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なぜ学校で…。高知市立小プール死をめぐる疑問⑬第三者委員会を覆う霧

高知市立長浜小学校の4年生が水泳授業中に溺れて亡くなった問題を究明する第三者委員会が、議事を非公開としたことに波紋が広がっている。市長部局も議会も第三者委員会に下駄を預けて動かないのに、第三者委員会の議論が全くわからないままでいいのか、という声が出ているのだ。なぜ調べられる側の教育委員会に第三者委員会が置かれたのか、という疑問も消えていない。(依光隆明)

長浜小学校児童プール事故検証委員会メンバー。弁護士と専門家に集まってもらった

「可能な限り詳細に事実関係を解明したい」

高知市立長浜小学校の4年生が水泳授業中に溺れて亡くなった問題で、高知市は高知市教育委員会の付属機関として第三者委員会「長浜小学校児童プール事故検証委員会」を立ち上げた。委員は県内の弁護士2人と県医師会会員、県臨床心理士会会員、県外の大学教授2人、県外の中高校教員の計7人。事務局は教育委員会が務め、植田浩二教育次長(プール事故後に作られた重大事案検証室の室長)がトップを務めている。

第1回検証委員会は8月24日に開かれた。議事録によると、高知弁護士会の皿田幸憲委員が同弁護士会の中内功委員を委員長に、鳴門教育大の松井敦典教授を副委員長に推薦。異議なく2人が正副委員長に就いている。松下整教育長が中内委員長に諮問書を渡し、以下のように読み上げた。

〈令和6年8月24日。高知市立長浜小学校児童プール事故検証委員会委員長様。高知市教育長、松下整。高知市立長浜小学校児童プール事故の検証等について。諮問。高知市立長浜小学校児童プール事故検証委員会条例第2条の規定に基づき、下記の事項について、貴委員会の意見を求めます。記。令和6年7月5日に高知市立南海中学校のプールで発生した高知市立長浜小学校児童のプール事故に係る事実関係の把握、発生原因の分析及びプール事故の再発防止策について。どうぞよろしくお願いします〉

中内委員長は以下のようにあいさつしている。

〈教育委員会が調査した事案の概要についてはこのあと説明があると思いますが、当検証委員会においてはその事案の概要を当然の前提とはせず、中立的な視点で事案全体を検討しつつ、集まった専門家の皆さんの知識、経験を活かして多角的な視点で可能な限り証拠資料を収集し、本件がどのような経緯、経過に基づいて発生したのかについて、可能な限り詳細に事実関係を解明したいというふうに思っております。その上で本件の原因を分析し、再発防止策等を検討して報告書として取りまとめたいと考えておりますので、委員の皆様方よろしくお願いいたします〉

注目すべきは教育委員会の説明を前提とせず、〈可能な限り詳細に事実関係を解明したい〉と決意を述べたことだろう。問題は中内氏の決意を担保する日程と事務局態勢になっているかどうか。児童を含む関係者からの聞き取りを考えると、日程に余裕があるとは思えない。では事務局態勢はどうか。

日弁連の「地方公共団体における第三者調査委員会調査等指針」にある事務局要件

日弁連の「指針」から外れる?

行政関係の第三者委員会について、日本弁護士連合会は2021年に「地方公共団体における第三者調査委員会調査等指針について」を発表している。冒頭の「趣旨」にはこうある。〈第三者調査委員会は、その名称のとおり、第三者によって公正・中立な立場から調査等を行うものであり、事案の関係者が調査の主体となり、又はこれに加わって調査の主体の一部となるものではない〉。当然のことを書いているだけだが、今回の検証委員会はどうか。検証委員会の事務局=教育委員会は〈事案の関係者〉なので、事務局が〈調査の主体の一部〉となってしまったら第三者委員会の枠をはみ出す可能性がある。かといって事務局が動かないと聞き取りも資料収集も進まない。事務局が十二分に機能しながら、しかし〈調査の主体の一部〉にならないというのは簡単ではない。

そもそも検証委員会事務局が教育委員会内に置かれていいのか、という問題も消えない。先の「指針」には「事務局」という項目がある。その2にはこう書いている。

〈第三者調査委員会の公平中立の観点から,地方公共団体内に設置される事務局は、調査対象に利害関係のない部署に所属する職員をもってあてることが望ましい〉

今回のプール事故は高知市立小学校の児童が高知市立中学校のプールを使って水泳授業をしていて起きた。しかも小学校のプールが故障し、教育委員会の許可を得て中学校のプールを使っていて溺れたのである。当然、まず調べられるのは教育委員会に他ならない。調べられる側の教育委員会ナンバー2が事務局長を務めるような第三者委員会が公平中立を担保できるのだろうか。日弁連の「指針」と照らし合わせると、胸を張って公平中立を宣言できる構図には見えない。本来、第三者委員会は市長直轄で市長部局に作ることができた。なぜ調べられる側の教育委員会に第三者委員会を任せてしまったのか、うがった見方をすれば市長部局の責任逃れにも見える。

7月10日の内部文書「7月臨時会開催に当たっての協議事項等」より。第三者委員会(検証委員会)の所管をどこにするか迷っている

当初は市長部局に置く案だった?

第三者委員会事務局をどこに置くか、実は市は迷っていた。

7月30日と31日、第三者委員会立ち上げに関する条例や予算を盛り込んだ臨時市議会が開かれた。それに向け、市財務部は「7月臨時会開催に当たっての協議事項等」と題した内部文書を作っている。日付は7月10日。プール事故があったわずか5日後である。そこには「協議事項」として第三者委員会のことが以下の通り載っている。

〈第三者委員会の所管は教委か、いじめ問題のように、独立性を持たせるということで市長部局(総務部)所管とするのか〉

この段階では第三者委員会を教育委員会の付属機関とするのか、市長部局に置いて市長直轄にするのか、迷っていたのだ。

その2日前、7月8日には市役所内で庁議(市長出席の幹部会)が行われている。その際、庁議資料として副市長の弘瀬優氏の名で文書が配られた。名称は「プール事故に関する今後の役割分担(案)」。事故からまだ3日とあって、保護者や児童のケアを誰が担当するか、議会、警察、県教委、文部科学省、マスコミへの対応をどの部局が担うか、等々を書いている。その中の「今後の対応」の項目に「第三者検証委員会の設置、運営」があった。それによると、担当は教育委員会ではなく市長部局の「総務部」。やるべき内容は「タイムスケジュール作成、メンバー選出(弁護士、学識経験者、PTA)」とある。

時系列をたどると事故から3日後の7月8日には総務部が第三者委員会を担当していて、5日後には第三者委員会を総務部に置くか教育委員会に置くかを迷い、7月30日の臨時議会で教育委員会に置くという条例案を提出した流れになる。

当初は総務部が担当した第三者委員会が、どういう論議を経て調べられる側の教育委員会に置かれることになったのか。なぜ第三者委員会の公平中立を揺るがしかねないリスクを冒してまで教育委員会に置かれなければならなかったのか。合理的な理由が見つからない以上、謎としか言いようがない。

ちなみに7月8日の文書には「訴訟」の項目があり、「課題、弁護士選任」と書かれている。事故3日後に早くも市は訴訟対応を始めていたことになる。

7月8日の庁議資料から。第三者委員会を総務部が担当することになっている

守秘義務も厳しくしていた

8月24日の第1回検証委員会に戻る。中内氏の発言に続いて事務局トップの植田教育次長が守秘義務についてこう説明した。

〈本検証委員会委員は、高知市立長浜小学校児童プール事故検証委員会条例第9条の規定に基づき、委員の職を退いた後を含めて、本検証委員会で知り得た秘密について漏らしてはならないこととなっておりますので、よろしくお願いをいたします〉

高知市が作った「高知市立長浜小学校児童プール事故検証委員会条例」で、守秘義務はこう定められている。

〈職務上知り得た秘密を漏らしてはならない。その職を退いた後も同様とする〉

そのことを植田氏は説明した。高知市は新たに作った検証委員会条例によって委員に守秘義務を課したことになる。これも日弁連の「指針」から外れている。

「指針」では「守秘義務」は以下のように書かれている。

〈➀委員は、調査に当たって得た対象事案の関係者に関する秘密を調査終了後も秘匿しなければならない。➁合議体が構成された場合において、合議の内容を秘匿すべき秘密とするかどうかは、その合議体の判断による〉

対象事案の関係者に関する秘密は秘匿しなければならない。が、論議の内容を秘密にするかどうかは委員会に任されるというのが「指針」の趣旨だ。高知市の条例は委員に有無を言わさず守秘義務を課している。

守秘義務の説明後、事務局から委員に事案の概要説明が行われた。そのあと植田氏が会議の公開非公開について説明している。この問題は大切なので、詳細に議事録を追う。

日弁連の「地方公共団体における第三者調査委員会調査等指針」より。議論の秘匿については委員会自体に判断を委ねるべきだとしている

途中経過報告の可否は決めず

教育次長の植田氏が「会議を公開することにより、公正または円滑な審議が著しく阻害され、会議の目的が達成されないと認められるとき」には非公開にできることを説明、それを引き取って検証委員長の中内氏が〈委員長として私の意見を述べたい〉として以下のように述べた。

〈(事実解明へ)多くの関係者に対しヒアリングを行うことが想定されております。ヒアリングの日程等が事前に判明すれば、第三者からの接触により、その供述が影響される恐れもございます。また委員会での議論内容により、ヒアリングの対象者の証言内容やその証言者が特定される可能性があるというふうになれば、ヒアリングにおいて関係者の自由な供述が阻害され、供述が萎縮する恐れもございます。そうなれば、当然、当検証委員会としても円滑に審議を行うことができなくなる恐れがあると考えております〉

その上で、中内氏はこう言った。

〈以後の会議全体を非公開とすべきと考えております。委員の皆さんのお考えはいかがでしょうか〉

長岡技術科学大学教授(新潟)の斎藤秀俊委員が〈委員長の御意見はもっともだと思いますので、私は非公開でいきたいというふうに、同じように提案したいと思います〉と発言。さらに〈会議の内容としては非公開でよろしいんですけれども、その1回1回の会議で、例えばまとまったことを、こういったものは記者会見するような、そんな何かお考えはございますでしょうか〉と質問。

成城学園中高専任教諭(東京)の松本貴行委員が〈途中、途中がはしょられた形で情報が開示されることを懸念しますし、我々の委員会の最終目的は報告書を上げること、そこにしっかりと集中すべきだというふうに思っていますので、その都度の発表というのも、私は非常に難しいではないかなというふうに考えます〉と発言。中内氏が〈ほかに御意見はございますでしょうか〉と会場の声を聞き、「なし」という声を受けて会議を非公開とすることを決めた。

大切なのは、斎藤氏や松本氏が口にした〈その都度の発表〉については諮られていないことだ。会議は非公開としたが、途中経過の報告については決めていない。つまり議事録を見る限り、途中経過報告ができないという根拠は存在しない。

8月24日の第1回検証委員会議事録より。途中経過報告については結論を出さなかった

「議会への報告」に前向き答弁なし

非公開を決めたあと、傍聴をしていた報道陣や市議会議員は会場(市たかじょう庁舎6階大会議室)から退室させられた。傍聴していた市議会議員は3会派・計7人だったとみられる。教育委員会の付属機関は公開が原則で、桑名龍吾市長も原則公開を強調していただけに、突然の退室命令に憤りを感じる議員もいた。

非公開の最大のリスクは論議の推移が見通せないことだ。検証委員会は途中経過報告をするともしないとも決めていない。仮に経過報告がなかったら、3月末とみられる報告書公開まで市民は何らの情報を得ることもできない。いや、市民の代表である議会ですら何の情報も入らないことになる。そんなことでいいのか、市当局は市民の関心が低まるを待っているだけではないか、などの声がすでに噴き出している。

市民の懸念をさらに高めているのが高知市議会の動きだ。検証委員会の立ち上げが理由なのか、9月定例会の質問でプール事故を取り上げる議員は驚くほど少ない。

数少ない質問が出たのは9月12日午前、共産党の宮本直樹議員が登壇したときだった。宮本議員は「今議会開会中に常任委員会に(検証委員会の)審議内容を報告すべき。今後も検証委員会が開かれるたび、適切な時期に常任委員会へその内容を報告するべきだ」と教育長に質問した。教育長の答弁は「検証委員会で会議の非公開が決定しているので、今議会での報告は予定していない」「今後、検証委員会から教育委員会に途中経過の報告があれば検証委員会の判断を仰ぎながら必要に応じて議会常任委員会への報告も検討する」だった。大切なのは報告を求めるべく検証委員会に要請することなのだが、前を向いた答弁はなかった。議会にすら途中経過報告が行われないという可能性は消えていない。

第三者委員会(検証委員会)は8月から来年3月末までに8回の会議を開き、事実関係の究明と原因分析、再発防止策について報告書をまとめる予定になっている。8回の会議で十分な検証ができるのか。調べられる側の教育次長が事務局トップを務める第三者委員会で公平中立が保てるのか。途中経過報告はするのか、しないのか。そもそもなぜ検証委員会を教育委員会の付属機関にしなければならなかったのか。事故を解明するはずの第三者委員会自体、晴れない霧に包まれている。(続く)

高知市議会9月定例会=2024年9月9日

(C)News Kochi(ニュース高知)

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