高知市福井町の古谷寿彦さん(81)、滋子さん(79)夫妻が家の近くに「あそび山」を造って間もなく19年。オープン直後から高知市とトラブルになったが、遊ぶ子どもたちにそんなことは関係ない。たくさんの子どもたちが足を運び、駆け回り、歓声をあげた。夫妻の活動を評価してくれるところも多く、2017(平成29)年には社会貢献者支援財団の表彰を受けた。(依光隆明)
安倍昭恵さんから表情状を授与された
社会貢献者支援財団の会長は安倍晋三元首相の妻、昭恵さんで、選考委員長は作家の内館牧子さん。滋子さんの母校、安芸市川北小中学校の卒業生有志が夫妻を推薦した。財団側は池田さんという担当者が高知まで足を運び、「あそび山」の現地を見て、関係者に聞き取りをしたうえで社会貢献者表彰の授賞を決めた。
表彰式は11月27日、東京の帝国ホテルで行われた。滋子さんが振り返る。
「17人まで招待してくれて、そのうち5人分は一泊二日の宿泊費と交通費を持ってくれるゆうて。びっくりするほどの歓待やったがですよ。立食パーティーには日本の名だたる料理店の料理が出ました。素晴らしいお料理でした」
安倍昭恵さんから表彰状をもらい、記念撮影もした。が、受賞者がたくさんいたこともあって(受賞者53組、壇上に上がったのは約30人)、昭恵さんにはあいさつしただけだった。
滋子さんはお祝い金のことも印象に残っている。
「お祝い金を50万円いただいたのですが、『これはあなたたちのリフレッシュに使ってほしい』と言われたがです。普通やったら『あそび山の事業に使ってください』って言うやないですか。それを『むしろそれ以外に使ってください』と。驚きました。
「私財を投じ」「子どもたちに遊びの場を提供」
表彰状には「あそび山」のことが書かれていた。担当者が現地にまで足を運んだからだろう、夫妻の努力が書き込まれていた。
表彰状 古谷滋子殿 古谷寿彦殿
あなたがたは高知県福井町に私財を投じて土地を購入し雑木林や山の斜面平地を活用しログハウスや井戸掘りさらに通路橋の架設や手づくりの遊具などを準備して平成17年に無料で開放し「知らない子ども・異年齢の子どもも一緒に遊びを見つけて自分の責任で遊ぶ」をモットーに竹馬や紙鉄砲などの昔遊びや山の恩恵を活かした季節の行事も取り入れながら地域の子どもたちに遊びの場を提供する「あそび山」の活動を続けられています。よってここにあなたがたの功績をたたえこれを表彰します。
平成29年11月27日
公益財団法人社会貢献支援財団 会長 安倍昭恵
高知市とのやり取りは気が重いことばかりだが、この表彰のことは明るい思い出として夫妻の心を温めている。
「嘘はダメだ、高知市と争います」
2024年8月13日朝、古谷寿彦さんは「これから高知市に道路台帳と土地台帳を情報公開請求する」と意気軒高だった。NewsKochiを読んだ元行政マンからアドバイスをもらったのだ、と。情報公開請求をして市とやりあうのは専ら寿彦さんだが、バックには滋子さんがいる。もともと「あそび山」を発想したのは滋子さんだし、実は高知市と係争の姿勢を固めたのも滋子さんの気持ちが固まっていたからだった。寿彦さんが言う。
「滋子がソーレ(県男女共同参画センター)の館長を最後に県を退職したとき、再就職の声がかかったがですよ。けんど彼女は『高知市と闘うために就職はしません。高知市と争います』と宣言をして就職口を蹴って。それで私も『よっしゃ』と。『そこまで腹を決めたがやったら闘おう』と」
寿彦さんによると、滋子さんが強調していたのは「嘘はダメだ」ということ。長く県庁で勤めてきた滋子さんにとって、高知市の幹部たちが嘘を重ねる構図が許せなかった。寿彦さんが続ける。
「就職先の声がかかったようですけどねえ、第二の職場を放棄してまで頑張る決意がありましたのでねえ…」
高知市のやり方はあまりにも不当、「あそび山」を助けてほしいと署名活動もした。友人、知人が駆けつけてくれ、高知市の街頭でも署名を募った。集めた4000筆の署名は高知市役所に持って行った。
のちに古谷夫妻はもうひとつ署名活動に手を染める。2014(平成26)年、「憲法9条をノーベル平和賞に」という運動が起きたとき、滋子さんは「これはやらんといかんろう」と言い、新聞に投稿もした。寿彦さんも協力した。「私が看板作って帯屋町で署名活動したんですよ」と寿彦さん。署名活動に協力する人は多く、県内で1万5千筆を集めて実行委員会に送ることができた。いいと思ったら自らやる。ダメなものはダメと主張する。それが古谷流だと言っていい。
お役所という権威と権力
高齢になったので夫妻は「あそび山」の処分も考えている。売却のネックになるのは「あそび山」に通じる通路橋の入り口部分を高知市が占有し続けていること。占有しているにもかかわらず、高知市はその土地が市有地だという明快な証拠を示すことができていない。大事な書類は「不存在」と説明し、説明はくるくる変わり…。ころころ変わる担当者を前に、寿彦さんは高知市からさまざまな書類を引き出そうと努めている。占有している以上、高知市は今のままでも困らない。困っているのは売ろうにも売れない古谷さん夫妻の方だ。
通路橋の入り口は古谷さん夫妻も所有権を主張している。市が明快な根拠なく所有権を主張するのも大問題なのだが、それを認めても係争地であることには変わりはない。古谷さん夫妻と高知市、その両者が所有権を主張しているからだ。そのような係争地を高知市は一方的に占有し、対抗して古谷さんが縄を張ろうとしたら警察を呼んで古谷さん側に拘束の恐怖を感じさせた。立場が逆だったら警察は決して出動してくれない。市役所に言われたからからこそ警察は動いた。おそらくそこが係争地とは知らないままに。
やることがいかに理不尽であっても、ずさんであっても、行政には権威と権力がある。一個人と比べると、その権威と権力はすさまじく大きい。寄る年波に焦りを感じつつ、古谷さん夫妻は次の一手を探している。
(いったんこのシリーズを終わりますが、進展があれば再開します。NewsKochiでは桑名龍吾高知市長へのインタビューも申し入れています。その結果も報告します)