中山間

諏訪湖の「御神渡り」今季もできず。7年連続の不出現

世界的にも珍しい583年の湖面観察記録が残る長野県・諏訪湖の「御神渡り(おみわたり)」は、2025年も不出現宣言で観察の幕を閉じた。583年間で御神渡りができなかったのは81回目。近年は御神渡りができる年が稀になっていて、不出現は7年連続になる。(依光隆明)

結氷した諏訪湖面に走る氷の山脈。これが発達すると「御神渡り」に認定される(2018年、諏訪湖)

2月11日に「明けの海」を宣言

御神渡りというのは結氷した湖面を横断する氷の山脈のこと。諏訪湖が全面結氷したあと、日中と深夜の寒暖差が激しいときに出現する。御神渡りが出現しない年のことを「明けの海」と表現するが、前回の御神渡り出現は2018年の2月。翌19年以来、「明けの海」が続いている。

御神渡りをつかさどる八剱神社(諏訪市小和田)が2025年の「明けの海」を宣言したのは2月11日だった。1月5日から始まった観察会は立春の2月3日で終了したが、皮肉にもそのあと諏訪は冷え込んだ。宮坂清宮司は「自然は正直です。零下8度、9度が2日続くと諏訪湖の全面を氷が覆います」。その通り、2月10日は湖面の95%が氷で覆われた。といっても厚い氷ではなく、「2㌢くらいの厚さ。氷に覆われた諏訪湖は美しいですけどね、日差しも強く長くなっていますから」。朝方張った薄氷は日中になると溶ける。11日朝、観察会が終わったあとも観察風景を見に訪れていた人々を前に、宮坂さんが「明けの海」を宣言した。

湖面の95%が結氷した諏訪湖(2025年2月9日午前7時半、諏訪市の立石公園から)=小松香緒里さん撮影

7年連続は室町以来?

八剱神社の氏子たちが書き続けた御神渡りの観察記録は1443(嘉吉3)年の分から残っている。宮坂さんによると、「1507年の記録に『8年間神渡りなきにより』とあります。室町時代末期、戦国の時代ですから戦乱のためにきちんと記録されなかったのかもしれないし、実際に御神渡りが8年間できなかったのかもしれません」。観察記録は2025年で583年目となるが、7年連続で「明けの海」となったのは室町末期の8年間に続く長さとなる。「明治維新のときにも4年できなかったので、4年というのは何度かありますが…」と宮坂さん。「地球温暖化を象徴しているのかもしれません」。

記録が残る583年間のうち御神渡りができなかったのは81回で、出現率86.1%。かつては9割以上の確率で御神渡りが出現したのに、ここ7年は連続して不出現。宮坂さんは「基本的に冷えが少ない」と話す。「零下10度が3日続けば諏訪湖は全面結氷する」と言われているが、ことし零下10度に達したのは1度だけだった。「7年連続でできないということは、中学生でも御神渡りを見た人の方が少なくなったということです。文化の伝承という意味でも、これは大変なことです」

観察を続けてきた宮坂清宮司(右から2人目)ら八剱神社の関係者たち(2025年2月10日)=小松香緒里さん撮影

氷を話題に談笑できる幸せ

ことしも御神渡り観察には多くの人が訪れた。「いろんな人が集まってきて、それぞれの思いで湖面を見つめています。遠くから来る人が多いですね」と宮坂さんは言う。「多い日が100人。(明けの海を宣言した)2月10日も75人来ました」。午前6時間、まだ暗いうちに諏訪湖岸に来て、寒さに震えながら観察風景を見る。観察が終わると宮坂宮司を囲んで思い思いに談笑し、「氷が張ったらいいね」と知らない人同士が声を掛け合う。「世界で戦争が起きているこんな時代だからこそ、氷のことを話題にしながら話ができる幸せを感じます」と宮坂さん。来年1月、再びいろんな人たちが集まり、諏訪湖を覆う氷の張り具合に一喜一憂することになる。

(C)News Kochi(ニュース高知)

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