1996(平成8)年、日本で初めて開通した大規模林道(緑資源幹線林道)が高知県から愛媛県にかけて伸びる「東津野―城川線」だった。2007(平成19)年の官製談合事件によって建設事業は同年12月に廃止されたが、建設途中の道路は「各道県からの要望」として生き残った。(西原博之)
愛媛、高知も生き残る
各道県に国から下される交付金の名は「山のみち地域づくり交付金」となった。
農水省(林野庁)の森林居住環境整備事業の一環で、国の補助率は3分の2。この事業は後に内閣府の「地域自主戦略交付金」となり、農水省の「農山漁村地域整備交付金」の対象事業として継続されている。全国で計画進行中であった17道県のうち愛媛、高知など14県が生き残った。
延びたのはわずか数キロ
愛媛県と高知県は2008年度から建設を引き継いでいる。愛媛県林業政策課によると、完成済みの「東津野-城川線」(全体計画延長41.9キロ)を除き、緑資源機構から引き継いだ残りすべての路線を継続して建設中だ。
列記すると、◇「小田―池川線(計画延長37.6キロ、引継時の完成延長25.5キロ、現在の完成延長25.5キロ、進捗率67.7%)」◇「日吉―松野線(計画延長52.7キロ、引継時の完成延長13.7キロ、現在の完成延長16.2キロ、進捗率30.8%)」◇「広見―篠山線(計画延長56.4キロ、引継時の完成延長30.2キロ、現在の完成延長33.9キロ、進捗率60.1%)」
引き継いでから15年を越してなお、工事は進んでいる。ただし進捗率は遅く、引き継いでからの延長はどの路線も数キロ単位である。その数値からは道路自体の必要性の低さが読み取れる。ちなみに2024(令和6)年度の当初予算では2億4800万円を計上し、「日吉―松野線」と「広見—篠山線」の一部を整備する事業に充てる。このペースでは完成は見通せない。利用できる時期も見通せない。
「林業ではなく道路づくりが目的」
大規模林道事業のチェックを続ける山本森林生物研究所の山本栄治さんは、「地方自治体はやめようにもやめられないジレンマをかかえている」と指摘する。「年間数メートル程度の工事をなんとかこなしているのが現実だ。道路の幅員の何倍も法面の高さがあるような道路をつくって、どうやって木材を搬出するのか。本来、林道をつくれないような急斜面に、無理やり作っている。単価は膨大になる」と続けた。「森や林業のためでなく、道路づくりが目的の事業だ」と。
工事の困難さゆえだろうか、「日吉―松野線」は移管後、2車線から1車線に縮小して建設され続けている。
愛媛県林業政策課は「全線開通している東津野—城川線では、間伐などの森林整備が促進さえるとともに、この地域の木材生産に寄与しています」と話していた。そのコメントが現実を反映している証拠は何もない。
「公共事業をつくるのは官僚でも政治家でもない」
自然を破壊する一方、地域住民にも恩恵をもたらしているとは到底思えない公共事業がどうして存続しているのか。大規模林道反対運動をリードした「大規模林道問題全国ネットワーク」元事務局長の加藤彰紀さん(千葉県市川市)は、「公共事業をつくるのは官僚でも政治家でもないはず。地元・地域に暮らす人々とともに考え、つくり上げる事業であるべき。日々地域で暮らす国民、一人ひとりの声と願いが反映されなければならない」と話す。上から降ってくる事業であってはいけないということだ。「次代に生きる子どもたちが、健やかに暮らせる社会を」と加藤さんは願っている。
今も大規模林道は山を荒らし、生物を追いつめている。そしてこれからも大きな負担となって環境を壊し、維持管理に当たる地方財政を圧迫し続ける。失われた自然と、滅んでいった生物たちは、この人間の営為を見つめ続けている。(大規模林道シリーズおわり)