自校プール使用を探る高知市教育委員会と、他校プール使用に進む高知市立長浜小。意識の乖離は、両者のちぐはぐな行動につながっていく。聞き取りに基づく市教委の資料が正しければ、という前提だが、市教委が決定する前に長浜小は他校プールの利用を決めていた。(依光隆明)
原則は「自校プール」だったが…
2023年11月に発表された「高知市立学校の今後のプールの在り方に関する答申書」は学校プールに故障が生じた際の方向性を示している。議論を重ね、現場の声を聞いたうえで決めたのは、「小学校は自校プール」という原則。まずは修理をし、自校プールを使う。ただし長期間にわたって使えないことが明らかになれば、〈学校や児童、保護者、児童が希望する場合において〉他校プールを使うことも妨げないとした。答申を出した「高知市立学校の今後のプールの在り方に関する検討委員会」(全15人)には教育現場から高知市立小学校の校長と教頭、高知市立中学校の校長と教頭が各1人ずつ入っていた。小学校の校長代表で入ったのが長浜小の校長である。事務局は高知市教委(学校環境整備課)が務めた。
「自校プール」という答申を出したにもかかわらず、市教委の資料を見る限りでは長浜小の校長は他校プールの利用に前のめりだった。その理由は資料からはうかがえない。一方、市教委は南海中プールの水深を気にしていた。2024年6月4日(時刻不明)、市教委は長浜小の校長から「南海中プールの水深が長浜小と変わらない」という連絡を受ける。市教委が動いたのは翌日午前だった。
市教委が作成した資料を基に、引き続き推移をたどる。
「固形塩素等は現実的でない」
翌5日朝、長浜小では朝の朝礼が行われた。全校児童を体育館に集めた朝礼で、校長は水泳授業について報告した。資料にはこう書かれている。〈水泳授業を南海中、浦戸小で行うこと、1~3年生がバスを使うことを伝えた〉。バスを使うのは浦戸小に行く児童たち。1~3年生はバスを使って浦戸小にまで行くことを伝達した。
市教委の方は同日午前、教育長と教育次長、学校環境整備課で情報共有を図っている。会議を開いて協議したと考えられる。資料はこう表現している。〈教育長、教育次長、学校環境整備課で、長浜小校長からの南海中プール水深報告が共有された。固形塩素投入などで自校プールを使用することも検討されたが、現実的でないとのことで南海中、浦戸小を使用する結論となった〉
さらりと書いてあるが、問題点は多い。共有された「水深報告」とはどのようなものか。「南海中プールの水深が長浜小と変わらない」程度のものか、もっと具体的に水深が報告されたのか。この時点での水深が今後もずっと続くと判断していたのか。なぜそう判断したのか。「水深報告」が「他校プール使用」の鍵となっていた割に重要なことに触れられていない。さらに問題は「固形塩素投入など」を「現実的でない」と結論付けた論議が欠落していることだ。固形塩素投入のほかにどのような代替案があったのか、なぜそれらを「現実的でない」としたのか。そもそもこの時点まで市教委が濾過ポンプ故障の全容を把握していたかどうかも疑わしい。本来、前提になるべきは修理日数のはずだ。ところがこの時点では長浜小からも市教委からも一切それが出てこない。修理日数が分からなければ「どのくらいの期間を固形塩素投入でしのげるか」や「水泳の授業を2学期に固めてできるのではないか」などの案を検討することすらできない。
市教委の決定前に朝礼で発表
もう一つ問題がある。
長浜小の校長は、朝の朝礼で南海中と浦戸小を使って水泳授業を行うことを発表した。ところがその段階では市教委はまだそれを決めていない。資料によると、学校環境整備課の職員が長浜小の校長に〈1~3年生が浦戸小、4~6年生が南海中に決定した〉と連絡するのは午後1時20分ごろである。つまり市教委が自校プールか他校プールかを協議をしているさなかに長浜小の校長は全校教員と全校児童に発表したことになる。バス移動には予算が伴う。小学校の校長だけで結論を出せるはずはないのだが、長浜小の校長は市教委に先駆けて結論を出していた。市教委が内諾を与えていたのか、情報伝達に齟齬があったのか。そこも市教委の資料では分からない。
「プールの深さは変わりません」
午後3時37分、長浜小はメール配信システムを使って校長名の文書を保護者あてに配信する。題名は「今年度の水泳授業(プール)について」。1~3年生は浦戸小、4~6年は南海中のプールを使うと決まったこと、浦戸小には借り上げバスで移動することを知らせた。
保護者の不安を和らげるため、この文書はこう強調していた。
〈南海中学校のプールは、水深1.2~1.4㍍ですが、水を浅く張っているため長浜小学校のプールの深さ(1.0~1.2㍍)とあまり変わりません。尚、細心の注意を払い水泳指導を行いますのでご安心ください〉
水を浅く張っているはずの南海中プールが、実は違っていた。それを知ったあとの長浜小の対応には不可解さがまとわりついている。(続く)