と一致しない」を理由に市の所有権を退けている。⑨の通り、売買実測測量図やその際の現況写真は「文書不存在」。つまり市の所有地だと証明できる客観資料はない。市の主張を裏付ける証拠は何らないまま、市の占有だけが続いている。

所有権をめぐる古谷夫妻が出した市長あての公開質問状に対し、2009(平成21)年に岡崎誠也市長はこう答えている。

「平成18年9月から平成20年2月にかけてなされた個別訴訟の判決において司法の判断が示され、判決が確定しており、結論が出ているものと考えております」

これは事実とは違う。むしろ逆である。司法の判断は「市は車止めを外せ」という古谷さんの主張を認めなかったが、市の土地所有権も認めなかった。土地所有権の所在に関しては結論を出さないまま、「だからといって先の判断(車止めの正当性)は左右されない」というのが高松高裁の判断である。岡崎市長は判決文を読んでいないのか、誤解したのか。それともごまかしたのか、嘘をついたのか。

市みどり課が整備した花壇。長さ11㍍

「越後屋と悪代官を見るようだった」

花壇は「あそび山」に向かう通路橋入り口の横(通路橋に向かって右)にある。左からは市がペイントしたゼブラが延び、その延長に花壇という位置関係である。

大きさは長さ11㍍、幅1.8~3.7㍍、面積33平方㍍。大きな岩石で築き上げている。違和感があるのは、一見して花壇には見えないことだ。植えられているのは木が3本で、あとは何種類かの草がたくさん生えている。

高知市とのやり取りを古谷さんは手記にしている。それによると、2005(平成17)年5月25日に花壇のことで市役所に呼ばれている。待ち構えていたのは山下司助役、筒井章允水道事業管理者、農林水産部長など「管理者多数」。地元町内会長(当時は市議会議員)が申請した「行政財産目的外使用申請」を見せ、市幹部はこう言った。以下、手記より。

〈「だから通路橋の前は水道敷地ですので、人と自転車だけ通ることで水道局に許可申請を出して戴けないでしょうか」と言う。この花壇というのは通路橋のすぐ傍にある石組みの花壇で、〇〇町内会が衛生環境保護のために建てたという〉

〈「市の申し出を認めてくれたら一席設けます」と助役が言ったので、「貴方方と争いをしているのです」と拒否すると、助役をはじめ一同は古谷をこばかにした笑いをする。この場面は時代劇の越後屋と悪代官を見るようで、ここから真実を求め高知市と利権議員の不正を糺すスタートとなる〉

古谷さんが見た「行政財産目的外使用申請」は、水道局用地のうち33平方㍍を花壇の敷地として使わせてもらうための書類だった。この公文書があるから花壇の土地は水道局用地だ、その途中にある通路橋の入り口も当然水道局用地だ、というのが市の主張である。市ナンバー2の助役以下、たくさんの幹部がいたと古谷さん夫妻は振り返る。

市みどり課が作った「設計図」がこれ

要請も目的も起案もない?

NewsKochiは市に情報公開請求をした。この花壇に違和感を感じたからだ。そもそも花壇には見えない。これを見て花壇だと即答できる人がどのくらいいるだろう。植栽はあるから広い意味では花壇かもしれない。しかし…。ここにある必然性を感じない。市みどり課に予算が余っているなら(そんなはずはないが)もっと有効な場所に造った方がいい。

誰が発想し、市役所ではどういう起案ルートでこの花壇ができたのか。開示された資料を見て驚いた。最初に作られた書類は1997(平成9)年1月29日付の「随意契約理由書」「工事仕様書兼請負契約要求決議書」「見積依頼について」だった。花壇の設計図(平面図と側面図)らしきものが添付されているが、ラフに絵を描いただけ。日付はなく、設計者「森岡」と決裁者「岡野」「岡林」「山崎」の印が並んでいる。さらに驚いたのは築造地点で、住宅地図に印をつけたものしかない。書類に書かれてある工事場所は「高知市福井町」のみ。「みどり課長、山崎良矩」名の随意契約理由書にも「鴻ノ森墓地公園に向かう市道に隣接する公共用地」としか書かれていない。

情報公開請求の主目的は、誰がどのような理由でこのような花壇を造ったかを知ることだった。開示資料にはそこが全くない。2005年に山下助役や筒井水道事業管理者らが持ち出した「行政財産目的外使用申請」にある申請者は地元町内会だった。しかし造った当時の書類には地元町内会は全く出てこない。誰がどういう理由でこの場所に花壇を作りたかったのか、誰が市役所に要請したのか。あるいは市内部の誰がどういう理由で起案したのか、誰が決裁したのか、全く分からない。書類を見る限りでは、なんの脈絡もなく設計図が登場し、設計単価を算出して随意契約を結んでいる。ちなみに市が算出した工事請負対象金額は40万7000円で、実際の請負金額は40万2000円(いずれも消費税抜き)。完成は1997年2月10日だった。

位置関係写真。ゼブラの下があそび山への通路橋、右が市水道局の北部高地区加圧送水所(青で着色)、赤で着色した左部分が花壇=Google Earthを一部着色

唐突に設計図だけが登場?

完成日を記した「工事完成届」は同年2月14日に松尾徹人高知市長へ出されていた。松尾氏は元総務官僚で、高知県の財政課長、総務部長などを経て1994(平成6)年から2003(平成15)年まで高知市長を務めた。後継が松尾氏の元で市幹部を歴任した岡崎誠也氏であり、2023年末からは岡崎氏を破った桑名龍吾氏が市長に就いている。

誰の起案もないということは、可能性としては松尾市長または助役クラスのトップダウンかもしれない。しかし起案に絡む書類を廃棄してしまった可能性もゼロではない。などと考え、「(書類が)不存在であればその理由。廃棄による不存在であれば廃棄の時期と決裁、起案をしたものが分かる文書」と指定して再び情報公開請求をした。

市から届いた通知書は、「文書不存在」と明記した上でこう書いていた。「花壇の申請書(要望書)につきましては、取得していないため、存在しません。起案書につきましては、作成しておらず存在しません」

要するに、予算の出費理由を書いた庁内の起案書すら作られていないのだ。意識的かどうか、築造理由やそれを発想した人物、起案者が分からない仕組みになっていた。要請も目的も起案もなく、いきなりラフ図面が登場したという図式である。

高知市ではこれが普通なのだろうか。

山下助役や筒井水道事業管理者が持ち出した「行政財産目的外使用申請」についても開示資料は不審な事実を明らかにした。次回も花壇の問題を続ける。

(C)News Kochi(ニュース高知)

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