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高知市による民有地占拠疑惑② 頼りの「実測図」は砂上の楼閣

明快な証拠を示さないまま2005(平成17)年秋から高知市が係争地を占拠し続けている問題は、「なぜ?」という疑問に満ちている。なぜ子どもたちのあそび場につながる通路橋を、しかもいったんは建設を許可しながら撤去させるのか。なぜ撤去を求めるほど橋の存在が邪魔なのか。そもそも通路橋の入り口が市有地だという自信はどこからくるのか。News Kochiが情報公開請求して市有地である根拠の提出を求めると、市が出してきたのは2006(平成18)年に市耕地課が作った「農道用地実測図」だけだった。(依光隆明)

北部高地区加圧送水所(左)から「あそび山」(右)の入り口を塞ぐようにゼブラのペイントが延びている

かくして遊園入り口が係争地となった

整理しよう。

①郵便局と県庁を勤め上げた古谷寿彦さん(80)、滋子さん(78)夫妻が退職金を投じて高知市福井町に土地(地目=原野)を買い、市内の子どもたちが自由に遊べるように「あそび山」と名付けた遊園を作った。公道から水路(国有財産の青線)を渡った先に「あそび山」があるので、夫妻はそこに通路橋を架けようとした。

②夫婦は公図などを調べ、「あそび山」に向かう通路橋の入り口を民有地である福井町字口ホソ(くちほそ)1805番と確認。詳細な図面をつけて2005(平成17)年1月に通路橋を造る許可を高知市に申請する(公共用財産占使用許可申請)。夫妻の申請を市は認め、岡崎誠也市長が県高知土木事務所に同意書を送った。夫妻は同様の申請書を橋本大二郎知事にも出し、水路を管理していた県高知土木事務所長から許可を得る。ここまでの手続きに何ら異論はなく、夫妻は業者に頼んで通路橋の建設を始めた。

③建設途中に市は通路橋の入り口が市有地である1807番地(北部高地区加圧送水所用地の一部)だと主張し始めた。橋の入り口が市有地だということを認め、手続きをやり直せ、と。しかし夫妻がどう調べても橋の入り口は1805番地としか思えない。通路橋の工事はしばらくストップしたものの、業者は工事を再開する。市は橋の撤去を主張した。

④2005年3月末に水路の管理が県から市に移る。市は水路使用(橋を架ける権利)の更新許可を出さなかった。橋の入り口が水道局の土地だと認め、水道局に許可を申請しろという指示に夫妻が従わないことが理由だった。

通路橋の入り口を塞ぐ車止め(バリカー)とゼブラのペイント。市は異常な熱意で所有権を強調した(2008年3月)

高知市と市民、両者が土地所有権を主張

⑤2005年9月に夫妻は「あそび山」をオープンさせる。1か月後、高知市は通路橋の入り口に車止めを設置して「あそび山」に車両が入れないようにした。併せて地面上にゼブラ(縞模様)をペイントして所有権を強調した。

⑥2006(平成18)年7月、古谷夫妻は車止めを外させるべく提訴したが(通行権妨害排除請求事件)、敗訴。ただし2018(平成30)年の高松高裁判決は橋入り口の土地が市の土地であることも認めなかった。市が自らの主張の根拠として提出した「農道用地実測図」が「公図の位置関係と一致しない」という理由だった。

⑦裁判で係争中の2009(平成21)年12月、市は唐突に車止めを外す。

⑧現在、高知市はゼブラを残して「橋の入り口は市有地である1807番地だ」と所有権を主張している。古谷夫妻は1805番地の共同所有者(持ち分2分の1)となり、橋入り口は高知市と古谷夫妻の両者が所有権を主張している。

⑨北部高地区加圧送水所用地購入時に市が作成した売買実測測量図やその際の現況写真は土地所有の根拠になるはずだが、高知市はいずれも「文書不存在」としている。

公図より。水色が市有地の1807番地、紫が民有地の1805番地。黄色の辺りが古谷夫妻の主張する通路橋の位置

「土地境界立会確認書」が26枚

2024(令和6)年2月、News Kochiは「通路橋前の土地が高知市有地であることを証明する書類一切」を高知市に開示請求(情報公開請求)した。

出てきたのは、2006(平成18)年に市耕地課が作った「農道用地実測図」とそれに付随する「土地の登記記録一覧表」「所有者面積一覧表」など計8枚だった。土地をめぐる係争が起きた翌年になって市自らが作った実測図が根拠になるかどうかはさておき、この実測図では通路橋が水道局用地から「あそび山」に架かっている。この実測図を元にして市は通路橋前の土地が市有地だと主張していることになる。

「(市の主張を)証明する書類一切」が「農道用地実測図」なのだから、その図に少しでも瑕疵があれば市の主張は崩壊する。では「農道用地実測図」の根拠は必要十分なのか。「農道用地実測図」を成立させる土台は境界確定作業である。全土地所有者が納得の上で境界を確定させていないと正当な図面にはならない。

境界確定作業の実態を知るため、News Kochiは翌3月、1805番地と隣接地の「境界点座標(境界標)を定めた書類一切」を市に開示請求した。

出てきたのは26枚の「土地境界立会(りっかい)確認書」だった。立ち会った日時は2006年6月13日。市の耕地課主任、管財課員、市水道局総務課員、市土木委員の署名がある18枚のほか、市民の署名があるとみられる8枚(開示資料では黒塗り。黒塗りということは市民の署名とみられる)。市民らしき署名がある8枚のうち4枚は「所有者」の署名だが、「代理人」が署名したものが3枚、「管理者」が署名した土地も一つあった。

代理人の場合は土地所有者の委任状が必要だが、それは付いていない。「一切」の書類を請求して出てきていないということは、存在しないと解釈できる。委任状がない以上、この書類だけでは境界は確定できないことになる。

「農道用地実測図」より。水色が市有地の1807番地、紫が民有地の1805番地。黄色が通路橋の位置

「署名、押印ともに本物」

「管理者」の署名があるのは問題の土地、高知市福井町字口ホソ1805番地だった。開示資料では名前と印は黒塗りで、住所だけが記されていた。別の資料で名前(2人の連名)を確認できたため、その住所を訪ねた。

署名したのは親子2人で、父親はすでに亡くなっていた。息子さんは署名、押印ともに本物だと話してくれた。つまり1805番地の地権者も納得した上で「農道用地実測図」ができたことが分かった。

ただしいくつかの疑問は残る。一つめの問題は「管理者」の位置づけだ。管理者とは法律的にどういう存在なのか。単に土地を管理しているだけでは境界確定の権限はない。市管財課に聞くと、そもそもこの「土地境界立会確認書」自体が市役所の様式ではないらしいことが分かった。「管理者」については、「公共の水路等を管理している役所等を指すのではないか」とも。つまり民間の人間を「管理者」としている意味が不明瞭であり、ひいてはこの確認書の有効性に疑問符をつけざるを得ないことが判明した。

関連する問題としてさらに重要なのは、1805番地の地権者が一人ではないことだ。登記簿謄本を見ると、この土地の複雑さが分かる。

「農道用地実測図」を作る際に署名した親子をAさんBさんと呼ぶことにする。1805番地が登記されたのは1890(明治23)年。そのときはAさんの曾祖母が所有していた。1932(昭和7)年に所有権移転がされ、Aさんの父親(Cさん)と市内の別住所に住むDさんが相続する。1980(昭和55)年、Dさんの持ち分をEさんが相続した。この時点での権利者はCさんとEさんになる(2分の1ずつ)。

1989(平成元)年になってCさんの持ち分の3分の1(つまり全体の6分の1)を相続したのがAさんだった。Bさんは2013(平成25)年にAさんの持ち分の6分の1(全体の36分の1)を相続する。

市が開示した1805番地の「土地境界立会確認書」。2006(平成18)年6月13日に「管理者」が立会した

権利分6分の5が立ち会っていない?

「農道用地実測図」を作成した2006(平成18)年時点における1805番地の権利者を登記簿謄本に添って整理すると、こうなる。

①Eさん(持ち分2分の1)②Aさん(6分の1)③Aさんのきょうだいとみられる人(6分の1)④同じくAさんのきょうだいとみられる人(6分の1)

「農道用地実測図」の根拠となる「土地境界立会確認書」に署名したのは、この中ではAさんだけだった。ということは6分の1権利の署名しかもらっていないことになる。

本来、境界立会は相続人全員でしなければならない。現地に行けない相続人からは委任状を取る必要がある。開示資料に委任状がなかったということは、相続人全員の総意で境界が決まったかどうかが分からない。境界確定の専門家は土地家屋調査士だが、開示資料を見る限りでは土地家屋調査士の署名も押印もない。

境界確定が盤石といえない以上、「農道用地実測図」の正当性は大きく揺らぐ。市の主張の根拠が「農道用地実測図」なのだから、市の主張には無理がある。

正当性が不鮮明なまま市民と係争中の土地を市がゼブラペイントで占有している――という事実だけが今も続いている。

(C)News Kochi(ニュース高知)

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