中山間

やなせたかしさんゆかりの古社 漫画天井絵の大川上美良布神社

「あんぱん」効果でにぎわう高知県香美市香北町の「やなせたかし記念館」から国道195号線を隔てた近傍に由緒ある神社がある。「土佐随一」とも評される彫刻でも有名な神社だが、近年は「漫画」でも知る人ぞ知る存在だ。(依光隆明)

空から見た「やなせたかし朴ノ木公園」。何かに見えるような=Google Earthより

やなせさんも一時期暮らす

NHKの連続テレビ小説「あんぱん」の影響でやなせたかしさん(1919~2013)の人生に注目が集まっている。やなせさんは東京生まれだが、父母の出身地が現在の香美市香北町。父は旧香美郡在所村朴ノ木、母は在所村永野の出身だった。父が朝日新聞記者として上海に赴任したとき、残る家族は高知に戻って朴ノ木で暮らす。やなせさんは2歳下の弟、千尋さん(太平洋戦争で戦死)と野山を駆け回っていた。朴ノ木での暮らしは一時期だったが、その実家跡は現在「やなせたかし朴ノ木公園」となり、やなせさんの詩碑の下にやなせさんと妻の暢さんが眠っている。

高知県香美市香北町の大川上美良布神社。古くから崇敬を集めている

流域一帯の総鎮守

「やなせたかし朴ノ木公園」から約3キロ離れた場所にあるのがアンパンマンミュージアムや「詩とメルヘン館」などの並ぶ香美市立「やなせたかし記念館」だ。目の前の国道を渡ると木に囲まれた一画がある。ミュージアム前のあそび場スペースから目と鼻の先と言っていい。老樹に囲まれた中に大川上美良布(びらふ)神社が鎮座する。

境内に掲げられた「略記」によると、1184年前の承和8(841)年にはすでに創建されていた記録があるらしい。物部川の中・上流域に広がる韮生郷一帯の総鎮守として崇敬を集め、嘉永5(1852)年には「神階正一位」を授けられている。社殿は幕末の1865(慶応元)年に起工し、ご一新後の1869(明治2)年に落成した。「略記」には建築を手掛けた宮大工4人の名も連ねてある。

やなせさんがデザインした十二支キャラクター。これが12種のお守りになっている=大川上美良布神社

お守りはやなせさんデザイン

やなせたかしさんゆかりの地らしく、この神社にはやなせさんを始め多くの漫画家が協力をしている。やなせさんが協力したのはお守り。十二支お守り、つまりやなせさんが12種のお守りをデザインした。表にはやなせさんデザインの十二支を大きくあしらい、その上に「やなせたかしの幸運十二支お守り」の文字。裏には「高知県大川上美良布神社」。社務所で販売しているが、時によって品切れの十二支もある。

やなせさん奉納の大絵馬。アンパンマンが海を飛ぶ

拝殿を上がると奉納絵馬の一つにやなせさんの大絵馬もあった。明るさの中に重厚さのある、アンパンマンと仲間たちが海の上を飛ぶ作品だ。2005年6月の署名があるので、亡くなる8年前に奉納されたものらしい。念を入れるためだろう、「お手を触れないように」と注意書きが添えられている。

名だたる漫画家が描いた70㌢×70㌢の天井絵が並ぶ

30人以上の漫画家が天井絵で協力

拝殿から空中回廊を社務所側に進むと、2階建ての真新しい建物に行き着く。正面の部屋に入った瞬間、天井絵の迫力に圧倒された。30人以上の漫画家が描いた十二支+四神(青龍、朱雀、白虎、玄武)の絵だ。いずれも70センチ×70センチの木版に描き、天井にはめ込んでいる。

ちばてつやさん(左)、いがらしゆみこさん(中)、萩尾望都さん(右)の天井絵。ちばてつやさんは四神の「玄武」を描いた=大川上美良布神社の天井絵を一枚ずつ撮影

天井絵を寄せてくれたのは、ちばてつやさん、山根青鬼さん、矢野徳さん、里中満智子さん、萩尾望都さん、いがらしゆみこさんら。長老格のベテランが多く、2022年に亡くなった牧野圭一さん、2024年に亡くなった森田拳次さんも作品を寄せている。萩尾望都さんは四神の「青龍」、いがらしゆみこさんは寅年の虎をモチーフにした。

左上から時計回りにうえやまとちさん、植田まさしさん、西原理恵子さん、山根青鬼さん、里中満智子さん、ビッグ錠さん=大川上美良布神社の天井絵を一枚ずつ撮影

ほか、西原理恵子さん、ビッグ錠さん、植田まさしさん、うえやまとちさん、ウノ・カマキリさんらさまざまな漫画家の作品が天井絵となって存在感を放っている。西原さんは辰年の龍、植田まさしさんは亥年の猪、ビッグ錠さんは卯年のウサギ、うえやまとちさんは午年の馬をモチーフにした。

本殿の横に立っている説明板

宮大工が彫刻でも腕競う

本殿の横には「本殿の彫刻は『土佐随一』」と大書した説明板が立っていた。彫刻を施したのは建築した4人の宮大工(島村安孝、坂出定之助、原卯平、別役杢三郎)。本殿のぐるりにさまざまな彫刻を配置している。江戸後期には社寺専門の彫刻師が腕を振るうが、地方では宮大工と彫刻師の分化が明確ではなかった。この彫刻群は、名工と呼ばれた土佐の宮大工たちが彫刻でも腕を競ったことを表している。どの作品からも火花を散らすような迫力が伝わってくる。

本殿。上部・下部、ぐるりに彫刻が施されている

一に志那祢さま、二に川上さま

秋季大祭は11月2日、3日。神社のホームページには「秋祭りは特に盛大で、一に一宮の志那祢さま(高知市一宮の土佐神社)、二に韮生の川上さまと称され、大勢の人出でにぎわいます」と書かれている。「やなせたかしの幸運十二支お守り」はオンラインでも販売中。神社のホームページからオンラインショップに飛ぶことができる。

(C)News Kochi(ニュース高知)

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